寄生なんてしないんだから!

禾遙

第1話

「寄生されるからこいつに声掛けるのやめたほうがいいぞ!」


ドキドキワクワクして目の前の全てがキラキラしていた時間はその一言で真っ暗闇と化してしまった。





「ついに、ついにここまできた……」



大手ゲーム会社3社が手を取り合同開発された夢のゲーム。普段ゲームをやらない人でも知っているというくらい話題となっているVRMMORPG。そのテストプレイが行われるとくれば応募は殺到するに決まっている。勿論私も応募した。そして凄まじい倍率にも関わらず見事当選した私はこうして剣と魔法の世界に降り立ったのだ。


しかしここで爆弾が落とされた。


何も本当に落ちたわけではない。始まった直後にきた運営からの手紙にはゲーム期間内にラスボスまでクリアされなければこの世界は崩壊しゲーム発売も無くなるという。


これは一大事だ。


テストプレイヤー達は奮起した。

このテストプレイは超高速加速思考を採用しており専用の施設から行われている。一晩寝ている間に行われるテストプレイだが、ゲーム内時間にすると300日にもなる。その間にクリアを目指せというのだ。


そんなの聞いてない(いや、知らなかったんだけど)私はかなり尖ったスキル構成をしていたのだ。エンジョイ勢な私は興味だけでスキル選択をしていた。始まった時点で戦闘に必要なスキルや生産に必要なスキル、両方を持っていなかった。使えそうなのと言えば採取と採掘くらいか……。そんな女に声をかけた1人の男が口にしたのが忘れもしない悪魔の言葉。


「寄生されるからこいつに声掛けるのやめたほうがいいぞ!」


ニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべ馬鹿にしたようにこちらを見る男。「お前から声かけたんだろ」とか「寄生するつもりなんかない」とか、言いたいことは沢山あったが急なことで頭が真っ白になってしまった。周りから集まる視線が全て軽蔑の眼差しに思えて咄嗟に走って逃げた。


そして引きこもった。


いきなりの悪意に耐えられなく、更に絶好の引きこもりスポットを見つけてしまった私は30日間も引きこもったのだ。引きこもった場所は王立図書館。何冊あるかわからない見渡す限りの本に埋められた空間。そこで私は誰に咎められる訳もなく本を読んで引きこもったのだ。


そこで私は運命の出会いを果たす。







「おい!今ラピスラズリ工房のエクスカリポーション売り出されたらしいぞ!」


「まじか!?」


「ま、もう売り切れたけどな」


「まじかよー」


ここは商業ギルド。ラピスラズリ工房のルリは正体不明のプレイヤーだ。トップクラスの薬品をある時ふっと商業ギルドの委託販売所に商品を流す。ルリ以外に作れる者が未だ現れない為、エクスカリポーションはルリの独占状態だった。


そう、そのルリとは私の事だ。


図書館で集めた知識で生み出した金を産む薬、エクスカリポーション。これ以上に凄い薬も実はあるのだが世には出さない。私だけが使えればいいのだ。

では何故エクスカリポーションを市場に流すのかと言えば、私にはお金が必要であるからだ。


私が運命の出会いを感じたのは1本の杖の記述。伝説と言われたそれは実は人の手で作ることの出来るものだった。私は調べまくった、その杖の作り方を。

その過程で仕入れた知識でエクスカリポーションや他の薬品を作ることに成功するのだが、これは予期しない幸運であった。


「ついに目標金額達成!」


ギルドの隅で小さくガッツポーズ。しかしそんな私を気にする者は誰もいない。何故なら認識阻害の魔法をかけているから。


「間に合った……」


ゲーム終わりの期日までもうあまり日がない。しかもラスボスがいるユグドラシルダンジョンも最深層の100階がクリアされ残すはラスボスのみという状況。1度アタックが行われたが惨敗という結果。この知らせにホッと胸をなでおろしたのは記憶に新しい。


ラスボス攻略をされては困る。


これは復讐なのだ。


攻略組のトップにいるチームにあいつはいるらしい。そう、寄生だと悪意をぶちまけたあの男だ。寄生だと嘲笑った役立たずの女に最後の最後、トップ攻略者という最高の称号を掻っ攫われたらどう思うのだろうか?


私はあの男に復讐する為だけにここまでの日々を費やした。




「決戦だ」




◆◇◆



目標金額に達したその足でルルディア王国の王様に会いに行き、そこでお金と引き換えに最後の花の種を手に入れここ空中庭園へと戻ってきた。この空中庭園は空に浮かぶ私だけの庭である。ここに今まで苦労して集めた種が規則に従って植えてある。そして最後の1粒、この黄金の種を今定位置に丁寧に植えた。


その種が植えてある庭園の中心には複雑な魔法陣が描かれている。そこへ入って最後の呪文を唱えるのだ。


「グローイング シークレットフラワーズ!」


私の庭が暖かい光で満たされる。みるみるうちに土から芽が出て花々が咲き誇る。

そして私の頭上に光は螺旋を描くように集まり、1本の杖となった。


「完成……したの?」


ふわりと手の中に舞い降りた可憐な1本の杖。恐る恐ると握ってみると、急に重力を取り戻したのか、ずっしりとその存在感を伝えてくる。


「本当に、出来たんだ……よっしゃーーー!」


これで、ラスボスに挑める。すぐにでも。


私は箒を取り出しそこに横座りする。目指すはユグドラシルダンジョン地下100階。

ここからなら飛んで行った方が早く着ける。


「全力前進だぁー!」


ビュンッと凄い勢いで飛ぶ箒、マッハ君3号。これはまだまだ改良中らしい。これ以上早くても操縦がしにくくなるので私には十分なのだが……彼はどこまで速さを求めれば気が済むのだろうか。


閑話休題。


しばし空の旅を楽しむ事もなく無心で進むと、ユグドラシルダンジョンの入口が見えてきた。

箒から飛び降り、入口前にある巨大な石碑に手を触れる。


「90階ワープ」


フワリと視界が揺れ、次に立っていたのは洞窟のダンジョンの中だった。


「急がないと!」


そろそろボス討伐に向かうという情報も出回っていた。先程エクスカリポーションを流したのですぐ討伐隊が組まれるだろう。なんたって買い付けたのがアイツが所属しているクランだった。期日も迫っている事もありすぐ行動にうつすはずだ。


100階までは攻略済みであり、そこまでの道順は全て把握し記憶している。


「リトルスター」


魔道書を取り出し魔法を展開する。この魔法は一定の範囲に入った敵を攻撃する魔法だ。今回はスピード優先なので通り過ぎるだけの隙が出来ればいいのでこの魔法のみ展開する。


私の魔法はちょっと変わっている。他に使っている人を見たことないし、スキル取得まで結構大変な道のりなのだ。まず前提条件として魔法スキルを取得してはいけない、という事。魔法が使いたかったら1属性くらいゲームが始まる前の初期スキル選択時に取ってしまっただろう。次に魔道書を1000冊読む事。魔導書といってもそれだけの数になるとお店には売っていないし、読むためには様々な言語を取得しなければならなくなるだろう。因みに私は全10言語カンストしている。馬鹿にされた言語スキルが役に立っている、ざまぁ。

ま、それは置いておいて……。1000冊読んでスキルポイント100P消費してやっと取得出来るのがこの魔導書スキルなのだ。


私はこのスキルにかけた。


このスキルとシークレットフラワーズの杖があれば単独でラスボスすら倒せると思った。

魔導書スキルは今まで読んだ事のある魔導書の魔法を魔法陣として自分の魔導書に刻印することが出来るスキルだ。そして一度目視し魔法陣の魔法名を唱えるだけで魔法が顕現する。

これは凄いスキルだ。それから私は早口スキルと自然魔力回復スキル、MP強化スキルを鍛えた。速読のスキルはその時点でカンストしていたので後必要なのは早く詠唱する力とMPの量と回復速度を上げることだった。

そしてこの力を使う上で重要なのがシークレットフラワーズである。この杖の効果は魔法の威力増幅だがそれ以上にチートなのが多数魔法展開行使力である。

私が考えたのは、浮遊スキルで浮かせた魔導書を念力スキルで凄い速さでめくり、速読スキルで魔法陣を読み取る。そして聞き取れないくらいのスピードで魔法名を唱える、といった戦術なのだが、あまりにも速すぎで順に展開しているにも関わらず同時行使とみなされ魔法が最初の1つしか展開されなかったのだ。そこで必要になってくるのが杖の力、多数魔法展開行使力である。これは理論上MPの尽きぬ限り魔法の多重展開が出来るのである。ぶっつけ本番になってしまうがどうにかするしかないだろう。


「見えた!」


100階へと降りる階段の前で箒は止まる。

急いで階段を下ると見えてきたのは、巨大な門がゆっくりと閉まってゆく様。


遅かった


門の向こう側へと消えていったプレイヤーの腕には、アイツの所属しているクランのエンブレムが。閉まる寸前、最後尾の男が振り向いて驚いた顔をしていたのが見えた気がするが、既に私の意識は間に合わなかった後悔で溢れていた。





どれくらい経っただろうか、扉はあいかわらずしまったままだ。


このダンジョンではボスがクリアされると扉が消える。扉が閉じているときは挑戦中。あいているときは挑戦可能、という仕様だ。

まだ消えていないという事は倒されてはいないのだろうが、それも時間の問題かもしれない。


その時。


ギギギィィィィィィーーーーーーーーーー……


重低音を響かせながら扉が開きだした。


「まさか…」


ギィィィィィィーーーーバタン!


そして完全に扉は開ききった。




まだ、間に合う。




「ふぅ……」


詰めてた息を吐き出して、一度大きく深呼吸をして煩い心臓を落ち着ける。


最後に腰に装備したホルダーのショートカットにきちんと薬が収納されていることを確認し更にアイテムボックスからある薬を取り出した。


エクスカリバーポーション


そう、かの有名なあのエクスカリバーの名を冠するポーションである。

効果は全ステータスの倍増と固定ダメージの追加である。

これなんてチート?って思ったけど効果が1分と短いので切札的存在だ。


エクスカリポーションとは何とも中途半端なネーミングだと感じた人も多いと思う。そう、エクスカリポーションとは未完成の薬だったのだ。その次の段階はエクスカリバポーション、その次がエクスカリバーポーションとなる。しかもこのエクスカリバーポーション、実は改良品であり、通常必要なリキャスト時間が無いのだ。通常であれば薬品類を使用すると、次使用できるまでのリキャスト時間が発生する。このエクスカリバーポーションであれば30分は次の薬を飲むことが出来ない。しかし改良に改良を重ねた結果、私自信が使う薬品は全てこのリキャスト時間を無くすことに成功した。ホルダーのショートカットに入っている天上の美酒という瞬時にHPMP全回復する薬や祝福の雫という全状態異常即時回復薬もそうだ。

ちなみにホルダーには3種類のショートカットが設定でき、1種類につき99個セット出来る。ここに天上の美酒、祝福の雫、エクスカリバーポーションを最大数までセットしてある。改めてエクスカリバーポーションを確かめるようにホルダーにしまいなおす。


準備は整った。


「よし、行くか!」


私は1歩、ゆっくりと足を踏み出した。






ギィィィィ……………バタン


扉をくぐると、後ろで閉まった音がした。

おそらく次はない。この1回に全力をかける。


さっきまで洞窟にいたのに、扉を潜った向こうは空の上だった。実際に空の上かはわからないが、辺り一面雲海が広がり、とりおり見える雲の切れ間からは底が見えない程の闇が広がっていた。


1本道の両サイドには松明で等間隔に灯がともっており、まるで奥へ奥へと導く道標のようだ。


そこをゆっくり進んで行くと円形の広場が見えてきた。そこへ足を踏み入れると戦闘開始だ。初めは雑魚モンスター集団を倒すらしい。何回か波があるらしく、1回に現れる数は100匹以上だとか。仕入れた情報では、段々強くなっていくモンスターを倒しきれなく、当のラスボスには辿りつけなかったらしい。それでも8回までは倒しきったという事だ。


さて、何回倒しきればラスボスと対面できるかな?


私はエクスカリバーポーションを取り出していつでも飲めるように準備する。そして魔導書と杖も取り出して広場へと足を踏み入れた。




真ん中あたりまで歩いて行くと、目の前に黒い光に覆われた女の人が現れた。


『許さない……許さない…………許さないぃぃぃぃぃ!!!』


その女はヒステリックに叫ぶと黒い光と共に空中へと浮かび上がった。その瞬間黒い光が膨らみ、目の前の空間を歪める。そこから情報通りにブラックウルフが現れた。


「え?これだけ?」


しかし情報と違うところが1つ。何故か10匹しかいないのだ。情報では100匹以上と言っていたのに。


「とりあえず、『シュート』『ファイヤーボム』×10」


手に持っていたエクスカリバーポーションをゴクリと飲み干し、高速で呪文を唱える。看破というスキルと更に使いどころの無いと奴に馬鹿にされた図鑑スキル効果によって、ブラックウルフの弱点属性が私には見えていた。ブラックとつくから弱点は光属性と思われがちだが、実は火属性なのである。シュートという魔法は半径100m内の近いモンスターに魔法を誘導するものだ。とっても使い勝手が良くて気にっている。


エクスカリバーポーションの効果のおかげでファイヤーボム1発で倒せるだろうと考え、10発唱えた。

目の前で爆炎が上がるが、自分の放った魔法でダメージを受けることは無いので私は避けることも無くその場に立っていた。


「ウィンド」


ざぁっと目の前を風が通り過ぎ、煙がさっと晴れる。

敵HPも見えていなかったので残りはいないとわかっていたが、これで第1陣が終わりだという事なのか?


そしてまた目の前の空間が歪み、これまた情報通りのワイルドボアが現れた。10匹。


「これって……」


これもサクッと弱点属性で倒しきると、次も情報通りバーサクベアが現れた。しかし数はやはり10匹。


「やっぱり」


これで確信した。恐らくこのラスボスの前座と思われるモンスター達は1人につき10匹現れるのだろう。このボス部屋へ入れるのは12人まで。おそらく普通はマックスに近い人数で挑むものだ。だからこのモンスター達も120匹はいたはずだ。そりゃ大変だわ。

毎回同じ人数で挑んでいれば、その大群を倒さなければ先に進めないと考えても仕方ないかもしれない。だって毎回同じ数出てくるんだもん。


ま、ソロで倒し続けるのも普通は辛いものだけど。


バーサクベアは弱点属性はないが、非常に混乱させやすい。


「『オール』『ナイトメア』」


オールは全体に影響を与える範囲攻撃で、ナイトメアは幻覚の一種で恐怖体験出来るものだ。これは混乱の上位に位置する魔法で、幻覚を見せながらダメージも与えるものだ。更に幻覚で敵と戦っているので、その攻撃と錯覚して実際攻撃しても正気に戻る確率が低い。


バーサクベア達は見事に幻覚に囚われたようだ。そこからはずっと私のターン。ウィンドカッターで何度も切りつけ程なく終了。


思ったよりも良い感じ。


その後はオーガ、ゴーレム、ロック鳥、ビックスライム、グリフォン、コカトリス、レッサードラゴンと続いた。グリフォンまでは情報を得ていたのでそこまではすんなりと進んだ。最後の2種類は初見という事もあり多少苦戦はしたが、メジャーなモンスターであり知識もあったので弱点をついて倒しきった。何より同じ種族でしか出てこなかったので助かった。しかも10匹ずつ。これが100匹以上の大群となるとこんなに簡単にはいかなかっただろう。


『何故?何故なの?何故あなたはまだそこに立っているの?……許さない……許さない、許さないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』


宙に浮いていた女の叫びと共に地面から樹が生え、女を包むように空へと伸び広がる。そしてその表面に上半身だけ女が生えてきた。


『もう、終わりにしましょう?』


にっこりと笑った女の背後から鞭のようにしなる枝が現れ地面を叩きつけた。その数10本、ウネウネと狙いを定めるように蠢いている。


「うっ……ちょい気持ち悪っ……『イソレイション』!」


思った以上のスピードで振り下ろされる枝をシールド系の魔法でなんとか凌ぐ。

一旦距離をとり、天上の美酒で全回復しエクスカリバーポーションでドーピングする。


そしてすっと息を吸い込んで杖の先を女へと向けた。

そして浮かした魔道書をスキルで捲る。


「『フレイムバレット』『ファイヤーショック』『エクスプロージョン』『フレイムヘリカルスポート』『ダイダルウェイブ』『ウォルタービーム』『ウォーターランズ』『スパークサンダー』『メテオ』『サンダーボルト』『アイスペブル』『アブソリュート』『アイスカッター』『ウィンドビックボール』『テンペスト』『グレイトトルネード』『ライトスクリュー』『ダークホール』『 レインボーブレス』……行けっ!」


女に向けて魔法を放った。


ドォォォォォォォォォォォォン!!!!!


目の間には色とりどりの魔法陣が展開されている。

今現在私が使える魔法の中で強い順にかつ、使えるMPギリギリの範囲で選んだ魔法達。この日のために試行錯誤し覚えてきたのだ。


一息で言ってやった。言い切ってやった。


「ま、そんな簡単にいくわけないよね」


ダンッ!


サッっと一歩後ろに下がるとさっきまで居たところを色の変わった枝が抉った。

煙がはれた女の生えている樹を見るとさっきまで茶色だったのに、紫色に変色している。


「へっ?」


そして驚いたのはその女のHP。ボスのHPバーは可視化されているのだが、それが1/3程に減っているのだ。


「おわっ!?」


唖然としている暇はない。

さっとポーチから天上の美酒を取り出し一口で飲み干す。


「『イソレイション』!」


再度結界を張って避けるが、さっきまでとは違い、息をつく暇も与えない勢いで迫り来る枝々。結界が切れる度再度結界を張り直すが、いつまでもこのままではいられない。しかしさっきと同じように魔法を唱えようものなら魔法の行使前に攻撃を受けてやられてしまうだろう。


隙は、ない。本当に?




諦められない




私には今回のラスボス戦がラストアタックなのだ。さっき入っていったアイツのメンバーがこっちを見ていた気がした。アイツは直ぐに準備を整えてやってくるだろう。


諦めるわけにはいかない。


私はひたすら結界を張って避けながら呪文を唱えられるポイントを探した。


一体どれくらいそうしていたのか。やっと1箇所だけ、ここだというポイントを探し当てた。しかしこれは賭けである。


その場所は女の目の前。


ここは一番枝が動きにくい場所らしく、ここへ入り込んだ時だけ枝の動きが鈍り、攻撃がくるまでタイムラグが発生する。


場所は決まった。後は私の早口スキルと枝のスピードどちらが早いかだ。


「『イソレイション』、『フライ』!」


結界を張り浮かび上がる。フライの持続時間は1分間。

すぐ様天上の美酒とエクスカリバーポーションを飲み干して女の目の前に突き進む。


ピタリと女の額に杖の先を当て口を開いた。


「『フレイムバレット』『ファイヤーショック』『エクスプロージョン』『フレイムヘリカルスポート』『ダイダルウェイブ』『ウォルタービーム』『ウォーターランズ』『スパークサンダー』『メテオ』『サンダーボルト』『アイスペブル』『アブソリュート』『アイスカッター』『ウィンドビックボール』『テンペスト』『グレイトトルネード』『ライトスクリュー』『ダークホール』『 レインボーブレス』……行けっ!」


ドンッ!!!


私はその瞬間枝に弾き飛ばされ地面に叩きつけられた。

目には見えなかったがキチンと魔法は行使された。


あぁ、薬を飲まないと。


私のHPはぐんぐん0に向けて減っていく。


待って、もう少しなの。あとちょっとでしょ?


結界はもう切れている。MPも0。あと1撃でも攻撃を受けたら間違いなくアウト。そうじゃなくてもHPは減り続けているのに。


目の前に枝が迫る。


待って、お願い、動いて!


しかし願いも虚しく麻痺の状態異常を示すアイコンが点滅している。私の身体は動かない。


あぁ、もう、おしまいなの?


枝が私の顔目掛けて振り下ろされる。


私は目をつむった。







「ん?」


いつまで経っても攻撃がこないことに目を開けると、枝が更に色を変え灰色に変色して目の前で止まっていた。


白い光が雪のように降り注いでいる。


女を見るとHPは0、これは倒したという事なのだろうか?


白い光が身体に降り注ぐとなんと麻痺が治り、HPMPも全快した。


ゆっくりと立ち上がると女の樹の前にスポットライトを浴びるように小さな若樹が生えていた。


『ありがとう、私を倒してくれて……お願い、その子を助けてあげて』


そう言うと女は塵となって消えてしまった。残ったのはこの若樹だけ。


手で触れるとすっと浮かび上がった。それを両手でしっかりと持つと目の前に扉が現れた。

その扉は独りでに開き、私は次のフロアを開放する事に成功したのだった。


私は導かれるようにそのまま次のフロアへ進み、部屋にポツンと置いてある台座に若樹を置いた。何故かこうするとわかった。

すると若樹はみるみるうちに成長しあっと合う間に大樹となった。


『ありがとう。あなたの力でユグドラシルは再び力を取り戻しました。これでこの世界は救われます』


何処からかゲームスタート時に聞いた女神の声が聞こえてきた。


あぁ、私はやり遂げたのだ。


やっと実感が湧いてきて喜びが胸を埋め尽くす。


その時、ドタドタと複数人の走ってくる音が聞こえた。ふと振り返るとフロアに入ってきた扉は消え、ラスボスへの入口があった階層が見えている。そしてそこから現れたのは……思った通りあの男だった。


「まさか……クリアしたというのか?ソロで!?」


「ねぇ、キリアさん。私の事覚えてる?」


「こっちが質問してるんだ!ソロでクリア出来るわけ無いだろ!?どんな汚い手を使ったんだ!そんなのは無効だ!」


「覚えてないの?私は忘れた事無かったのに」


「だから何を……」


その男、キリアは苛立たしげにこちらを睨みつけている。

なんだか笑えてくる。こんなにも小さい男だったのだろうか?


「プレイ初日、あんたが寄生と貶めた女にクリア先越されるってどんな気分?」


「何言って……!?お前、あの時の!?」


「思い出した?」


キリアは声が出ない程驚きこちらを眼を見開いて見つめている。後ろのメンバーは何がなんだかわからないようだけど、こんな男と一緒に居るんだからろくな奴らじゃないだろう。


ふふふ……あはははは!


「ざまぁみろ」


この一言を言い、私は帰還用の魔法陣に乗る。


「ふざけるなー!」


移動する瞬間に負け犬の遠吠えが聞こえたがもう私の知ったことではない。



復讐は成った。



「あーすっきりした!」


やっと私自身の冒険が始められる。

……と言っても期間はあと5日くらいしかないけど。


私は軽くなった足で新たな1歩を踏み出した。



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