紅の亡霊、ユーリ・ランゲンドルフという男

● 第57話 ユーリとのナイショ話。 ~その1~

 自分の手にした【カスタム・カランビットナイフ】を、オレは思わずシースから出しソノ心地よい重さを感じながら、改めて実物を眺めた。


 構造が『フルタング』だって言うのは武器屋で見た時に確認していたが、実際に握ってみるとソノ特徴としてよく挙げられる『重い』『バランスが悪い』等の印象は、全く感じなかった。むしろ、実用に向いた『重さ』と絶妙な『バランス』を兼ね備えていた。


 刀身を含め、ハンドル部分も色はガンメタかむしろ黒に近い色をしており、鈍いツヤを持っていた。材質は何なんだろう?

 

 鉱石を溶かし固めた様にも見えるし、獣の牙や爪から削り出した様にも見え、また全く違う物質の様にも見えた。

……ん? 気のせいか? 前にもコンナ事を考えた憶えがある様な気がするな……。


 「オマエさん、ホントーにそいつが気に入ったんだな。

 カランビットなら、他にも沢山置いてあっただろうに……。

 それは、まぁイイや。

 後で、詳しく説明してやるヨ、ソイツの凄さって奴をナ。


 ――それよりも……、ダ。

 助力を仰いだ本人である、コノ俺が言うのも何なんだけどヨ。


 ユウは、……

 普通だったら、疑って当然だと思うし、俺なら多分そうしてる」 


 すっかり【カスタム・カランビット】に夢中なオレに、ユーリが問い掛けた。

 「まぁ、確かにそうだよなー……。

 ソノ点は、確かに自分でも不思議に思ってる。


 でも、一つ言えるのはさ……、ユーリはあの石段のトコで初めて逢った時ドゥアーム教団の加勢をしに来なかったんだよね。

 自分では『契約前だから』とか『雇い主はオマエじゃない』とか、傭兵らしい事言ってたけどオレはその言葉聴いたら、コイツ本当は今回の仕事やりたくて受けたんじゃなくて実は案外マトモな考え方の出来る、イイ奴なんじゃないかって思ったんだ。


そもそも、平和的統治のギフトの効力があった時、傭兵の仕事ナンテあったの?」


「オマエさん……、見かけによらず鋭いんだナ。

 面白いヤツだよ、やっぱり。

 あぁ、その通り。

 俺は今回の仕事に関して言えば、ハッキリ言って乗り気じゃなかった。


 俺の目当ては、奴らのギャラだけだったんだ。

 結婚って事んなりゃ、これから色々と要りようだからな。

 だから、思いっきりフッ掛けてやったんだが……、奴らそれでも二つ返事で合意したんだ。


 今にして思えば、奴らは最初から俺にギャラなんて支払う気は毛頭無かった訳だけどヨ……。


 それにな、

 平和的統治の力が及んでた時は、要人の護衛から民家の階段の修理まで何だってやったサ。言うなら、便んダ。


 これでも、結構色んな需要があってヨ……。

 中でも忘れらんネェのが、まだ平和的統治のギフトがソノ効力を発現して間もない頃にナ。信じネェかもしれんが、モノ凄ぇ名誉な仕事が舞い込んで来やがったんダ。

と思うゼ……。どんな仕事だったと思う?


 ――それはヨ……、


 若造で売り出し中だった俺には、願ってもない仕事で……、ん? 

 オイ! どーしたヨ、ユウ? 何で、そんなにむせてんダヨ? 

 コイツは、嘘ジャネェぞ!」


 何だよ、コノ『』的な展開は!

 カフィールが、変な所に入っちゃったじゃないか。


 オレの爺ちゃんが、カイザールさんの護衛にユーリを付けたの? 

 いや、でもチョット待てよ! そしたら、ユーリって今何歳になるんだ?

 ――


 「別に、ソノ事は疑ってないんだけどさ……。

オレが思ったのは、って事ダヨ。

そして、ソコから考えられる事実はコノ一つ!


――!」


 「ハーン、なるほど……というか流石に鋭いと言うか、ヤッパリ面白いヤツだゼ!

 まぁ相手がオマエだし、いずれは話そうと思ってたんだガ……。

 ユウ、オマエの考えは正しいゼ。

 !」 


 やっぱりナー。

 でも、そうなるとヤッパリ気になるのは、ソノ能力の内容って事になるんだけど……ね。ココは、流れで普通に聴いちゃった方がイイな。


 「ソノ顔は、俺の『ギフト』能力がどんなモノなのか?

 内容が知りたいってトコか……。

 普通に教えてやるヨ。

 もうココまで話したんだし、アル意味オマエは俺の同志だからナ。


 コノ俺、紅の亡霊クリムゾン・ゴーストと呼ばれる傭兵……、なのサ」


 なるほどな、炎を使えるのか。

 ローマーさんは水だから、真逆な『ギフト』だな。

 コレは、帰ったら報告を兼ねた会議しないとだなぁ……。


 しかし、カイザールさんコノ事知ったら驚くだろうなぁ。

 話次第では、逢いたいって言い出すかもしれないし。

 でもこの、デリケートな作戦前に逢わせちゃってイイんだろうか?

 その前に、オレの爺ちゃんがユーリに護衛任務を与えた初代宰相だって伝えなくてイイのか?


 オレの頭の中は、千々に乱れていた……。

 ソレを見透かしたかの様に、ユーリの言葉が飛んできた。

 「さて、俺の秘密っつーか身の上は、大体話したゼ!

 ユウ、……」

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