● 第64話 人質奪還作戦(後編)、無事成功! でも、課題が増えました。

 ゲイルは、今にも気を失いそうな状態で次の一言を発した。


 「オデ……は、使……。

 でも、薬の副作用とかいうヤツで、全身から体毛が全部抜けて、眼もこんなキモチわりぃモンに……なっちまったダ。ダ……。

 オデみたいな人間を……、もう造らせないで欲しいダ。……頼む……」


 そこまで話すと、再び意識を失った。

 しかし今の話って、敵にとってみたらカナリの重要事項じゃないのか?

 事実なら、調辿


 そう考えている所へ、ユーリが戻ってきた。

 「外のヤツラ、全員終わらせてやったゼ。

 心配すんナ、余計なモンは焼いてネェからヨ。


 あとは、中だナ……、とにかく今夜ココに教団の人間が居たっていう痕跡は、全て消しといた方がイイだろ。

 残りは、白装束が三人と学者の爺さん……そして、ゲイルか。

 全部、俺に任せてもらってイイか?」


 「あぁ、必要な情報は聴き出せたしね。

 ユーリの言った通り、教団の痕跡は出来る限り消しといた方がオレもイイと思う」

 返事を聴くなり、ユーリはゲイル以外の四人を同時に焼き、その存在を完全に消した。

 そして、ユックリとゲイルに歩み寄った。


 「コイツには、俺の攻撃が一発も当たらなかった。

 尤も、俺の方は『ギフト』は使わなかったがヨ。

 ソレを、いとも簡単にブッチメるたぁナ……。

 オマエさん、やっぱ予想以上に凄ぇワ」


 「ユーリには言っとくけど、ソイツ……、ゲイルって奴は薬物で造られた人工的な『ギフト』能力者だったよ。さっき、自分で吐いた。

 コイツが、実験で造られ成功した、第一号なんだとさ。

 そして、その人体実験に使われた薬は支部の金庫に保管されてるらしい。


 ココには『Gの書の回収』と『人質奪還』の為に来たけど、更に一つ仕事が増えたって訳だ。

 で、相談なんだけど……」

 「モチロン、その依頼なら喜んで受けるゼ!

 報酬は……、アントワーヌを助けてくれた事でもう貰ってるからヨ」


 オレに『』の助力依頼を最後まで言わせず、ユーリは喜んで了承した。


 さて、ココは……あとゲイルだけか。

 コイツも本当は被害者なのかもしれないけど、このまま野放しって訳にはいかないよな。

 オレは、ユーリに目配せをした。

 ……そして、コノ場についさっきまで居た全ての教団関係者が灰となり、夜風に散っていった。



 ――まだ、終わりじゃない! 


 まだ重要な任務が残ってる。

 こっから、後半戦だ。



 今、オレ達二人はマーベルシュタットのほぼ中央に位置する『ドゥアーム教団』の支部の前に居る。

 ゴシック風建築に、どこかインド風なテイストが融合した不思議な雰囲気の二階建ての大きな建物だ。案の定、門番が二人居て入り口を固めている。


 しかし、俺の『箱』の結界で既に時間軸を停めてあるので、ピクリとも動かない。

 「とりあえず、中も全員停めてあるからアントワーヌさんも安全だよ。

 とにかく、サッサと入ろう」

 オレ達二人は、誰に咎められることも無く易々と支部内への侵入に成功した。


 「ユーリは、とりあえずアントワーヌさんの安全確認してくれ。

 オレの『箱』で個別に包んであるから、傷つけられたりは出来ないはずだけどね。

 その間に、この雑魚達はオレが消しとくよ」


 「了解だゼ!」

 笑顔と共に一言返したユーリが、二階へ上がっていく。


 視界から完全に消えたのを確認してから、一階に集まっていた二十人以上の白装束をそれぞれ個別に箱に入れ、ソノ全ての箱を同時に一瞬で分子レベルの大きさに収縮させてから消滅させた。


 『箱』の中身の質量は変えてないから、スローで見たら縮みゆく箱に少しずつ空間を奪われ、人が潰されていくっていう結構グロな映像が見れるんだろうな、きっと。

 オレはもちろん、ソンナ物見たくも無かったので全ての『箱』を、一瞬で収縮させてから消滅させた。おっと、忘れないうちに門番も消しとかないとな。


 さて、一階したは終わったしオレも二階うえへ行くか。

 それにしても、贅沢な造りの建物だ。

 この建物のために一体、何人のギフト能力者や一般市民の命が失われたんだろう?

 それを考えると、何ともやるせない気持ちになった。


 二階に上り、数ある部屋の扉を順番に開けていく。その全てに贅沢な調度品が配されていたが、無人だった。

 五つ目に空けた扉の殺風景な部屋に、ユーリが居た。彼の手には、アントワーヌさんが抱き締められていた。


 「ユウ……、俺のアントワーヌがやっと俺の元に戻って来た……。

 全部、オマエのお陰だ。

 本当にありがとう。

 この恩は、一生忘れネェゼ!」


 そう言うと、アントワーヌさんを優しく立たせた。

 あぁ、意識戻ったんだね! ヨカッタ!

 「全て貴方が助けて下さったと、ユーリから聴きました。

 本当に感謝しています、ありがとう」


 栗色のセミロングヘアに、黒い瞳。

 笑顔の魅力的な女性だった。

 ユーリが惚れるのも、理解出来るヨ。

 オレは、名乗りながら笑顔を返した。


 さて、安全には念を入れとくか……。

 ≪炎狼、聴こえる?

 ソッチは、皆無事に帰れたか?

 チョット頼みたい事、あるんだけど……≫


 ≪裕か、呼ばれるのを待っていたぞ。

 こちらの面々は先程、全員無事に隠れ家に到着した。

 皆、お主の事を心配しておる所だ。我から、無事を伝えておこう。

 ところで、我に頼みとは? お主は、ただ命ずれば良いのだ≫


 ≪んじゃあ、ソッチはエテルナ達に任せて、サシャを連れて全速力で教団支部……あ、場所解かんないんだったな。どうすっかな……≫


 ≪教団支部というのは、今お主が居る場所か?

 なら、その場所は完全に把握しておる。

 裕の心の中こそが、我の本来の棲み家なれば≫


 ≪それは助かる!

 とにかく、最速でオレが今居る場所にサシャを連れて来てくれ。

 アレから、話に新しい展開があったんだ。

 どうしても、サシャの力が必要なんだ≫


 ≪その命、喜んで了承した!

 サシャ殿を連れ、可能な限り速くソチラに着くよう駆けるとしよう≫


 さて、残りは白装束何人かと、支部長親子か……

 オレは、この部屋で待つ様二人に言い残し、残りのドアを次々に開けていった。

 一番奥の部屋の扉を開けると、オレの結界が感知している最後の五人がときの流れを停めたままソコに居た。


 オレは躊躇ためらう事無く、三人の白装束をサッキと同じ方法で消し去った。


 そして、まず支部長の時間軸だけをオレに同調させた。

 気がつけば、護衛の白装束はらず、目の前に全く見知らぬ人間が一人だけ存在している……。

 彼は、この状況に正直アタマが付いて行っていない様だった。


 「お、お前は誰だ!

 どこから入った。

 護衛はドコだ?

 誰か、誰か居ないか?」


 「オレは、ユーリの友達だ。

 先に言って置く、護衛はもう誰一人居ない。

 オレが消した。

 アンタも消されたくなければ、オレの話を聴け」


 「い、一体、コレは……どういう事だ?

 何故、私の息子が固まっている?

 ドウなっているのだ?

 何でも……、そうだ、何でもいう事をきいてやるから助けて欲しい」


 「んじゃあ、まずゲイルを造るのに使ったとかいう薬物が隠してある金庫を開けてもらおう!」


 「貴様……、い、いや貴方は何故ソノ事を?

 あれは、この支部でも限られた者しか知らないはず……。

 ところで、ゲイルは……あの男はドコに行った――」


 「オレは、金庫を開けろと言ったはずだ!

 今すぐ開けないなら、息子が潰れていくさまをソノ目で見るがいい」


 言いながら、オレはキザでストーカーまがいの真似をトリシャさんにしたあのお坊ちゃまの『箱』をユックリと縮ませた。もちろん、時間軸を同調させてからね。

 ただ、声は聴きたくなかったので『箱』の中に留めたままにした。

 目に見えて『箱』が縮んで行き、お坊ちゃまは苦しそうだった。


 「わ……わかった……。

 今すぐに開けますので、息子の命はお助けください」


 言いながら、支部長はデスクの脇にあった隠しレバーを操作する。

 すると背面の壁部分半分ほどのスペースを占めていた本棚がスライドし、内側から頑丈そうな金庫が現れた。支部長は、ここでも幾つかのレバーを操作し金庫が開いた。


 「さて、質問を続ける。

 この薬物はドコで造られたモノだ?

 誰が造ってる?」


 「金庫の中に、書類が全部揃っていますので……、好きにお持ちください。

 その代わり我々二人の命だけは……どうかお願いです……」


 「アンタは……、いやアンタらの教団はそう言って助けを求めた人間を一体今までに何人殺してきた?

 オレの両親も、教団に命を奪われた。

 悪いけど、俺はコノ手をどれだけ血で汚そうとアンタら親子を許せない」


 抵抗する暇を与えず、まずはお坊ちゃまの『箱』を一瞬で収縮させ、消滅させた。そして、ソレを呆然と見ていた支部長にも同じ末路を与えた。


 コレで、オレ達の『人質奪還作戦』は終了だった。

 辺りは、ただ静けさだけが満ちていた……。

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