第34話 熱帯の孤島

 なんと、ヤマちゃんのスレイプニルとユキのグラーニは親子おやこだった。2頭は静かに寄り添って、再会を喜んでる様に見える。

 俺達は、ヤマちゃんの【転移門】でミスルム国に移動して、それぞれの神獣にまたがった。


 そして俺は神獣の力を思い知らされる。

 ヤマちゃんにゴーグルと防護マスクを渡された時には笑っていたのだが、飛んだ瞬間にその必要性を感じざるを得なかった!


 キィイイイイインッ!


 戦闘機ですかっ!



「グ、グラーニッ! おっ、落ちるぅぅぅ!」

『ユウリ、風圧を受けない様にバリアを張るのです』


「前面に【物理障壁】展開!」

 ピッキィイイイイインッ!



「ふぅ、乗る前に言ってよ~」


 ヤマちゃんを見ると涼しい顔で地上を見回していた。


 1時間程飛んだだろうか、ヤマちゃんが前方を指差したので、そちらを見ると大きな港町が有る。

 それがガルナの町だった。


「こんなに早く着くとは思ってませんでした」


「はははっ、今日はこの町を見物して1泊するぞ」


「はい」



 着陸すると、スレイプニルとグラーニは変身して、フレイヤとユキの人間姿に成った。


「ラナちゃん(グラーニ)、他の姿でも良いんだよ」


「ふふふっ、良く監視する様に、王妃様とお嬢様に頼まれましたので、この姿で大丈夫です」


「はぁ、はいはいっ。羽目を外さない様に気を付けろって事だよね……」


「やれやれ、だから黙って行こうと言ったのじゃ」



 貿易が盛んな港町らしく、レストラン・パブ・娼館などが立ち並び結構華やかだ。

 しかし文字通りの『異次元レベルの美女』2人(本当は馬だけど)を同伴しているので、呼び込みも娼婦もまったく近づいてこようとしなかった。


「レストランで美味おいしい物を食べよう」


 ヤマちゃんがこの町で1番高級そうな店を指差した。


「はい。そうしましょう」




「お薦めの酒と料理を4人分でテーブルを埋め尽くしてくれ!」


 ヤマちゃんがウエイトレスにそう言うと、彼女は慌てて奥に入って行く。

 すぐに年配の男性が挨拶に来た。


「いらっしゃいませ。当店の支配人のヨンコンです、奥の貴賓室にご案内させて頂きます。どうぞこちらへ」


 絵画や壺が飾ってある個室に案内されて、4人(2人と2頭)で酒と料理を堪能した。

 魚の甘酢餡かけやスパイシーな牛ステーキ等が美味しかったが、土地固有の目新しい料理は特に無かった。

 貿易商人を相手にしてる店だから、ホクオー国とあまり変わらないのかな?


 ヤマちゃんが選んだ高級ホテルも普通だったし、いわゆる南国リゾート風のホテルは1軒も無かった。



 次の日の朝食は、ホテルのレストランでパンとスープを食べた。

 悪目立ちしてたのか、お約束のカラミは無く。少し期待してた自分が居たことを反省した。


「ユウリ、異世界小説みたいに『チートで無双して、俺ツエエエッ』をしたかったのか?」


「実際にはそうそう無いですよね、漫画の読み過ぎですね」


「ワシが薄い本で、お主の事を書いてやろう。無双とハーレムとBLを盛ってな」


「えぇとっ。もちろん仮名で、ですよね」


「本名でも誰だか判らんと思うぞ」


「いいえっ、仮名でお願いします。妻も居るし子供も生まれるのですから」


「そんな物かの~」


「はいっ!」




 ホテルをチェックアウトして、空をかける為に人目を避けて町の外へ向かった。


「おい、ちょっと待ちなっ!」


 突然、6人のチンピラに前後を囲まれる。


「出ましたっ!」


 俺は思わず声に出してしまった。



「有り金全部と女を置いて……ゲフンッ」


 喋ってた男の鳩尾みぞおちにラナちゃんの後ろ蹴りがヒットする。

 男は崩れ落ちて泡を吹き痙攣けいれんしてしまった。


 更に続けざまに、スレイプニルの回し蹴りで2人が吹っ飛ぶ。


 ドッガガァアアアアアンッ!!

「「ウグゥゥッ……」」



 バッチィイイインッ!

 ヤマちゃんのデコピンで男の首がガクンと後ろに曲がり、そのまま気絶した。


「あわわわわっ……」

「ひえーっ」


 1人が慌てて走って逃げ出すが。


「【盛土】つちぼこ!」


 俺の【土魔法】で作った20センチぐらいのつちぼこに、足を取られつまづき倒れた。



「【風弾】ウインドバレット!」


 俺は残った1人の鳩尾に風の弾丸を撃ち込む。


 ズッドォオオオンッ!

「ガフッ……」


 男は膝を突き、顔から地面に崩れ落ちた。



「ユウリ、こいつらの武器を回収してくれ」


 ヤマちゃんがつまづいた男の背中を片足で踏み付けながらそう言す。


「はい」


 俺はナイフ4本とショートソード2本を回収した。



「ロープを持っておるか?」


「はい、持ってます。縛りますね」


「そうしてくれ」


 男達の腕と足を縛り地面に転がした。


「このまま放置でよかろう」


「はい」





 俺達は赤道上の無人島を探す為に空に舞い上がった。


「無人島でも町や港に近くない方が良いですね」


「人が簡単に、これない所が良いのじゃな」



 後ろの陸地が遠くなり、漁船等も見えなくなった辺りで手頃そうな島を見付けた。


「あの島に下りて見ましょう」


「そうじゃな」


 降下していくと島から何かが飛び立って、こちらに向かって来る。

 俺達は、いきなり大きな蛾の魔物に襲われた!

 全長10メートルぐらいありそうだ。


「モヌラのエンファン島ですかっ!」

「お、ガジラ映画じゃな」


 羽から毒の粉が飛んで来るが。

 俺達には【状態異常耐性】と【状態異常回復】が有るので全く効果が無かった。



 蛾の魔物が俺達に向かって口から糸を噴射する。


 プッシュゥウウウウウッ!



「「【風刀】ウインドカッター!」」


 シャァァァァァッ!!


 ヤマちゃんと俺は【風刀】で糸を切り裂いた。



「【火弾】ファイヤーボール!」


 ドドドドドォオオオオオンッ!!


 魔物に5発のファイヤーボールが直撃して、炎に包まれながら海に落下していった。




「低空飛行をしながら、島を観察してみましょうか?」


「よかろう」



「人間の家は無さようですね。舟の入れそうな入り江が1箇所有りますけど……他の海岸は岩場が多く、普通の人間には上陸しにくそうです」


「入り江の入口も岩で塞いでしまえば良いのじゃ、人族の船も入れぬじゃろう」


「はい。インベントリ経由で大岩を運んでみましょう」


 俺達は入り江の近くの平坦な場所に着陸した。



「まさか怪獣は居ないだろうが、魔物や獣ぐらいは居るかもしれんぞ」


「はい。まずはスキルで調べますね。【警戒】【探知】【探索】【識別】同時発動!」


 ピッキィイイイイインッ!


 俺は4つのスキルを発動して、無人島の生態系を調べた。



「魔物はいませんし、大型の獣もいませんが、トカゲや蛇など爬虫類が生息しています」


「そうか、それではここで良いであろう」


「はい、有難う御座います。……ここで南国の果物や野菜を作らせて戴きますね。それと、鶏と山羊やぎを連れてきます。鶏は害虫駆除、山羊は草刈をしてくれますから」


「そうじゃな、それではそろそろ研修所に帰ろう。もう何時いつでも【転移】出来るのだからな」


「はい。有難う御座います」


「「【転移】!」」


 シュィイイイイインッ!






 次の日。


 俺は、鶏と山羊やぎを家畜用の荷馬車に乗せて【転移門】でエンファン島(勝手に命名)に移動した。

 鶏5羽と山羊5匹は、すぐに放し飼いにする。


 レーダーマップを見ながら、鶏と山羊の脅威となりそうな爬虫類を探したが。

 脅威と成るほどの大きさのトカゲと蛇は居なかった。

 元々大きい餌が無かったのだから、捕食する側も居ないのかもしれない。

 巨大な蛾は居たけどね。



 島の最も高い山頂でも海抜50メートルぐらいのようだ。


 地形を調べ溜池を作った。

 水路を作りタンクに水を溜め、トイレとシャワーを作る。

 漁師小屋を作り、ベッド・テーブル・椅子を置く。

 物置小屋を作る。

 風通しの良い東屋を作る。

 家畜小屋も作る。

 日差しが強いから風通しを良くして、繁殖も出来る様に暗い部屋も中に作った。


 果物は種から育てたのでは、収穫出来るまでに何年も掛かるから、若い成木せいぼくを運んで植樹する。

 インベントリーと転移を使いカカオ・バナナ・マンゴー・パパイヤ・ココナッツの木を植樹した。

 パイナップル・メロン・スイカの苗も植える。胡椒こしょうの木も植樹した。



 1ヶ月ぐらい掛けて、空いてる時間にゆっくりと作業した。


「後は、必要に応じて対応していこう」




 岩で塞いだ入り江を見に行くと、絶好の釣り場に見える。


「趣味で釣りをするのも良いけど、実用性を考えて網篭等のワナ漁をしようかな」


 とりあえず、試しに不可逆的な小型のワナカゴを作り、小魚の死骸と重石を入れて、海に沈めてみた。

 狙う獲物は、アジ・イワシ・サバ・エビ・カニだ。



 翌朝、罠を引き上げみる。

 大漁だったが、魚用とエビ・カニ用のワナは別にした方が良さそうだ。エビやカニが、一緒にワナに掛かった魚を食べてしまっていたからね。


 それから、魚用のワナは木の杭と網を使って定置網を設置してみた。

 エビカニ用のワナは最初に作った物にカニが3匹入ってたので、同じものを5個作って沈めてみる。

 研修所の従業員食堂やレストランで出す為に、ある程度の数が必要になるだろうから。


 又翌朝確認すると、獲れたのは小魚とカニと小エビだった。

 小エビは網より小さいが小魚の死骸に沢山群がっている。


「ちょっとグロイけど、食べたら美味いんだろうなぁ……」


 小魚とカニと小エビをインベントリに回収した。



イワシクラスばかりだから、小船が入れないギリギリぐらいに入り江の岩を減らして、中型以上の回遊魚が入って来易い様にしてみよう」


 入り江の入口を塞いでいた岩をどかして、入り江の入口の先に、『品』の文字の様に岩を配置した。



 更に翌朝、ワナを確認すると30センチぐらいの魚が4匹獲れていたが、南国なので日本で見る魚とちょっと違う。

 青や黄などの熱帯魚っぽい模様の見た目をしているが、たぶん食べれるだろう。

 さっそく研修所に持って帰って料理してみよう。

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