● 第32話 明かされた例の『悪意』は、とても哀しい事情アリでした……。
ゼット爺さんの重々しい『心の準備はええかの?』の一言で、オレ達の今後の行動を決めるための特別作戦会議が始まった。
「さて、皆にも橋が流された現場を見てもらったわけじゃが、実際にアレを見てどう思ったかの? 特別なナニかを感じた者はおるか?
どんな些細な事でももちろん私見でも構わぬ。まずは、それぞれが思った事、そして考えた事を出し合いソノ情報を出来るだけ論理的につなぎ合わせ、考えてみようと思うが、どうじゃ?」
オレはモチロン異存なかったし、むしろアノ現場を見た他のメンバーが今ナニを思っているのか凄く知りたかったから、すかさず同意した。
「うん、ミンナ自分なりの解釈や推論なんかもあるだろうし、聞きたいと思うからソレでいこうよ。違った切り口の意見とかも出て来るかもしれないし、新しい発見なんかもアルかもしれない。上手く話がまとまっていけば、今後の動き方の指針になる可能性だってあるしね」
「ボクも、ゼット様やユウと同じ考えなのサ。こんな時は、情報は多ければ多い程イイと思うのサ」
サーシャも考えは同じだった。
「他の二人はどうじゃ? 他に何か名案でもあるかのぉ?」
「いえ……、我々もゼット様の案に賛同致します」
いつもより明らかに覇気の無い口調でイリアさんが言い、隣でギトリッシュさんが何度も深く頷いていた。
「そうと決まれば、早速始めようかの。まずはイリアよ、お主は
「私は……いえ、私には自然災害としか……認識……できませんでした。しかし、……天候不順等の要因が無くあの様な事が……起こるとは……、全くの想定外でした……」
どうしたんだろ? コレは、いつものイリアさんらしくない話し振りだ。
何か、心ココに在らず的な様子が明白に表れていた。いつもの凛とした表情も、今は見る影も無く何だかとても
体調でも悪いんだろうか? それとも、他に何かあったのかな? と、考えていた所で、オレの手は隣のサーシャに持っていかれた。
あ、コレは例の奴ですな!
≪ねぇ、イリアのアノ様子……気付いてるかい?≫
≪もちろん。明らかに、いつものイリアさんじゃないよね。大丈夫かな?≫
≪……そうなのサ。だから、ボクはココに戻る途中で話した通り、彼女の事を何とかして助けたいと思っているのサ……≫
って事は、まさか!
≪それじゃあ、例の『旅の仲間の中に悪意を持っている者が居る』っていうのは……イリアさんの事なの?≫
≪ホントに哀しい事だけど、恐らくそうなのサ。
ボクは、実はゼット様からアノ話を聞いた時から旅に同行する全ての人間の深層心理から現れる、所謂『気の流れ』を探っていたんダ。まぁ、全ての人間……と言っても、本気で探ったのはイリアとギトリッシュの二人なのだけれどネ。
結果から言うと、ギトリッシュの方は若干の緊張が見られたんだけどコレは、コノ旅そのものに対する彼の気持ちを示していたのだと思うのサ。
一方のイリアは……、彼女の心はこのリューセック川に近付く程に、旅の任務への責任の重さを大きく感じるのと同時に、皆に何としてもこの川を渡らせてはいけない……でも、渡らなければ大切な何かを失ってしまう……という危機感の狭間で板挟みになり、心が大きく乱れていたのサ≫
そうだったのか……。そういえば確かにイリアさんは、出発の時どこか思いつめた様な表情をしていたんだよな。
そして、……そうだ! あの吊り橋が流されて、いち早く様子を見に行ったイリアさんが戻って来た時浮かべていた、あの何故かホッとした様な表情……。
橋が自然災害によって流され、向こう岸へ渡れなくなってしまえば、皆を危険にさらす事をとりあえずは回避出来ると思ったって事だったのか!
しかし、『橋を渡らなければ、大切な何かを失ってしまう』というのは、一体どういう事だろう? ソレをサーシャに問おうとした瞬間、
≪コレは、ボクの想像の範囲を出ない推測でしかないのだけど……ネ。
彼女、あの気の毒なイリアは、多分だけどカナリ高い確率で何らかの弱みを敵に握られてムリヤリ言う事を聞かされ、ヴァレリアの護衛役になったのだとボクは思うのサ。そもそも、どんな経緯でヴァレリアの私設親衛隊なんてモノが出来て、あの二人がソレに選ばれたのかボクは知らないけど、私設親衛隊の成り立ち如何によっては、ギトリッシュも悪意を持っている可能性を否定出来ないのが、今の正直な所だと言えるのサ……≫
いきなり、疑問に思っていた事の回答が返って来た。
どうやらコノ『
全く、便利な術があったもんだ。急いでる時とか、一々全部話さなくてもイイ訳だから手間が省けるよね。
≪そうなのサ。この術は、話す手間が省けて楽なのサ。
でも、隠しゴトってヤツが出来なくなってしまうから、知られたくないヒミツがある人は注意が必要なのサ≫
あ、……なるほどねー。確かにコレ使うと隠し事は出来ないねぇ。
よかった、オレには変な秘密が無くて。そう、オープンな心はいつだって大切。
おっと、『接触念話』に夢中になっている間にイリアさんの見解発表が、いつの間にか終わっちゃったよ。後半、全く聞いてなかったわ……。
しかし、彼女の答えはいつになく歯切れが悪く、そして要領を得ないまま終始した様だった。
「イリアよ、ご苦労であったの。では、次じゃ。ギトリッシュ、お主の意見はどうじゃ?」
「ハッ! 私も現場を見た限り、当初は自然の脅威により起きた災害なのであると考えました。そして、橋が無くなった今、川の状態から考えまするに船で渡るという事も不可能であり、結果的に別のルート選択を余儀なくされたのであると思います。
そして、これはあくまで私見なのでありますが……此度の旅には、どうもキナ臭い『敵意』の様な物を近くに感じます。いくら自然災害とはいえ、このタイミングでアンナ事が起きましょうか? あの鉄砲水は実は、自然災害に見せかけた人災の可能性も考えるべきかと! 以上であります」
「ギトリッシュよ、ソレは実の所ワシも少しばかり感じておった事なのじゃ。よく申してくれた……。
では、続けようかの。サーシャよ、お主はアレをどう見た? いや、何が見えたかの?」
「実のトコロを言えば……ネ。ボクには、この川で起きた事についてはソノ全てが既に
そして哀しいかな、ソレが正解なんじゃないかと思うのサ。
だから、考えを述べる前に一つだけ質問したいんだけどイイかな?
事情が事情だから、直球で行くヨ。
……イリアは、一体ダレを人質に取られて、ボク達の情報を敵に流しているのサ?」
オレとサーシャ以外の三人全員が石像の様に固まり、……その後しばらくの間、重い沈黙が場を包んだ。
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