かわいい女の子とこんな日常を過ごしたい!

明月 悠

文学少女編

文学少女編 その1

「さてさて、窓際の女神は…」

 放課後、図書室へ入り、迷わず向かうは一番奥の隅のテーブル。

「お、いたいた」

 そこには、陽の光を頼りに本を読む彼女がいた。

 すぐそばの窓は少し開いていて、初夏のさわやかな風が彼女のきれいな黒髪をなびかせている。

 時折、風に踊る黒髪を押さえるようにしてかき上げる、彼女の細く白い指に目を奪われる。


 俺は、彼女のすぐ対面ではなく、あえて少し離れた一列隣のテーブルへ。

「うん、いい眺めだ」

 彼女に、向かい合うようにして座った。

 我ながら変態チックだとは思いつつも、いつもの特等席で、彼女の顔に目線を向ける。

「相変わらず、没頭してるなぁ」

 彼女が読書に集中しているのをいいことに、眺め続ける。いや、変態チックどころではないよなこれ、自分でやっててなんだけど…。

「…なによ?」

 とか、勝手にモノローグにふけっていると、彼女はこちらに気付いて目線だけを向けてくる。

「こちらはお気になさらず、どうぞ続きを」

「さすがにそうじっと見られてると、読みづらいんだけど…」

 照れるようにして、開いたままの文庫本で鼻の上まで顔を隠す彼女は、ジトっと細目でこちらを睨む。

 俺は、この仕草が結構好きだったりする。

「だから、何なのよぉ」

 いかん、また見つめてた。まあ、半分ワザとだけど、照れる彼女を見たいから。

 なぜって?


 照れてる女の子って、かわいいじゃん?


 というのはおいといて、彼女に向き直る。いや、ずっと彼女の方を向いてたけど。

「ごめん、ついね」

「ついって、どういうことよ?」

「まあまあ、それより何読んでるの?」

 はぐらかそうとする俺の態度に、納得いかない様子だけど、

「ん」

 本の表紙だけをこちらに向けてくる。

「あ、それ、俺も読みたかったやつじゃん」

 と言いつつ立ち上がり、興味を惹かれた俺は彼女の隣の椅子へ座り。

「ちょっと読ませてよ」

 彼女の手の中で開かれた本をのぞき込む。

「ちょ、漫画じゃないんだし一緒になんて読みにくいでしょ、それに途中からなんて」

 風に揺れる彼女の黒髪が、俺の鼻先をそっとなぞる。いい匂い…。

「そりゃ、ごもっとも」

 これはさすがに俺もちょっと気恥ずかしいというかなんというか。

「さっきから何なのよ」

 近すぎた距離から適度な距離感を確保して。

「まあその、かわいい女の子がそこにいたらさ」

「また、そんなセリフ言って…、で、ご用件は?」

 最初は、これで照れさせたりもできたけど、言う側の恥ずかしさたるや…、というか口説き文句といっても過言ではなかったかも。我ながらクサいセリフだとは思うけどね。

 まあもう慣れたし、俺も、彼女も。だから、照れさせる効果はなし。どちらかと言えば挨拶みたいなもので。

「いや、何かおすすめの本教えてもらおうと思って」

 目の保養はできたし、ここからはまあ普通に?

「だったら最初からそう声かけてよね」

 目線を本に戻す彼女。

「邪魔したら悪いじゃん?」

「見つめる方がタチ悪いよ?」

 しかしすぐ、横目でちらりとこちらを睨む。

「そうかもね」

「わかってるならしないでほしいなぁ」

 と言う彼女、実は気付かないふりをしているんじゃないかと思ってる。

「ま、それはおいといて、最近読んだ恋愛小説、面白かったかな」

 今度はちゃんとこちらを向いてから、教えてくれた。

「お、今度は恋愛ものか」

「確か、ここの図書室にもあったはずだから、借りて帰ったら?」

「え、帰るの前提?もう少し…」

「私と向き合ってないで本と向き合いなさい、図書室じゃそうならないでしょ」

 やっぱり、いや絶対、気付いてるんじゃないか?こいつ。

「はいはい、わかりましたよー、本借りてさっさと帰りますよー」

 俺はしぶしぶ立ち上がり、彼女に背を向け、

「ちゃんと感想聞かせてよね」

「わかってますよ」

 ひらひらと手を振りながら、背後からの彼女の声に応えつつ、本棚の方へと足を向けた。


 とまあ、これが本好き同士で出会った俺と彼女の日常。

 本に興味がない人にとってはつまらないかもしれないけど、俺はこれで充実感をしっかり噛みしめている。あと幸福感もね。


「あ、題名なんていうの?」

 カッコつけて立ち去ろうとしたけど、肝心の題名を聞いていなかった俺は、彼女のもとへとUターン。

「はい」

 と、彼女はわかっていたかのようにすぐに付箋を差し出してくる。

「おう、ありがと」

 それを受け取り、俺はそそくさと本棚の方へと足を向けた。

「さぁて、本借りて帰るとしますか」

 彼女が勧めてくれる本はかなり面白いものが多く、帰って読むのが楽しみだ。

「やっぱり俺たち、趣味あってるのかな」

 なんて、ぼやきつつ帰宅の途へ。

 あれ?そういえばあいつ、この付箋いつ用意したんだ…?

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