第12話 妹と冒険者登録する

 翌朝起きてビックリした。


 部屋の中に新しいベッドと布団が突然出現していた。

 女の子用の彫刻が美しく施され、布団も可愛い花模様が散りばめられている。


 そのベッドの上には町娘が着る様なブラウス、ベスト、スカート、靴下も置いてある。

 更にベッドの下には木靴も置いてあった。

 アルプスの少女って感じだ。


 小人さんがエリナの為に作ってくれたのだろうか、まだ注文してもいないのに。

 ベッドの彫刻を良く見ると、小人印のマークが入ってる。


 お弁当箱から昨日作ったクッキーを取り出して棚に置き、ミルクをカップに入れて添えた。

 もしかしたら、ブラウニーが住み着いてるのだろうか?



 遅れて目を醒ました妹がベッドを見て大はしゃぎする。


「わーっ、すごいすごい、とっても可愛い。小人さんが作ってくれたんだ~!」

「しーっ、小人さんは恥かしがりやだから、そっとお礼をするんだよ」

「「小人さんありがとう!」」

 俺とエリナは小声で小人さん達にお礼を言った。



 俺達は顔を洗い歯を磨き、服を着替える。

「町の若者と娘に見えるかな~?」

「う~ん、どうだろうねぇ」



 俺達は朝食の支度をする為にオゥちゃんの家に向かう。

 朝日が木々の間から斜めに差し込む道を、真っ直ぐオゥちゃんの家に歩いて行く。


「く~んく~ん」

 五分ほど歩くと森の中から動物の鳴き声が聞こえた。

「子犬の赤ちゃんがいるのかな?」


 道から外れて森の中に分け入って行く。



 大きな白い獣が息絶えていた、昨日襲ってきたサーベルタイガーだ。

 グラーニの両後足蹴りうしろあしげりが内臓を破裂させたのだろう。

 傍らにバレーボールぐらいの幼い子供の虎が縋りすがり付いてる。


「クッキー食べるかな?」

 ミルクに浸して鼻先に差し出す。

 ペロペロと舐めてるが、このままでは……。


「私が育てる!」

「うん、まぁいいかな」


 エリナが子供を抱き上げると、それを待ってたかのように大きなサーベルタイガーの体が消えた。

 後には魔石とレザーローブがドロップしていた。

 子供は大人しく抱かれている。


 そのままオゥちゃんの家に連れて行った。

 大きな籠に藁を入れて布を被せ、寝かせた上に毛布を掛ける。

「オゥちゃん、どう思う?」

「エリナちゃんと、この子がぁ、幸せになると良いなぁ」

「そうですね」

 エリナは、パンと林檎をミルクで煮込んで柔らかくして、潰しながら食べさせた。

「何とか成りそうですね~」

「そだな~ぁ」



 朝食後、三人と二匹でリリーメルの町に向かった。

「グラーニ賢いね~」

「ぶるるん」(ありがとう)


「エリナはグラーニと会話してるみたいだね?」

「してますよ」

「ぶるるん」(してますよ)


「グラーニ、お兄ちゃんに何か伝えたい事とかある~?」

「ぶるるるっ、ひひーんっ」(私にもクッキーを頂戴)

「クッキーが欲しいって~」

 袋からクッキーを出しグラーニにあげる。

「はい、どうぞ。って本当にわかるの!」

「は~っ、たぶん調教スキルを持ってるだぁ」


「いつから調教スキルを持ってるのかな~?

 そう言えば、小さい時から動物を見かけると、いつも話掛けてたな~」


 サーベルタイガーの子は、籠に入れたまま薪の上に乗せてある。


「虎の子に名前を付けたら?」

「もう決めてるの、舘直人たてなおとのナオちゃん」

「……」


「女の子だから菜緒子のナオちゃんで」

 エリナは籠から抱き上げて言った。

「菜緒子のナオちゃん」

 幼体が光った。サーベルタイガーは真名を受け入れた。


「ニャ~ン」

「「女の子だったんだ!」」




 リリーメルの町に着いた。


「まず冒険者ギルドに行くだぁ」

 オゥちゃんに案内してもらう。


 コンビニぐらいの冒険者ギルドの中には、3人の冒険者しかいない。

 カウンターに受付嬢は1人だけだ。

 俺とエリナはガラス玉の様な物に触れ身分登録をして、Fクラス冒険者としてギルドカードを貰った。



「パーティ登録もするだぁ」


 大理石の様なバスケットボールぐらいの球体に、皆一緒に触ってオゥちゃんが言った。

「パーティーピーポー」

「「……はぁ~っ、はいはいっ」」

 球体が光ってパーティ登録が完了した。


「パーティ終了」

 と言えば、何処でもパーティを抜ける事が出来るらしい。

 ちなみに、お約束の絡みは無かった、オゥちゃんも居るしね。




 それから前回同様に、広場に行き薪を売る。

 エリナは中央のステージに腰を掛け、ナオちゃんと戯れてる。


「オゥちゃん、雑貨屋に行かせて下さい、日用品を買いたいのです」

「私も一緒に行く~」


 オゥちゃんが銭入れを差し出す。

「ゆっくり見てくると良いだぁ、妹の分も遠慮なく使うだぁ」

「「有難う御座います」」



 マッチ、洗濯石鹸、洗濯鋏、石鹸、髪石鹸、歯ブラシ、歯磨き粉を買う。

 エリナ用のお皿、フォーク、スプーン、カップも。

 あと砂糖、蜂蜜、ジャム、バター。

 リュックサックに入れるふりをして、お弁当箱に収納した。




 お店を出た所で、若い男の人に声を掛けられた。


「お兄さん、オゥログ様と一緒に住んでるんだよね、家に鶏は居るかい?」

「はい、4羽います」


「お婆さんの家と金の卵を交換したって噂だよ、金の卵は、まだ有るのかな?」

「見たこと無いですし、金の卵の事を聞いたのも今が初めてです」


「金の卵を産む鶏は居ないの?」

「普通の白い卵しか産んでません。金の卵って、『天空の巨人の城にいる鶏が産む』と言われてる、あの金の卵ですよね」


「やっぱりそうか~、そういう話だよね~。オゥログ様は、もう金の卵を持ってないのかな~?」

「う~ん、私も始めて聞いたので判りませんね」


「もし有ったら金貨10枚で譲ってくれないか聞いてくれるかい?」

「はい、聞いてみますね」




 昼食はスープと串焼きを食べた。


「お決まりのやつだ~!」

 エリナは喜んでた。


「ね~、謎の獣肉は売って無いのかな~?」

「どうだろうね~。時間があるから探してきたら」

 エリナはナオちゃんを毛布ごと抱きながら、ぶらぶら歩いて行った。





「そろそろ帰るだぁ~」

「はい、帰りましょう」


 残った薪を材木屋で買い取って貰い、三人と二匹で歩いて帰る。

 エリナとナオちゃんは空になった荷馬車に座る。


「グラーニ乗せてくれてありがとう」

「ぶるん、ぶるるんっ」(なんくるないさ~)





 オゥちゃんの家に帰って来て家畜小屋で鶏を見るが、やはり金の卵は何処にも無かった。

 今まで生まれた卵は全て食事の時に食べてるし、やっぱり違うのだろう。


 ふと家畜小屋の入口の上を見ると、何か文字が彫ってある。


『天空の城』


「……うん?」



 母屋に戻り入口のドアの上を見ると、そこにも文字が彫ってある。


『となりのトロル』


「は~っ、はいはいっ」



 オゥちゃんに金の卵を産む鶏の事を聞いてみる。

「あぁ。……コンちゃんがぁ、金の卵の話をすると悪いやつに狙われるからぁ。

『金の卵を産む鶏は巨人の住む天空の城にいる』

 って、答えろって言われただぁ、そして家畜小屋に文字を彫ってただぁ」


「じゃあ、俺も同じように答えますね。金の卵の価値って金貨10枚なんですか?」

「そだな~、成型して金貨にすると、ちょうど10枚ぐらいだろうなぁ」


「同じ鉱物の形が違うだけの物なのに! 金貨10枚で買い取っても損得無しですよね?

 あの男、何を考えてるのですかねえ」


「そだな~、あやしいな~ぁ。

 ま~人族がここを襲うことは無理だがなぁ。

 それに鶏は飼い主が頼まなければ、金の卵を産まねえしなぁ。

 あっ、たまにうっかり産んじまう事もあるけどなぁ。はーはっは~っ」



 夕食を三人で取り、疲れてるのでリバーシをしないで家に帰る。


 風呂に入り、それぞれのベッドで就寝する。

 ブラウニーと小人の為に、町で買ったケーキと、自家製のミルクとクッキーを棚に置いといた。

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