第30話「宝石採取」

 馬車に揺られること三時間、目的の洞窟へとたどり着いたようで馬車は停止した。


「着きましたぜ」


 御者の声がして魔王はまぶたを開ける。アリスとエイリも何かを話していたようだが会話を止めた。


 エイリ、アリス、魔王の順に段差に気を付けて地に足をつける。荒れ果てた荒野の中にひときわ大きな岩があり、その岩は冒険者を迎えるように待っ二つに切られたような空洞があった。


「ここが入り口のようだな」


 魔王は店長から受け取った地図をみて確かめるとエイリとアリスを交互にみた。


「それじゃあ、私が最初に」


 そう言うとエイリは凸凹した岩場から丈夫で足と手をかけられそうな場所を見極めてはそこに手と足をかけ軽やかにエイリは下へと降りる。そして彼女は降りた先で僅かに差し込む陽の光に呼応するように光る石を見つけた。見渡すと他にも幾つか紫色に光っている箇所がある。


「宝石だ、本当に宝石があるよ! 」


 感極まったようにエイリが言う。それを聞いた魔王はアリスを抱えると足場などお構いなしだというように一気に飛び降りた。


「きゃあああああああああ! 」


 アリスが怯え声を出すもダン! と音を立てて魔王は傷一つなく洞窟内に着地した。


「凄いですね~」


 エイリが離れ業を見せた魔王をまじまじと見つめる。


「大したことではない」


 魔王はアリスを下ろすために腰をかがめながら答えた。改めて魔王は洞窟内を見渡す。僅かに差し込む陽の光と宝石の光のみで周囲は見通しが悪かった。

 これではアリスが見えぬな、そう考えて魔王が照明の魔法を唱えようとしたその時だった。


「失礼しました、『フラッシュ』」


 エイリが咄嗟に呪文を唱える。すると小さな球体の光源が出現し光に照らされて青白い洞窟が姿を現した。かなりの広さで所々に宝石が落ちていた。


「とりあえず、ここにあるもので任務達成ですね」


 ざっと見渡して宝石が十個以上あるのを確認したアリスが呟く。しかしエイリは満足していない様子だ。


「モンスターの気配を感じないので出てくるまでまだ距離がある、もう少し奥まで行ってみましょう」


 そう言うと灯りと共にエイリは離れて行った。


「待て」


 慌てて後を追おうとするアリスを呼び止め魔王は拾った紫色の宝石を一つ手渡した。


「え、魔王さん。これは? 」


「欲しかったのだろう? 余剰分は買い取ると言ったがこちらが必ず売らなくてはならないという訳ではない。幾つか貰っても構わないだろう」


「ありがとうございます」


 アリスはそう言うと大切そうにその宝石をポケットへとしまった。


「では遅れないうちに行くとしよう」


「はい」


 そう言葉を交わすと二人はエイリの後を追いかけていった。エイリは周りの宝石には目もくれずひたすら岩肌に添って進んでいく。恐らく最初にモンスターの位置を確認するつもりだろう。


 洞窟内はかなりの高さと広さで三人並んでも十分歩いて行ける距離だったが魔王はエイリと並んで歩こうとはせず彼女の後をアリスと共に歩いた。足音は水滴がピチャピチャと落ちる音でほとんどかき消されているので足音でみつかることはなさそうだ。


 ふと、ピタリとエイリが足を止める。慌てて魔王とアリスも足を止めた。何かに気が付いたのだろう。


 耳を澄ませるとかすかに吐息のような音が聞こえてきた。エイリはそろそろと光源を上へと上げて音の正体を確かめようとする。光源が茶色の物を照らし三人が何かと首を傾げた次の瞬間、光源は恐ろしい角を生やしたモンスターの顔を照らし出した。


「はっ……」


 アリスとエイリが息を呑む。慌ててエイリが光源を消そうとするも時すでに遅し、モンスターは大きな目を開くと立ち上がった。


 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 獲物をみつけたとばかりに叫ぶモンスター、立ち上がると高さは三メートル程あった。


「なるほど、この洞窟がこんなに高かったのはこのモンスターが立つためか、大方成長したこのモンスターが自分が立って歩けるように削って回ったのだろう」


「そんなことどうでもいいから、さっさと逃げるよ! 」


 エイリは感心する魔王を他所に我先にと走り出しあっという間に見えなくなった。


「魔王さん、早く逃げましょう」


 アリスも逃げようと必死に魔王の手を引くも魔王は動かない。そればかりか魔王はアリスに声をかける。


「よくみておけ、これが貴様がいずれ戦うかもしれない者の力だ」


 そう言って魔王はモンスター目掛けて剣を構えた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る