京都令和恋絵巻

奏 隼人

第1話 令和の日常

さくらいろに 衣はふかく そめてきむ

花のちりなむ のちのかたみに…


紀有朋の詠んだ句が頭に浮かぶ…

桜も散って花筏も思い出となる今日から五月が始まる。

僕はバスを降りてターミナルに入って行くのを見送った。地下鉄に向かう時に僕は一人の

女の子を見かけた…

三限目が終わって学校からバスに乗ると大体僕と同じ時間に地下鉄に降りる彼女の姿を目にする。

彼女は河原でサークル活動をしているようだ。どこの大学だろう?

四月に一人暮らしを始めて、夢色の大学生活かと思えば、毎日家から学校、バイトをして帰って寝るといった生活が続いている。


ひょっとしてこのまま四年間、こんな生活をして就職しても同じようなことに…


ブルブル…僕は頭を横に振る…完全に五月病である。今日から五月、そして今日から元号が変わって平成から令和になる…らしい。

僕の生活には特にまだ変化はないが世の中は

令和フィーバーである。テレビでは渋谷のスクランブル交差点や道頓堀の橋で騒いでいる輩がまた出ているようだ…全く…


「みーなーみ!」「うわっ!何だよ!…真莉じゃんか?」「何だよは無いだろう!せっかく声かけてやってるのに!」


僕に声をかけてきたのは渡辺わたなべ真莉まり。大学で同じクラスになった途端、声をかけてきた馴れ馴れしい女子だ。

そしてこの僕はみなみあきら。フツーの大学生である…いやフツーじゃない所も…


そうこうしている内に彼女を見失った…まあストーカーじゃないんだから行き先を探して付いていくつもりもないけどね…


「ねえ!南、四条に行かない?私、買い物するんだ。」「お前なぁ、カレシと行けよ。カレシと!」「そんなメンドくさいもん、要らないよ。じゃあいいよ。もう誘ってやんない。」

その時、僕は本屋に寄らないといけない用を思い出す…


「分かったよ。本屋に行かないといけないから途中までなら…」「アプリで読めないの?」「バーカ。漫画じゃないって。」


地下鉄の改札を出て、真莉と学校の話題を話しながら歩く。一応…女の子と二人で歩くのは久しぶりである…真莉も可愛い方だと思うが僕にとっては同じクラスの軽口をたたく女子だからまあ男友達と変わらないかな?こんなこと聞かれたら怒られるだろうけど…


四条は昔のことを思い出す…楽しい思い出もあるけど、やっぱり僕には辛い。それでも、街並みも学校もあの時とは違う。そんな僕の気持ちを置き去りに真莉は先を歩いていく。


「真莉、ちょっと待ってよ。」

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