第2話 鎖

 聡と藤花はどちらからとなく口づけをした。そっと触れるだけ、だが同時に自分を相手に刻み付けるように。


「私はまだいい。だが君は殺人がバレれば捕まるぞ。」


 私の殺人はバレても組織が私を守る。だが彼女はどうだろうか。

 捕まる。組織に守ってもらえればいいが、それは組織に入るということ。それは彼女を血に染めることに他ならない。


「『雨水隊』に入れてはもらえませんか?」


 「雨水隊」。それは聡が入っている組織。基本的には自己の正義に基づいて行動し、行動計画を組織の上層部に提出し遂行する。だが上層部が国を侵す計画だと判断したは隊員はあらゆる手段によって抹殺される。それは国民にも同様。

 もちろん隊員や隊の存在を知っている一部の国民には上層部の決定に反対する者もいる。それらに対しては決定理由の説明を行う。武力で上層部の決定を覆そうとする者は決定に賛成した隊員から数名が選べれ武力によって鎮圧される。

 また上層部は政府と繋がっているため、政府と敵対していない場合は資金提供が約束されている。

 雨水隊に入れば殺人をいつかは求められることになる。彼女が他人の血で汚れることなど考えたくはない。いくら自分の正義が歪んでいたとしてもそれを見抜いた彼女を壊すのか。そこに目を瞑ったとしてもリスクが大きい。殺す対象は少なくともまともではない。そいつらに彼女を犯されでもしたら私はどうなってしまうのだろう。


「加藤様。考えるまでもないはずです。私はあなたのモノです。だから他人を受けつけないようにしてください。ずっと私といればいい。」


「それなら構わない。だが君は戦闘などできるのか?」


 私としては一緒に行動するなら自分と同レベルくらいの戦闘能力は欲しい。


「それなら問題ないかと。銃の扱いは苦手ですが刀やナイフ、スタンガンの扱いは自信があります。」


「まぁ、それは選考で確認させてもらうよ。そういえば君は私に何か求めることはないのか?」


 ここまで私は彼女にもらってばかりだ。私だって彼女を愛したいし、彼女のモノだ。


「ならこれからは私を藤花とお呼びください。私は聡様とお呼びします。」


「なら藤花。そろそろ服着ないか? 目のやり場に困る。」


 痣を見せるために服を脱いだのだろうが、痣が見慣れてくると視線は自然と藤花の黒く清楚な下着や自己主張の激しい胸に吸い込まれていく。


「別に下着も脱がせて襲っていただいてもかまわないんですよ?縄ならすぐにほどきますから。」


 そういうと藤花はナイフで縄を切り始めた。


「そんなに急いでも意味はないだろう。身体は互いの本性を完全に理解してからでいいだろ。私たちが言う愛とは重くあればこそ、軽い関係は求めていないはずだ。」


 身体での愛は互いに相手を信じられなくなった時や不安になった時のためにとっておいたほうがいい。


「わかってますね。でも一応ここ、そういうためのホテルなんですけどね。」


 ――


 聡と藤花はホテルを出て聡の家に入った。聡の家は和風邸の外観も持つが、内部は監視カメラと自衛兵器の巣だ。聡が遠隔操作で監視カメラと自衛兵器とのリンクを切っていなければ藤花は蜂の巣になっていた。聡は藤花が一人で家に入らなくて良かったと心から安堵した。


「明日は組織の方に行くが藤花はどうする? 一応一緒に行くことは可能だけど。」


「もちろん付いて行きますけど簡易的な物で良いので所有の証みたいなのが欲しいです。」


 チョーカーのような物があれば良かったのだが生憎、こんなことになるなんて思ってなかったため、そんな都合の良い物はない。


「じゃぁ、キスマークでも付け合いますか、お風呂で。」


 一緒に風呂に入ることを示唆する発言はまだいい。だが痣にキスをして良いものか。痛かったら悪い、そんな気持ちと他人につけられた痣を上から自分のキスで上書きしたいという気持ちが蠢く。


「私の心配より自分の心配をした方が良いのでは?」


 藤花はそそくさとワンピースと下着を脱ぎ捨て、聡の服に手をかけた。そして聡の服を脱がしながら空いた首筋、肩、腕と瞬く間に唇を落としていく。


「そんな焦らなくても私は藤花のモノだよ。」


 なぜそう感じたのかはわからない。藤花が焦っているような気がした。

 私がどこかに行くと?

 それともまずは体から私を縛ろうと?


「私は嬉しかったのです。聡様のモノだというのに私のために欲を抑えていただいて。そんなあなたを見ていたら我慢できなくなってしまいました。」


 そしてそのまま藤花に半ば引きずられるように風呂に入った。


「痣はだいたい治るのに二週間くらいか。」


「それまで痣をキスで隠していただけるのでしょう?」


 確かにそうしたい。だがそれは二週間、ずっと親のことを思い出すということだ。それは酷なことではないか。私なら憎悪で染まってしまう。人に刻まれた傷がある人ならわかると思うが、その事実が頭をよぎるだけで心臓を締め付けられるような感覚に襲われる。


「良いんですよ。父があんなでなければあなたを知る事なんてなかったのでしょうから。憎悪以上に今は感謝の気持ちの方が強いですよ。」


 すると何かが切れたかのように聡は藤花の身体を染めていった。ただただ興奮したのか、それとも彼女が父へ向けた感情に怒りを感じたのか。聡にはわからなかった。





















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