グッバイ、マイサマー

ひろ法師

プロローグ

 六月の初旬、梅雨入り間近のある日。天気は快晴で雲一つない澄んだ青空がきらめく海を越え、新緑を深める山を越えどこまでも続く。

 湿気はそこまで多くなく、からっとしていて気温も二十五度程度。初夏は一年で一番過ごしやすい時期だろう。


「おはよー」

「はよー」

「サッカーのワールドカップ観た?」

「観た観た! 奇跡的に勝ったよね! あたし、ひょっとしたら負けると思った……」

「開幕前にドタバタあったけど、このまま頑張ってほしいよね」


 僕の隣を同じ校章が入った学ランの男子やセーラー服の女子たちが元気そうに歩いていく。話し声が楽しそうに響いてくる。中には追いかけっこしたり、じゃれ合ったりする子供もいる。なぜかどこかうらやましかった。


 しかし、僕は一人で下を向きながら歩いている。足取りも次第に重くなっていく。息も次第に苦しくなる。体に大きな鉛が上からのしかかっている。しかし、その鉛は容赦なく圧力をかけ、僕の体を前に押し倒そうとしていた。

 やがて、僕は目的地にたどり着く。三階建てのまさにハコモノと呼べるような建物。僕はこの建物にかれこれ一年と少し通っているが、今すぐにでも踵を返して帰りたい。

 正直これからまたとてもつまらない、その上胃に穴が開くような一日が始まる。

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