『Gの書』を目指す旅
● 第28話 『Gの書』回収作戦発動したんで、異世界初旅行に行きますよ!
オレとサシャが隠れ家に戻った時、カイザールさんと爺ちゃん、そして婆ちゃん達はリビングで何やら作戦会議の様な事をしている最中だった。ダイニングの方にイリアさんと、ギトリッシュさんが座っていたので、オレ達もその辺りに腰を下ろした。
すかさず、イリアさんが、
「ユウ様、鍛錬お疲れ様でした。その表情から察しまするに、順調の様にお見受けします。おめでとうございます」
結局、『様』は付いたままなんだね……。こりゃ、今後も付いたまんまなんだろーな、きっと。
「あ、うん。ありがとう。サシャのお陰で、スゴク上手く行ったんだ。
で、アチラさん達は何かの会議中?」
「はい。カイザール様の『ギフト』能力『平和的統治』の効力が失われていないにも関わらず、聖都レーヴェンシュタットを初めとする各都市で『反ギフト思想』が広まっている事はご存知ですね?
我々は、その原因を探るための調査をしておったのですが、今丁度その調査結果を報告している所であります」
あぁ! あの調査の件か……。確かに妙なハナシなんだよなぁ。
有効期限を持たない『ギフト』の能力が徐々に失われていって、その範囲も少しずつだけど拡大してるなんて。オレは、前に『何か、別の力でも作用してるんじゃなかろうか?』なんて勝手な仮説を立ててたんだっけ……。
イリアさんに礼を言って、リビングの調査報告会議に耳を傾けた。
「……と、いう事はじゃ。現在の聖都レーヴェンシュタットでは、お主の『ギフト』である天候の管理も成されておらぬ訳じゃな。コレは、一体どういう事じゃ? アノ街で、何が起きておるというのじゃ?」
あのカイザールさんが、明らかに動揺していた。
「今回の調査は、『商業都市マーベルシュタット』から始めその後、『聖都レーヴェンシュタット』へ向かったのですが、不思議な事にマーベルシュタットでは普通に天候の管理が出来ておりました。
そして、そのマーベルシュタットの行きつけの酒場で偶然にもあのサシャ・ガラードと遭遇致しまして……。コレはイイ所で味方が一人増えたと考え、半ば強引にではありましたが同行を頼んだのです。
その後、聖都レーヴェンシュタットに近付くにつれ彼女は不安げになり、もうすぐでレーヴェンシュタット到着となった時には、『この街には、イケナイ物が存在している……。ボクは、この街には行けない……何だか怖いのサ』とまで言い出し、どうしても街に入るのを拒んだのです。
結局、街の中にはイリアとギトリッシュを向かわせ、私はサシャを落ち着かせるために街から少し距離を取って待機し、様子を見て参った二人と指定の場所で合流しコノ山へと戻って来たのです」
「ふぅ~む……。コレは、面妖な事よのぉ。問題は、レーヴェンシュタット付近でサシャが何を感じたのか……じゃが、それに関しては本人に問うのが一番早かろうて。
サシャ、……サシャ・ガラードよ、お主はアノ街をどう
ヴァレリア婆ちゃんの報告の最中から明らかに表情が硬くなっていたサシャに、カイザールさんがユックリと問いかけた。
「我は
コレってどういう事だろう? 『反ギフト思想』が主流になってしまった街が『ギフト』の力によって支配されてるなんて……。うぅ~、ワケが解らんな。
「しかし、ソレじゃと話がおかしくなってはこんかの? ワシの『ギフト』である平和的統治は、人の心に作用する能力の中では最強であり、その事はお主も知っておるはずじゃ。
ソノ最強の『ギフト』の効力を打ち消す程の能力とは一体何なのじゃ?」
確かにそうだ。精神作用系『ギフト』最強を誇る、平和的統治を超えるって事になる訳だもんな。そうなると、オレがテキトーに立てた仮説『何か別の力』説が有力って事? でも、それはカナリのご都合主義だよな……。オレ如きの知識じゃ、チンプンカンプンだ。困ったね、こりゃ。
「アレを、……アノ書を読み返せば、ひょっとしたら『闇の力』に関して何かしらの情報を得て、ちゃんとした答えを導き出せるかも……。でも、今は……コレが精一杯なのサ」
「アノ書……とは、『G(ギフト)の書』の事かの。それならば、常々ワシも機会あれば、目を通したいと思っておったのじゃ。部屋に在るのかの?」
「申し訳ありません、カイザール様。『Gの書』は、ソノ存在自体が危険であるがゆえに持ち歩いていないのサ。それにネ……確かに『Gの書』なんて名前が付いてるから、皆アレの事を分厚い本かナンカだと、勝手に想像してしまっているのサ」
「ソレは、一体どういう意味なのじゃ、サシャよ? 『Gの書』は、書物ではナイと?」
「その通りです、カイザール様。アレは、簡単に言ってしまえば『情報の集合体』の様な物なのサ。ボクはもうズット前に、その『情報の集合体』の本来の形を変えて、アル場所に隠したのサ。じゃないと、万が一悪意アル者の手に渡ってしまったら大変な事になってしまう可能性があるカラ……。
あの情報を取り出すには、隠した場所まで行かないといけないのサ……」
「ソレって、どこなのサシャ? オレが取りに行ってくるよ!」
思わず、オレはそう言っていた。
「アレの情報を手に入れるには、チョットした『術』みたいなモノが必要なのサ。だから、その場所にはボクが行って、直接情報を持ってくるしかないのサ。
だからカイザール様、ボクを『Gの書』の回収に行かせてくれませんか?
ボクの名に懸けて、必ずスグにもどりますから」
「そうとなれば、そうするしかあるまいの。しかしじゃ、お主を独りで行かせる訳にはいかぬ。この行動次第では、この世界の命運が変わる事になるやも知れぬのじゃ。解っておくれ、サシャよ。お主は、今やもう一介の『占術師』や『研究者』ではないのじゃ。隣におるユウと、一生を添い遂げるという決心をした、我々にとってはもう家族の一員なのじゃ。
もちろん、ワシはこの場に居る全員を家族じゃと思うておる。
だからじゃ、サシャを中心とした『Gの書』回収作戦班を編成しようと思うが、どうじゃ?
大切な家族である、お主独りを危険な目に遭わせる事などワシらは絶対にせんのじゃ……。解ってもらえたかの?」
いつの間にか、サシャは感極まって泣いていた……。
やっと、ココに居る全員が家族なんだって事を、実感出来たのかもしれない。
まぁ、オレは何を置いても付いて行くけどね。
「ありがとうございます、カイザール様……。
ボクは、もうズット前からいつも独りきりで……ヴァレリアは、いつも酒場で楽しい話を沢山してくれて……嬉しかったけど、やっぱりボクは独りだったのサ。
でもやっとコノ山で、ユウと巡り逢う事が出来て……やっと本当の人生が始まったんだ……って思えて。それが、ココに居る全員が家族だなんて!
本当に感謝しています、カイザール様……ホントウに……」
オレは、サシャの髪を優しく撫でた。そうだ、もうキミは独りきりナンカじゃない。何かあれば、オレ達全員で守るからね……。
あれ? よく見たら、もう一人泣いてる人みーーっけ!
「うぅぉぉおおおおおお! コノわたくしめも家族にして頂けるとは!
感激でありますぅぅぅうう!」
ギトリッシュさん、どうしちゃったの?
ああ見えて、実は寂しがり屋さんだったのかな?
「こら、ギトリッシュ! 何をメソメソしておるか!
それでも、『エストリアの黒豹』と呼ばれる男か? シャキッとなさい!」
イリアさんが、恥ずかしそうに言った。でも、その言い方はただの上官としての口調じゃなかった。
あ、そーゆー事か!
コノ二人は、アレだ……。互いに想い合っていて、お互いの気持ちは知っているのに、ちゃんと告白とかしてないパターンだな。
確かに、いいコンビだもんねー。
でも、あのギトリッシュさんから告白……って事になると、大変そうだなぁ。
陰からそっと、応援してあげるね、ギトリッシュさん!
「サシャ、大丈夫? 安心してイイんだよ。皆、味方だし家族なんだから」
「うん……アリガト。遅くなっちゃったけど、今やっと理解出来たのサ。家族ってホントに暖かいモノなんだネ。ユウとは違う、別の優しさと暖かさを感じるのサ。今更で申し訳なき事は重々承知の上であるが、改めて永劫に渡り皆と家族の契りをココに結ぶ事を許し給いたく……」
なんで、このコは重要なトコロになると宣託みたいになっちゃうのかな?
まぁ、それはそれでカワイイ所でもあるんだけど。
「ねぇ、サシャ。もっと普通でイイんだよ。オレと話す時みたいにさ。家族と話す時は『占術』用語使うの禁止しまーす! わかった?」
「うん……。わかった。徐々に慣れていくと思うのサ。だから、待ってて」
「それでイイよ。皆さん、そんな訳で今後もオレ共々、サシャの事ヨロシクお願いします! はい、サシャの番!」
「え、えと……皆さん、よろしくお願い致したいのサ……」
その場の全員が笑顔で、サシャに拍手を送っていた。これで、よし!
「サシャ、オレはもちろん一緒に行くけど『Gの書』はドコにあるの?」
「アレはね……マーベルシュタットの某所に隠してあるのサ」
「コレは、天啓かもしれぬな……。ワシらは丁度、マーベルシュタットにおる協力者に会う計画があったのじゃ。行き先が同じなら、貴重な戦力を分けずに済むの……」
あぁ、なんか前に爺ちゃんとそんな相談してたっけな……。
あとは、メンバー選びだけか。
「この山は安全じゃ。コレは前にも言うた通り故、しばらくの間ココをエルネストとヴァレリアに任せる! マーベルシュタットには、サシャとユウそして、イリアとギトリッシュ、それからこのワシが行く。出発は、明日の朝。コレは、決定事項じゃ……以上とする」
カイザールさん、自ら出陣とはね。流石、初代元首。
それに、この布陣なら安心できる。今回は、爺ちゃんと婆ちゃんが留守番か。
たまには、夫婦水入らずもいいんじゃないかな。
よく考えたら、オレはコノ世界に来てはじめて、山を下りて街に行く訳だ。
サシャも一緒だしな。
いつの間にか、『Gの書』回収任務の緊張より、ワクワクの気持ちの方が大きくなっていた。
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