第2話「意外な決着」

 世界の片隅にある微かに炎が燃え残っている城の最奥で勇者と魔王が剣を交えていた。勇者は立派な金色の鎧に身を包み手には黄金の剣を持っており、魔王は頭には左右に1本ずつ形の違う角が生えており目はギョロリと大きな目、身体は丈夫な鱗のようなもので纏われており極めつけに恐ろしい棘の生えた巨大な翼を生やして紫色の刺々しい剣を構えている。


「ふんっ! 」


 翼で宙を舞い勢いよく落下しながら魔王は剣を振ろうとする。それをみた勇者は剣を掲げ呪文を唱える。


「『オメガスパーク』」


 たちまち剣の頭上に巨大な球体が浮かび上がる。勇者はそれを飛んでいる魔王を撃ち落とさんとばかりに幾つかに分裂させ一斉に放った。幾つもの球体を魔王は鮮やかともいえる身のこなしで避け勇者に迫る。


「ふんっ! 」


「はあっ! 」


 それを勇者が受け止めた時に大理石の床は悲鳴を上げるように破壊されるも勇者自身はピンピンしていた。


「まだだ! 」


 魔王はそのまま攻撃側に回った有利を生かし一度剣を離すと再び勇者目掛けて真上から雷のように剣を振る。勇者はそれをみて咄嗟に両手で剣を横にして構える。


 キィン!


 魔王の一撃は勇者に防がれる。


 負けじと再び剣を離しては何度も何度も剣を振る魔王だったが、勇者はそれを防ぐばかりか隙を見つけては斬り込もうと攻撃を仕掛けてくる。


 2人はこのように数時間に及ぶ死闘を繰り広げていたのである。闘いはこれまでは勇者優勢だった。その理由は二人の剣術の差であろうか、勇者は隙を見せずに剣をつく鮮やかな剣技なのに対して魔王はただただ力任せの攻撃だ。それを補うほどの力があるとはいえ剣での勝負という点においてはこの勇者相手には力任せでは不利なのだ。


 そう、剣での勝負という点においては──


「我が人間の形態を破るばかりかここまでの闘いをみせるとは……なかなか楽しませてもらったぞ勇者よ! しかしこれで終わりだ!」


 激しい剣戟の終わりを告げるように再び空高く浮かんだ魔王が高らかに宣言する。


「はあああああああああああああああっ! 」


 魔王の声と共に城が、いや世界すら揺れているのではないかという程の凄まじい振動が起こる。しかしそれよりも恐ろしいものに勇者の目は釘付けになった。


「なんだ、あれは……」


 魔王の剣先には巨大な、勇者が放った雷撃よりも遥かに大きな黒い球体が蠢いていた。


「あれが放たれたら俺どころかこの世界が! 」


 勇者の声は焦りの余りか上擦っていた。その声を聞いた魔王は口角を吊り上げる。勇者は苦々しい顔で剣を魔王に向けた。


「こんな決着で申し訳ないが世界のためだ……許してくれ。確かにその攻撃を受けたらオレはおろか世界は滅びるかもしれない…………だが、こうして攻撃を繰り返す前はがら空きだぞ、魔王! 『エンペラーフレイム』」


 勇者が呪文を唱えるとともに先ほどの雷撃程の爆炎の球体が魔王へと向かった。人ならば蒸発してもおかしくない熱量だ。魔王が浮かんでいたところはたちまち炎で包まれた。


「や、やったか」


 勇者が魔王を倒した喜びと不意打ちという決着を申し訳なく感じるような複雑そうな声でつぶやく。だが次の瞬間、笑い声が響いた。


「……っ! 」


 慌てて勇者が声の聞こえた方向を振り向くとそこには高笑いをしながら依然球形に力を蓄えている魔王が浮かんでいた。


「ハッハッハッ残念だったな勇者よ。我には『ゲート』という一度向かった場所には移動できる魔法がある。敵の心配よりも自分の心配をするがよい! 『デミス』」


 そう言いながら魔王は既にこの巨大な城の一室を覆うほど大きな球体を放った。球体は城の天井から壁と全てをのみこみながらも勇者へと向かう。


「くっ、これを受けたら……仲間、友人のためにも! 愛する家族のためにも! 妻サリーのためにも!! 娘アリスのためにも!! ここでオレはやられるわけにはいかないんだぁーっ! ! 」


 それを聞いた魔王は勇者に「そんなことを叫んでもこの『デミス』をとめることはできないのだ」と憐みをこめた視線を送った。現に今勇者の眼前まで迫った『デミス』により剣の半分はのみこまれている。


 だが、魔王の予想とは相反して奇跡とも呼ぶべきことが起こった。突如勇者の身体が黄金色に輝いたのだ。その輝きは徐々に身体を伝い剣へと向かっていく。


「みんな、ありがとう。終焉など訪れない、これが皆の力だ! ゴールデンホープスラアアアアアアアアッシュ! 」


 勇者が叫び剣を振るったかと思うと球体はあっという間に消滅した。あとには崩壊した城と魔王、そして勇者と黄金に輝く剣だけが残った。


「フフフフフ、面白い、面白いぞ勇者よ! こんな面白い闘いは初めてだ! さあ闘いを続けようじゃないか! 」


 心から笑った魔王は勇者を迎えいれるように両手を広げる。


「いや、今のでもう力は残っていない。すまないみんな、魔王、お前の……勝ちだ」


 そう言うと勇者はドサリとその場に倒れこんだ。黄金の剣は輝きを失いただの折れた剣がカランと床に落ちる。



 ────こうして、魔王と勇者の闘いは魔王の勝利で幕を閉じた。


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