第10話 妹エリナの話

 もうすぐ冬コミだ。


 高校生になって二回目のコミケは、魔法少女のコスプレイヤーとして参加する事にした。


 友達と魔法の決めポーズを何度も練習して、ビシッと揃うまで完璧を目指す。


 そうだ、打ち上げの後はお兄ちゃんのアパートに泊めて貰おう。

 しかし、何度スマホに電話しても繋がらない。


 お母さんに聞くと、仕事を辞めてしまってから連絡が取れないとの事。

 合鍵を借りてアパートのドアを開けて、部屋に入ったが誰も居ない。


 ふと見ると、テーブルの上にパンフレットが置いてあった。


『異世界生活研修所』


 電話番号が書いてあったので、掛けてみると女性が出たが、兄の話をすると慌てて男性と交代した。

「十日間の研修を受けて、今は現地で実習していますが。

 ちょっと問題が発生していて……、詳しく説明致しますから、研修所へ来て戴けませんか?」

 と言われた。


「現地で実習って、どこで? なにを?」

 とりあえず、話を聞きに行く事にした。



「お兄ちゃんが異世界に取り残されたんですかっ?!」


「比較的安全な所で、優しく親切なオゥログさんという人が居るのですが。

 不慮の事故で魔道具と魔石が失われて、異世界に迎えに行く事が出来ないのです。

 悠里君同様MPマナが多い君なら、きっと迎えに行く事が出来る筈です」




 三日間の特別研修を受けて準備を十分に整えた。

 この日の為に作った赤いレザーのつなぎを着て、髪をアップに纏めた。

 沢山の荷物をリュックに入れて、いよいよ異世界に転移する。


「お兄ちゃん今助けに行くから、エリナッ、行きまーすっ」

 一瞬だけ開いた転移門に、さっと飛び込んだ。



 悠里は庭で洗濯物を干していた。


「だだんだんだだん、だだんだんだだん」


 近くの地面に魔道術式が浮かび上がり円筒状の光が盛り上がる。

 赤い服を着た女性が片膝をついてる。


 何か言ってる。

「だだんだんだだん、だだんだんだだん」

 聞いた事がある声とメロディー。


「おにーちゃんっ!」

「エリナッ、女ター○ネーターですかっ!」


 その時、森の木を飛び越えて、大きな獣がエリナに襲い掛かった。

 オゥちゃんが獣に向かって咆哮する。


 ウオーーーッ!


 サーベルタイガーは【威圧】された。

 獣の動きが急に止まった。


 すかさずグラーニが両後ろ足で獣を蹴り上げる。


 ドッガーーーンッ!


 獣は跳ね飛ばされて倒れたが、立ち上がりよろよろと森に逃げて行った。


「逃げる者は追わねえだぁ」


「大きな白いトラの様でしたが、タクシーを襲った獣でしょうか?」

「魔道術式のMPマナに反応して襲って来たのかもしれねえだぁ」


「また、襲いに来るでしょうか?」

「その時は、その時だぁ」

「オゥちゃん、カッケ~」

「へへー、そんな事ねえだぁ」

「グラーニもありがとう」

「ぶるん、ぶるるんっ」(なんくるないさ~)


「お馬さんありがとう。おじさんもありがとう。……お兄ちゃん、メッ! 悪い子です」

 ぎゅ~っ、と抱きついて来て

「うわ~~~ん」

 と泣き出した。


「エリナ来てくれてありがとう」

 落ち着くまで泣かせてあげた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る