●2●「刹那の日常/昼の《非》日常」
「――今週のジャンプ読んだ?」
「――読んだ読んだ。まさかアレがああなるとはなー」
「――数学の藤木マジでムカつかね?」
「――ムカつくーアイツ絶対変な目でアタシら見てるよ」
「――部活禁止ってきついよなー」
「――もうすぐ県予選だってのに、練習出来ないんだもんなー。一応家で自主トレはしてるけどさー」
夏樹市・都心から少し離れた所に在る県立高校・緑ケ原学園。
昼の太陽に照らされた二階・二年B組の教室は、昼食の弁当を食べる生徒たちのお喋りの喧騒に包まれていた。
本人たちにとっては真剣だったり、どうでもよかったり、切実だったり、後回しで良かったりする話だ。
だが周りから見れば喧噪という雑音にしか聞こえなかった。
「――――」
特に、一人で弁当を食べている阿久根・刹那のような少年には。
『はいお弁当。しっかり食べてね!』
今朝、叔父である神楽に渡された弁当を食べながら、刹那は思う。
叔父が言うには世間的な
その目的は分かる。昼間から悪魔狩人でござい、と悪魔を探し回れば、悪魔達も警戒し彼らからより一層隠れて人間を襲うようになるだろう。だから多数の悪魔狩人は表の顔を持ち、ごく普通の社会生活をしながら――悪魔の前に現れた時だけ、悪魔狩人としての顔を表に出すのだ。
だが一方で、叔父はこうも言っていた。
『悪魔狩人も一人じゃできない仕事だからさ。社会性っていうのかな、そういうコミュニケーション能力も必要なんだよ。学校はそういうの学ぶのにちょうどいい所だからさ、頑張っておいで』
――理屈は分かる。円滑なコミュニケーションは情報面や戦闘面での連携を円滑にし、悪魔討伐を効率的にするだろう。だから、コミュニケーション能力を身に着けるのは必須事項だ。
だが、と刹那は思う。
――俺には無理だ、叔父さん。
一人机で弁当を口に運びながら、周りを見る刹那。その目は、眩いモノを見るように細められている。あるいは、諦念に目を閉じようとしているようにも。
――俺は半分悪魔だ。間違った存在なんだ。悪魔狩人をしているから、生きていくことが許される存在なんだ。
悪魔の父と、人間の母から生まれた半人半魔。それが阿久根・刹那という少年である。その生まれに、彼はコンプレックスを抱えていた。
自分は死んで当然の存在で。だけど悪魔狩人をし、人々を護るという"正しい"行いをするから生きていることを許されている――
これは叔父には言っていない。だけど、何となく知られているんだろうな、と思う。
『――刹那くん。学校で友達とか、作ってみないかい?』
何度か、そう言われたことがある。その度に彼は「無理だよ」と拒絶し続けてきた。
彼からすれば、友達を作るということは、不可能なことだったからだ。
悪魔という超常の――
自分自身も半分はその化け物であること。
それを知られないまま、友達なんて。まるで――否、嘘をついて友達を作るなんて、矛盾している。
だから、友達は作らない。作れない。これまでも、これからも。
阿久根・刹那はそう思い、事実として周囲に壁を作っていた。
大人しくて口数の少ない、変な奴。教室の脇役。いてもいなくてもいい存在。同級生からはそう思われていた。
それでいい、と刹那は思う。
俺は一人で良い。悪魔狩人だから。半人半魔の化け物だから。俺は、一人じゃなければいけない――
いつも通りそう思いながら、刹那は弁当を口に運ぶのだった。
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