12話 レミレニアの酒場①

 翌朝、大通りから少しそれた道。

 空腹な中、屋台料理の香りがほのかに誘惑してくる。けどあえて我慢して、宿で貰った地図を頼りに目的地へ。

 賑やかさから一歩遠のいた所に、その場所の印はある。


 昨日のわくわくも相当だったけど、今回はもっとだ。

 ラディとはぐれないようにだけ気を付けながら、地図と風景を何度も確認しながら。

 長かったような短かったような時間ののち、気が付いたら目の前に到着していた。



 『レミレニア警邏隊と冒険者達の酒場』。



 冒険者活動の拠点たるこの場所を、どれだけ夢見た事か。

 剣や杖、各々の得物を担いで出入りする冒険者たち、垣間見える中の熱気。そしてこれから自分もそこに混じると思うと、手が震えてくる。

「…よし、行くよ、ラディ。」

「は、はいです。」

 平静を装いつつ、門をくぐる。



 席の多くは見るからに「仕事前」の一団の腹ごしらえ、片や隅の方では事務的な手続きをしてるテーブルもあり。四辺の内の一辺の幅ある巨大なカウンターがあると思えば、違う一辺は大量の張り紙。

 一気に来る情報量に、今日の目的が頭から抜けてしまうほど。

「そんなにすごいばしょ、なのです? たしかに来てる人たちのふんいkは、いつも見る人とちがいますが。」

 そのラディの言葉で我に返る。

「そりゃあまぁ、表の大通りのほとんどは観光客だろうしね。客層が違うよ。

 ここは酒場、冒険者たちの活動拠点。

 あのコルクボードが依頼書、今後の活動指標で、その外のは…連絡事項かな?

 で、軽い素材採集から特別警戒対象の討伐まで、集まった依頼から選んで、こなして報酬を貰うのが生業なのが冒険者。

 だからこれからは、この酒場を活動拠点として頼る事になるかな。」

 ここまで大丈夫かな?とちらりとラディの様子をうかがう。

「えっと…かんたんに一言でおねがいします。」

「…『通ってれば慣れる』、かな……。」




「それにしても、ほんとつよそうな人たちです。セイルさんよりも、よっぽど……。」

 ラディのその言葉に反論しようかとしたが、流石にそうもいかなかった。

 通り道の脇にいるヒューマは大半が大得物持ちのガタイの良さ。たまに細めの人も居るかと思えばエルフだったり装いの良い術士だったり。竜人に敵わないのは勿論の事、猫人の剣術は比較の方向性が違う。

「…そりゃあ、長くやってるような一太刀と比べらても、ね。僕はこれからなんだし。

 ゆくゆくはきっと…!」

 などと言ってる間に列が進み、受付の順番が来る。



「これで『ぼうけんしゃ』、なのです?」

 簡単な手続きの後、ラディからの疑問に答える。

「形式上はそうなるな。けど活動としては『冒険者』って程ではないかな。」

「どういうことです?」

「まだ様子見段階って事。実力も素性も分からない新米に、困難だったり重要な依頼は任せられないしな。それに、2人だとパーティとしては足りないし。

 だからまずは採取やら小型魔物やら、雑用レベルの事からこつこつと、だな。」

 登録署名と引き換えに渡された木のプレートと、いくつかの依頼の写し。

「それって、薬草あつめみたいなもの、なのです?」

「そういう依頼もあるね。同時に小型魔物素材の質や量、並行して依頼外の素材も採って納品すればその質、そういうところで強さと信頼度を測るらしい。

 で、十分に強くて信頼できるパーティとされたら、それが一人前の冒険者ってやつだ。 …ここまでOK?」

「ちょっと、あやしいです……。」

「んまぁ、要は『位を上げたければ力を示せ』って事だ。」

 手近な席で、依頼内容の確認。近場の植物素材採集がいくつかと、小型魔物の角の納品。

 要求量こそ多めではあるが、この辺りの環境に慣れるには、丁度良さそうだ。

「…簡単なのとはいえ、依頼は依頼だ。

 気合い入れていくよ!」

「はいです!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る