諸事情により、行方不明になります

● 第34話 いざ、『不帰の森』へ! って、オレ達、帰ってこれるの?

 再び訪れた、しばしの沈黙の後……、 

 「サーシャよ、それは事実なのかの? いや、お主の言うことじゃ……間違いないのじゃろう。ふむ。よかろうて……。ココは、お主の言葉通りに動くのが最上の策と考える事としよう。皆も、それでよいな?」

 ゼット爺さんが、重々しく言った。当然の如く、反対意見は一言も出なかった。

 サーシャは、その言葉にニッコリと満面の笑みを返した。顔はオレそのまんまなんだけどね……。


 まぁ、ソレはソレとして……だ。新たな課題が二つも出たんだが、二つともアテがあるってどういう事だろう? ソレに関してはオレも初耳だったので、スッゴク知りたかった。思わず、隣のサーシャに囁いていた。

 「ねぇ、サーシャ。さっき『姿を消し戦力を増強する』って言ったよね。それで、ソノどちらにもアテがあるって……。どういう事なのか、気になってしょうがないんだけど」


 「あぁ、アノ事かい? この衆人環境の中でソレを語る事はキケンだと思うから、詳しくは『例の手』を使って伝えるけど、コノ場所からさほど遠く無い所に我々が姿を消すにはもってこいの場所があるのサ……」

 サーシャは、周囲に居る大勢の旅人達の様子に気を配りながら、オレにこう囁き返した。


 そして、今度は皆の方を向きながら、ヤッパリ小声でこう言った。

「例えば迂回するにせよ、このまま普通に街道を使えば、また待ち伏せをされる可能性があるとボクは今考えてイル……。ソレは、ボクが敵ならそうするカラなのサ。


 ボクは、敵の監視の目は他にも居ると思うんダ。そして恐らくソレは、ごく普通の旅人に身をやつしている……のだと考えられるのサ。そのニセ旅人の監視を受けながら旅をするのは、決して気持ちのイイ物じゃないし、何より目的地への到着が大幅に遅れてしまう。到着が遅くなれば、人質になっているシエナの危険も大きくなってしまうから、ココは敵の虚を付く様な作戦が一番有効なのサ」


 皆は、サーシャのもっともな話をおとなしく聞いていたが、次の彼女の一言に少なからず驚く事になった。

「さぁ、コンナ時は皆で旅の無事を祈りたいから、輪になる様に手を繋いでほしいのサ……」


 なるほどね! ココで『接触念話せっしょくねんわ』を使えば、たとえ近くに敵の監視の目があったとしても盗み聞きされる心配は全く無い。

 だけど、皆ビックリするだろーなぁ……。特に、ギトリッシュさんが挙動不審になったりするのが心配だけど、大丈夫かな? 

 まぁイザとなったら、飲み物でもこぼして注意を逸らすとするか……。


 皆は、ゆっくりと隣に座っているメンバーと手を繋いでいき、テーブル上に輪が出来た。

サーシャは、完全に『占術師』の面持ち――見た目は、オレなんだけどね――と、口調で祈りを始めた。

 「今後の旅を、良き道行きにするため……祈りを捧げます……皆、目を閉じ決して動かない様に。無駄な動きは、祈りの効力を弱めてしまいます。祈りの力が皆の繋いだ手を伝わっていくのを感じるはずですが、身体に害を為す物ではナイので、くれぐれも心穏やかに……。始めます」


 そして、お祈りに見立てた『接触念話』が始まった。もっとも、最初は本当にお祈りの様な言葉が伝わってきたんだけどね。オレが心配していたギトリッシュさんは、どうやら信心深い人だったらしい。驚くどころか、今までに無い神妙な表情で目を閉じこうべを垂れていた。


 さて、そろそろ本題が来る頃かな? なんて思っていたら、ソノ通りになった。

 ≪皆の祈りの力は確かに、ボクが届けたのサ。本当はコレで祈りは終わりなんだけど、コノ状態のまま、少し話を聞いてほしいのサ。

 心穏やかな状態のまま……ネ。


 ボクは、さっき『姿』と言ったよね? 今からその具体的内容を伝えるから、よく聴いてほしいのサ。そして、くれぐれもボクが言う事に驚いたりしないデ。

 あくまで、ボク達はお祈りの最中なのだからネ……。


――姿不帰の森かえらずのもりのサ。


 その後の事はまた、話すべき時が来たら話すけど、とにかく今はボクを信じて付いて来て欲しいのサ……。

 そして、出発は早いほうがイイ! このお祈りが終わったらスグに出るのサ≫

 こうして祈りの時間は終わり、皆が居住まいを正し出発の準備が始まっていた。

 誰も、サーシャの言葉に驚いたり異議を唱える者は居なかった。


 しかし『不帰の森かえらずのもり』って何だろ? 森なのは、文字通りだから間違いないんだろうけど、その前に付いてる『』って言葉……。コレって、『』って意味なんじゃないのか? そんな所に入ったら、確かに姿は消せるかもしれないけど、ホントに消える事になっちゃったりしないんだろうか? 初めて聞くその場所の名前に一抹の不安を覚えたが、言いだしっぺは、サーシャだしな! 

 彼女が言う事なら完全に信じられる。きっと大丈夫なんだろう。


 コノ世界に生きて長い皆は、『不帰の森』の事をどう思ったんだろう? 

 そもそも、その森の事を知ってるんだろうか? 

 色々と確認したい事はあったが、いつの間にか出発の時間になっていた。

 ゼット爺さんが重々しくこう言い、皆が席を立った。

 「さて、それでは出発するとしようかの……」

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