20.
昼十二時を過ぎた頃から急に雲行きが悪くなって、温泉を出発した時には青一色に
気がつくと、僕らのジムニーは深い森の中の一本道を走っていた。
森の中に川が現れ、一本道は川に
橋を渡って
助手席のサトミが「ひっ、
「そうだな……稲妻が光って、音がするまで
特大の
屋根の鉄板に雨が当たる音が
ジムニーを停車させた。
何か、既視感のようなものがあった。
視界を
液晶画面に表示されたのは、縦に走る一本の道路。それだけ。
縮尺変更ボタンを押して、広域表示にしてみる。
いくら表示範囲を広くしてみても、いま僕らが居る森の中の一本道以外、何も表示されない。
(昨日の夜と同じだ。あの時は霧が、今は豪雨が視界を
僕はジムニーのハンドルを何度も切り返して車体の向きを百八十度転換させ、森の道を逆方向へ引き返した。
「どうしたの?」サトミの
「昨日の夜と同じなんだ……サトミの親父さんが言うところの、〈この世〉と〈あの世〉の境界が無くなる〈幽霊現象〉だ」
「ええ? だって、まだ、お昼になったばかりじゃない」
「親父さんは『〈現象〉は徐々に進行している、
「つまり、この森は〈現象〉の進行が早くて、昼間でも〈あの世〉と〈この世〉が入り混じっていて、私たちはその中に迷い込んでしまった、って事?」
サトミの問いに、僕は無言で
(とにかく引き返すんだ……心配ない……一本道なんだ……逆方向へ走れば、
激しい雨。絶え間なく
高速で往復するワイパーが、フロントガラスを流れ落ちる大量の雨水を
ナビを見る。
相変わらず、縦に伸びる一本道だけが表示されている。
「おかしいな」という僕の
「どうしたの?」とサトミ。
「さっき橋を渡っただろ?」
「うん……」
「それから、しばらく一本道を進んで……ジムニーをUターンさせて……いま僕らは、もと来た道を戻っているはずだ」
「……」
「それなのに、いつまで
「道に迷ったってこと?」
「一本道だ。ありえない」
「じゃあ、どういう意味よ」
「分からないんだ……けど……例えば、時空間が歪んでいる、とか」
「何、それ」
「だから、分かんないって言ってるだろ」
「怒った風に言わないで」
「……ごめん」
燃料計を見た。まだ充分に残っている。
(でも……永久にこの森から出られないとしたら?)
いつかはジムニーも動けなくなる。
積んである水や食料も、いつかは無くなる。
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