第13話 精霊の恵み

「私も可愛いピンクのお弁当箱が欲しい」


 妹の前で、うっかりお弁当箱から荷物を出し入れしてしまった。

 一日中一緒に居るから、しょうがないじゃないか、人間だもの。


「あれは、ドーナツを買って、おまけに貰ったんだそうだよ」

「んだぁ、妖精のドーナツ屋さんだぁ」

「それじゃあ、私をドーナツ屋さんに連れてって下さい」

「んだばぁ、皆で妖精の森のドーナツ屋さんに行くだぁ」


 3人で森の中を探して歩いたが、まったく見つからない。

「見つかりませんね~」

「んだなぁ、湖の精霊に聞いてみるだぁ」


 さらに深く森の中に入ると、美しく静かな湖が顕われた。

 オウちゃんが片膝をつき呼びかける。

「美しく豊かな精霊フレイヤ様、どうか下僕しもべの願いを叶えて下さいませ」


 湖の上にキラキラと光が集まって人型に成り、光り輝くドレスに身を包む美しい女性になった。


「元気ですか? オゥログ」

「はい、フレイヤ様ぁ。

 お陰様で元気に暮らしてますぅ。

 こちらに控えるのは、私の友人の悠里とその妹のエリナですぅ。

 今日はドーナツ屋を探してこの近くまで来ましたがぁ、見つけることが出来ません。

 スキル、レーダーマップにも映らないのですぅ」

「お兄ちゃん、オゥちゃんがしっかり長台詞ながせりふを喋ってるっ!」

「しーっ、静かにっ」

 

「それは初級冒険者用のクエスト『妖精のドーナツ屋さんを探せ』ですね。

 ノルンの三姉妹の末娘スクルドが管理しているクエストのはずですが、私が教えることは出来ません、自分の力でクエストを解いて下さい」


「はじめましてフレイヤ様、妹がこのお弁当箱と同じ物を欲しがってるのです」

 悠里はシットバツ助のお弁当箱をリュックサックから取り出して精霊に見せた。

「俺ぁ、ドーナツを買って二つ貰いましただぁ」

「……これはアーティファクトのインベントリーボックス!

『妖精のドーナツ屋さんを探せ』のクリア報酬は、20個の道具を収納できる、お弁当型アイテムボックスだったと聞いています。

 間違って、高難易度クエストの報酬を渡してしまったのですね。

 高難易度のクエストを管理してるのは、年長のウルドです。

 彼女のクエストは、ベテラン冒険者のパーティでもクリアすることが難しいでしょう。

 残念ですが、小娘にはクリア出来ないでしょうね」


「む~っ、そんな~っ!何とかおねがいっ!」

 両手を胸の前で組んで、ちょっと首を傾け、上目使いに、

(必殺子犬のおねだりポーズ)


 悠里は魅了された。

 オゥログは魅了された。

 フレイヤは影響を受けない。


「お願いします」

「お願いしますだぁ」

 悠里とオゥログはフレイヤに懇願した。


「こちら側のミスなので、お弁当箱は返さなくて良いですが、すでにクエストを修正済みで、クエストの受け方も教えられません。

 冒険者としての正しい手順を踏んで、クエストをクリアして報酬を手に入れてください」

(女子に厳しいタイプ?) と、エリナは思った。


 悠里は右足を前に出し、体を斜めにし、左手を腰に当て、

 右手で髪を『ふぁさ~っ』と掻き揚げて、『キラリ』と微笑んだ。

(必殺ジャミーズのポーズ)

「そこを何とか、お願いしますっ!」

「うぐ~っ」

 フレイヤは魅了された。


「うふんっ、仕方ないから少年に直接私のスキルを伝染うつしてあげましょう」

「えっ、それってまさか!」


「場所を変えます」

 一瞬で、全員大きな白い館に移動した。


「ここは私の館です。少年だけ着いて来なさい、他の者はここで待っているように」



 奥の部屋で二人だけになった。


「なかなかの美少年よの~、もそっと近う寄りなさい」

「はい……」

「もっとじゃ」

「お許し下さい、お精霊さま」

「はよ~せいっ」

「あ~っ、そんなご無体むたいな!」

「え~い、初心なうぶなネンネじゃ有るまいし」

「なりませぬ、なりませぬ」

 がしっ

「あれ~っ、お許し下さ~い」


「ブチューーーーー」


「チューーーーー」

(ほお~っ)


「チューーーーー」

(なかなか)


「チューーーーー」

(やわらかいのぅ)


「チューーーーー」

(おいしいのぅ)


「チューーーーー」

(んっんっ)


「チューーーーー」

(とろけるようじゃ)


「チューーーーー」

(このまま……)


「いい加減にして下さーいっ!」


「「ジュッポ~ンッ!……はあーっ、はあーっ、」」


「小娘、待って居れと言ったであろう」

「長すぎますっ、小芝居の下りからっ!」

「くっ、そこから見ておったか。

 これだけ長くしたのだから、インベントリーボックスのスキルは伝染うつったでしょう」

 悠里は試してみる。

「『インベントリーオープン』出来ました。……『ステータス』これも出来ました」


ユウリ・シミズ Lv1

職業 実習生

HP100/100 MP500/500


[パッシブスキル]

ステータスウインドウ

レーダーマップ

インベントリーボックス

物理耐性 魔力耐性

状態異常耐性

体力回復 魔力回復

状態回復 詠唱省略


[スキル]

家事Lv1 農業Lv1

畜産Lv1 解体Lv1

精肉Lv1 料理Lv1

菓子Lv1 鑑定Lv1

探索Lv1 識別Lv1

生活魔法Lv1 光魔法Lv1

水魔法Lv1 空間魔法Lv1


[称号]

東京大学博士号

TOEIC

普通自動車免許

自動二輪免許

異世界生活研修所研修生

異世界生活研修所現地実習生

妖精店のお客様

オゥちゃんの親友

精霊の思い人


 フレイヤは悠里を鑑定してみた。

「仕舞った、スキルが伝染うつり過ぎた」

 フレイヤはやらかしてしまった。


「ふ~む、感染しにくいスキルまで伝染うつってしまった。

 仕方ない、元々適正があったのでしょう。

 それにMPマナが足りなければ、スキルは伝染うつらなかったであろうし。

 難易度の高いスキルほど、MPマナの量が沢山必要なのですから」

 悠里はエリナにバツ助のお弁当箱を渡した。


「悠里、良く聞きなさい。

 通常、人間のレベルの限界は99です、HPとMPの上限は999、スキルの上限は5です。

 しかしそれは極めた者のみが到達出来るのです。

 あなたは、人並み外れた沢山のスキルを覚えてしまいました。

 何が幸せか良く考えて行動する事です」


「「有難う御座いました」」

「悠里、今度は独りで来なさい」

 フレイヤはそう小声で囁いた。


 三人は湖の前に一瞬で戻されて、家路についた。

「お兄ちゃんっ! ほんとーにーっ! もうっ、なんですからーっ!!」

「ごめん」




 その夜、俺はうなされた。


 夢の中でもキスをされていた。

「ちゅーーーーーーーーーーっ」

「う~んっ……ゆるしてくださ~い……夢でチュウチュウチュウ……ですかっ!」

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