21話 三人連携①-魔法の属性

 翌日、待ち合わせの時間。

 この付近で修練所というとこの1ヶ所だけだが、自信を持てるほど土地に慣れてる訳でもなく、不安と緊張の間のような気持ち。

 昨日は予定より早い時間に合流してただけに、余計に気になる。



「おまたせ。…少しくらいゆっくりしてもいいのよ?」

 約束の11時、エンが合流。とりあえずの安堵。

「そんな時間かけるほどの準備は無いし、何かしようにも資金がそんなに……。」

 言ってて悲しくなってきた。話をそらさなきゃ。

「それで、具体的には何を試すつもりなの?」

「単純な話よ。私の魔法をどこまで受けて平気か、今の内に試したいの。

 見たところ物理的なダメージは受けないみたいだけど、魔力的な所は分かってないんでしょ?」

 手招きに従い移動しつつ、ラディに投げかけられる。

「なんどかまほう?を受けたようなおぼえはあるのですが、こまかくは……。」

「限界が分からない、逆を言えばどの程度からダメかも分からない。

 大丈夫と思って取った行動が許容を超えてた、なんてなったら大事おおごとでしょ?」

「なるほど……。」

 同じように納得したが、同時に垣間見える言葉の裏。

「それはつまり、ラディがどれくらい利用できるか、って事?」

「利用する…と言うと聞こえは悪いけど、そこに優位性があるなら、それをちゃんと把握して、最大限に生かすべき。

 中途半端な潔癖心で行動を縛って、得られるはずのもの見過ごして、守れるはずのものをも見過ごすつもり?」

「それは……。」

「…ごめん、でもそういう事なの。出し惜しみをするって事は。

 形式ばった決闘じゃないんだから、手段は選ぶべきじゃない。」

 それに納得はするものの、慣れるまではしばらくかかりそうだ。



 防魔網で囲われたグラウンド、点在するダミー用の木人。

 隙間の時間帯なのか、人はほとんどいない。中々に好都合。奥まった角のエリアを借り、自分は隅のベンチで見学。

「はじめる前に、1つ、聞いてよろしいでしょうか?」

「いいよ。何が知りたいの?」

「まほうって、どれくらい種類があるのです? なにが大丈夫でなにがだめか、じぶんでも覚えておきたいので。」

「…なるほど、そこからなのね。」

 少しの思考ののち、エンが続ける。

「まず、基本となる属性は6つあるの。火、水、風、土、光、闇。

 扱える属性には適性があるから、今いる中で試せるのは半分ってとこね。」

「通り名にある雷、というのは?」

「順を追って、試しながら説明するね。

 まずは炎、セイル君が多分そうよね。ついでだし試しておく?」

「いえ、炎はすこしふれましたが、へいきでした。」

「…僕が威力を出せないだけ、ってのもあるかもだけどね。」

 そのふてくされの言葉は聞き流され、エンが次の準備に入る。

「オーケー。じゃあ次は光、私の適性属性ね。」

 天に向けた手のひらの上に、光の玉が作られる。

「まずは威力を抑えて撃つから、どれくらいなものか、聞かせて…ねっ!」

 光玉は光線へ。目で追えぬ速さでラディに命中する…が、

「…効かない前提で考えてたとはいえ、微動だにしないなんて、術士としてちょっと悔しいわね。」

「全然なんともないです。つぎは、全力でおねがいします。」

「…ほんとにいいの?」

 そうは言いながらも手のひらの上には、さっきよりも強く輝く光玉が。

「はい、おねがいします。」

 ラディの言葉をトリガーに、眩い閃光が走る。おそらく光線なのだろうが、その軌道を視認すらできない。


 辺りに水が散ってるのが見える。その中心の水の塊が、再びラディの姿をかたどる。…さっきより一回り小さい、気がする。

「…大丈夫なの?」

「はい、ちょっとだけけずられましたが、なんとも。」

 逆に、散った水には何も起こらず、土に吸い込まれていった。

「なら、光に関しては全く問題なさそうね。

 そしたらもう1つ……。」

 エンが三度右手の上に光玉を作る。今度は左手も添えて。

「属性には基本の6種類のほかに、風属性を使う合成属性があるの。これがその1つ。」

 エンの左腕にある腕輪が輝きを放つ。おそらくあれが、属性の変換でもしてるのだろう。

 光玉がバチバチと音を放ち、雷の玉になり、前方へと稲光があふれ出す。

「これ、出力を抑えるのが難しいの。だからラディ君の方から、どこまで平気か来てくれる?」

「りょうかいです。」

 おそるおそると、ラディが近付いていく。ゆっくりだけど、足を止める素振りはない。

 そして、雷の中を平然と歩き、エンの目の前までたどり着く。

 そのままラディが、雷玉に触れようとする。が、魔力が一瞬揺らぎ、触れかけた指先から手首まで凍る。

「…これは?」

「風の魔力に反応して、氷属性が発現した、かな。感覚はあるの?」

「はい。動かない…けど、体のいちぶであると感じとれます。」

「…となると、死ぬ訳ではないにせよ、要注意ね。」

 ラディの右手が流動し、代わりの手が形成される。

「…ほんとにほぼ何でもありね。」



「ごーせいぞくせいというのは、全部にあるのです?」

 酒場に向かう途中、ラディからの疑問にエンが答える。

「大きく変わるのは、雷と氷の2つだけね。炎と風は昔は相乗効果とされてたけど、合成の概念が言われ始めて爆発属性と再定義されたくらい。」

「闇は定義が曖昧というか、他に属さない性質を便宜上まとめてるだけで、合成とは無縁ね。

 土は、使い手が希少すぎてね。もう使い手が残ってないんじゃないか、って言われるくらい。」

「なるほど。もしも土使いに会えたらラッキー、ですか。」

 確かに、土属性使いに関する伝承は記憶に薄い。少なくとも、読んだ事のあるアスレィ伝記には無かったはずだ。

「ラッキーなんてもんじゃないよ。けど、記録によると土使いの影響はすさまじく、街1つを崩壊させるのも容易いほどだとか。

 …こう言うのもなんだけど、存在しないと思う方が気が楽よ。」

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