漆黒の魔王譚~最凶の魔王が最強の勇者の娘とともに王への復讐を試みる~

@yusuke226

第1話「勇者VS魔王」

 薄暗い石で作られた城内を金色の鎧を身にまとった男はカシャカシャと音をたてながら歩く。


「ここか……」


 やがて大きな扉の前にたどり着くと腰に提げてあった黄金の剣を引き抜き大きな門を開ける。剣先で軽く門を叩き魔法が仕掛けられていないことを確かめるとさやに収め。両手を門に当て力いっぱいに扉を押した。


 ゴゴゴゴゴゴゴ


 壮大な音とともに門が開いていく。


「よく来たな勇者よ」


 門が開け放たれた途端、低いながらもよく響く声が彼を迎える。勇者と呼ばれた男は金色の剣をすばやく抜くと前方を見据える。


「遂にこの時が来たな、魔王」


「そうだな。さあ、貴様は我を楽しませてくれるのか? 」


 魔王と呼ばれた黒い影は久方ひさかたぶりに訪れてきた友人を迎えるように両手を広げてみせる。


「魔王、覚悟! 」


 そう言い終わらぬうちに男は素早く魔王の元へと近づいた。しかし、数十メートルいったところでふと動きが止まる。


「貴様、人間だったのか? 」


 男は目を見開いた。声をした方向にいたのは男と同じくらいの身長で黒髪を伸ばした三十代程の男性だったのだ。


「これか」


 魔王はつまらなそうに言うと長い髪の毛を人差し指に巻き付けるように動かす。


「心配するな、我は人間ではない。これはほんの小手調べに過ぎぬ、人間の身体であると我の力が制限されるのでな、本気の我と戦いたいのならまずは今の我を倒してみよ」


 何かのゲームを楽しむ子供のような顔をして彼は言う。


「ふざけるな! お前のせいで何年も人が苦しめられたと思っている! お前はここで倒す! 魔王、覚悟! 」


 激高げきこうした様子の男はそう言っていきなり襲い掛かってきた。男が力強く地面を蹴ったかと思うと次の瞬間、彼は魔王の前へと現れる。そして笑っている魔王を斬り捨てようと疾風のごとく素早く剣を振る。魔王はそれをみて面食らったわけでもなく涼しい顔で掌を剣にかざした。


「『プロテクト』! 」


 魔王が呪文を唱えると剣と掌の間に透明な壁が出現する。


 ガァン!


 激しい音とともに勇者の剣が止まる。


「クソ! 」


 勇者は舌打ちをして後ろを振り返らずに迅速に距離をとる。


「ほう」


 しかし魔王は彼を追撃しようとはせず顎に手を当ててある一転を興味深そうに見つめる。それは先ほどまで彼の剣があった場所であったがそこに出現させた盾にヒビが入っていたのだ。


「貴様の様に威勢よく突撃を仕掛けてくる勇者はいたがこの盾にヒビを入れたのは初めてだぞ」


 愉快そうに魔王は言うと片膝を折り曲げ床に掌を当てた。


「我も本格的に遊びたくなった。これを耐えたら本気を出すとしよう。くたばってくれるなよ……『アブソルートゼロ』! 」


 詠唱を終えた途端、掌が床を凍らせると氷が流れ出すマグマのように移動して周囲をも凍らせていく。そしてその氷は壁をも包み勇者へと迫る。


「さあ、空を飛べぬ貴様はこれをどう退ける」


 苦悶くもんの表情を浮かべる勇者に魔王は声をかける。しかし、勇者は口を除いて眉一つ動かさず氷に包まれていった。彼の足を捕らえた氷はそれを伝い胴へ腕へ、最後に顔へ……たちまち勇者のいたところには巨大な一つの氷像が出来上がった。


「所詮この程度だったか」


 薄暗いながらも殺風景な部屋からみると考えられないほど氷で美しく彩られた室内で魔王が鼻を鳴らしたその時だった。


 シュウウウウウウウウ


 微かに何かの音がした、何事かと魔王が眉を顰め周囲を伺うと原因が判明し口角を吊り上げる。音は勇者の氷像から聞こえたのだ。それと同時にたちまち氷像が溶けていく。やがて完全に溶けた氷像の中から炎を身にまとった勇者が現れた。


「危ないところだった、だが凍る直前に炎の呪文を唱えていたのさ」


 勇者は得意げに言うと手を勢いよく振る。彼の手に呼応するように炎は彼の身体から離れドラゴンの形をして室内を一回りして氷を解かすと魔王目掛けて突撃していった。今度はお返しというように魔王は仁王立ちしてその迫ってくる竜を向かい入れる。


 グオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ドラゴンが唸ると同時に魔王に突撃した。


 たちまち室内は爆炎に包まれる。勇者はそれを見て頬を緩めるも一瞬だった。次の瞬間どこからか爆風が巻き起こったのだ。勇者が飛ばされないように地面に剣を突き刺すとそれを掴む。やがて風が止んだ時、メラメラと炎の中からコツコツと何かが歩み寄ってくる音を彼は耳にした。彼が固唾をのんで音のした方向を見つめるとゆっくりと黒い影が彼の方向へと歩いてくる。やがてその影は炎が鬱陶うっとうしいとでも言うように手を振る。するとたちまち勢いのあった炎が爆風により消える。


 そして、勇者の前方には背中には悪魔のような黒く棘のある翼、鎧のような強度であろう身体、頭に恐ろしい角を生やした魔王が片手に彼の様に禍々しい紫色の剣を持ち立っていた。魔王は翼をバサッとはばたかせて宙へと浮かび上がると自慢のコレクションを見せびらかすように剣を突き出す。


「勇者よ、どうやら貴様は剣士のようだな。我のこの剣は人間の状態では持てない代物でな、丁度良い。さあ、第二ラウンドといこうではないか! 」







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