● 第35話 地球は青かった……じゃなくって、『森』は赤かった!

 オレ達一行は、街道から細い獣道の様な脇道に入りサーシャの言った『不帰かえらずもり』と呼ばれる場所に向かっていた。

 あ、蛇足だけどヤッパリというか予想通りというか、作戦会議をしていた『旅人の憩いの場』にはオレ達の動向を監視していたニセ旅人が二人居た。


 なんでわかったかって? そりゃ、あんな素人丸出しのヘタクソな尾行じゃ、子供でも気付くってもんだ。だから、街道に出て人気ひとけが途絶えたタイミングで、オレは道を聞くふりをして彼らに近付き、強めに当て身を喰らわせ二人の意識を絶った。相手が素人レベルのお粗末な尾行者だったので、ソレはいとも簡単な事だった。


 さて……と、オレは人気の無いこのタイミングで他のメンバーに『不帰の森』について質問してみる事にした。

 「ねぇ、『不帰の森』ってどんな場所なの? 名前からして、一度入ったら戻って来た者は居ない……みたいな雰囲気がプンプンなんだけど、皆は知ってるの?」


 「ユウ様、実の所『不帰の森』とは普通の人間であれば、まず近付く事の無いであろう、コノ世界でも有数の危険地帯の一つです。こんな事態でもなければ、絶対に近付く事すら無かったと思います。しかしながら、サーシャ様の仰る様に『姿を消す』という意味においては、これ以上無い最適な場所であります!」

 ギトリッシュさんが、いつもの様に元気イッパイに答えてくれた。


 「そうなのサ……。とにかく『姿を消す』っていう第一の目的を果たすためには、本当にうってつけなのサ。アソコには……、のダカラネ……」

 サーシャがすかさず、補足説明を入れてくれた……のはイイんだけど、人を喰らう獣って……まるで、異世界ファンタジー物の深夜アニメじゃないか! あ、よく考えたらココって異世界だったっけ。


 つーか、本気でソンナ場所にノコノコと入って行くの?

 「信じない訳じゃないけど、ソンナ危険な場所に入っちゃって大丈夫なの? 

 オレ、この歳でソノ獣とやらに喰われたくないんだけど……」

 「ソノ点に関しては、このボクに任せておけば何も問題ナイのサ。

 さぁ、見えてきたよ! 目指すべき『不帰の森』が……」

 皆が一斉に、サーシャの指差す方へと目を向ける。

 ソコには、チョットばかりオレの想像とは違う景色が広がっていた……。 


 今までコノ世界で目にしてきた森や木々といえば、所謂『常緑樹』が主で土壌が肥沃である事、そして気候が的確に管理されている事からか、どれもイキイキと滴る様に茂る濃緑色こみどりいろの物だった。


 しかし、今からオレ達が立ち入ろうとしている『不帰の森』は……、一言でいえば真っ赤だった。

 まるで、コノ森の生態系だけが他の場所とは全く違う進化の道を歩んできたかの如く、その赤い森の大部分を占めていると思しき大きな赤い葉を持つ樹木は、初めて見る物だった。


 そしてよく見れば、赤いのは葉だけじゃなかった。ソノうっそうと茂る赤い木々が生えている土壌、即ち地面もまた現世で言うトコロの赤土を更に色濃くした様な赤……というか、えんじ色に近い色で覆われていた。木々の枝のみが黒く見えたが、『昼尚暗い……』という表現がぴったりな程、大きな赤い葉に日光を遮られたソノ場所では、枝が本当に黒いのかどうかさえ判別出来なかった。


 いやー、これはまたスゴイ所に入って行くんだねぇ……。なんて思いながら、オレは『箱』の能力で自分達の周囲に結界を張った。コレなら、仮に森の中で誰かが迷っても容易に位置を特定できるしね。うん、何事にも安全対策は大切。



 オレ達は、人気が絶えている今のタイミングを逃さず『不帰の森』に分け入った。しばらくは、普通の赤暗あかぐらい森が続いていた。しかし次第に霧が濃くなっていき、今は前に話した通り危機感を抱く程の状態になっている……。

 この状態が続けば、進むどころか力尽きるまでコノ霧の中を彷徨う事にもなりかねない。


 周りには、変わらずうっそうとした赤暗い森が広がり、道らしい道なんてドコにも無い。更には、まるでソレ自体が意志を持っているかの様に、身体にまとわり付いて来る濃い霧に視界を遮られ、まるで先に進もうとしているオレ達をコノ森自体が拒絶しているかの様だった……。


 オレはかろうじてボンヤリと見える、前を歩くサーシャの手を取り言った。 

 「ねぇ、サーシャ! 確かにココは『姿を消す』には最適な場所かも知れないけど、コノ状況はチョット危険じゃないのかな? ゼット爺さんの事考えると、ちょっと休んだほうがよくない?」


 不思議な事に、オレの『箱』の結界の中にも霧が立ち込めている……。

 「この霧、なんかおかしいよ。『箱』の結界の中にまで入ってきてる!」

 「わかってるのサ。ソレはココでは当然の事だから、心配はいらないのサ……。

 それにね……、ほら見てごらんヨ……。霧が、晴れていくのサ」


 サーシャの言う通りだった。

 さっきまで、あたかもオレ達一行を拒むかの様にネットリと全身に纏わり付いて来たアノ霧はまるで何も無かったかの如く消え失せ、まるで別世界の様な不思議な赤暗い森もいつの間にか抜け、開けた場所に出ていた。

 一行を見渡すと、皆同様に安堵の表情を浮かべていた……。



 ――しかし次の瞬間、

 「貴様ら、何者ナニモンダ? コノ森に何しに来やがった? 正直に答えねーと、コイツらの餌にしてやんゾ!」


 突然、悪羅悪羅オラオラ系丸出しの脅し文句が聞こえ、慌ててソチラを見ると……現世で言うなら、バキバキの『パンク・ファッションの強面男』と、ソノ周りに付き従うようにしながら、コチラに対して敵意剥き出しの『巨大な赤い色をした狼の様な獣』の群れが、オレ達をにらみ付けていた。

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