● 第27話 鍛錬の結果、オレの『ギフト』が、物理作用系最強だと確定しました。

 オレは、まず滝の音を聴きソノ水の流れを見つめながら座禅を組んでいた。高さは約8メートル、幅は約3メートルといった所だ。豊かな水が流れ落ち続け、滝つぼを中心に美しい池が広がっている。滝の流れ全体に集中しながら『ギフトの箱』を意識する……。


 やってみると、予想外にスグ『箱』が現れた。大きさは、1メートル四方の立方体という感じだった。その『箱』をユックリと滝に近づけようとしたが、ナゼか全く動かなかった……あ、そうか! ココで『呼吸法』か。

 身体の中で自然に呼吸が変わっていくのが頭で解るし、池の中の魚が泳ぐ姿も目視出来ている。よし、頭は周囲の状況を把握している状態だ。ココまでは、順調。そして、再び『箱』をユックリと滝に近付ける様に念ずる。果たして、『箱』は滝に向かって動き出し進んで行った。今度は、『箱』の大きさを変えてみる事にした。


 まずは、小さくしてみよう。10センチ四方の立方体をイメージし念じた。次の瞬間、『箱』は思い通り10センチ四方の立方体になっていた。よし! お次は、拡大だ。滝までの距離は約5メートルといった所か……。滝ギリギリまで『箱』を大きくする事を心に描いた。すると、『箱』は正に思い通りの大きさになって浮いていた……。


 なるほど! コノやり方の方が、今までと比べて格段に『箱』を操り易い。

 そう感じながら、オレは一旦『箱』を消した……。ただ消した、という言い方は正確じゃないのかな。一瞬で、原子レベルの大きさ(小ささ)にまで縮小して、それから完全に消し去ったのだ。『箱』を思い通りに操れたのが嬉しくなり、もう一度初めからやってみる。そう、反復練習は大切。


 そうだ、今の感覚を忘れない内に繰り返して、心と身体を連動させる一連の動きを完全に自分に刻み込むのだ! 何度か同じ方法を繰り返しやってみると、最初にやってみた時より『箱』が現れるまでの時間が、大幅に短縮出来ていた。

更に練習を重ねると、第一段階の『集中し、ギフトの箱を意識』した瞬間、ソコに思い描いた通りの形・大きさの『箱』を存在させる事が出来る様になった……。そして、いつの間にか『箱』を動かすスピードも、形の変化も思いのままに出来る様になっていた。


 イキナリここまで出来ちゃうなんて、オレってひょっとしてスゴイ人? 

 とか、思いながら今度は『球体状の箱』で、胡坐あぐらをかいて座っている自分を包んでみた。『箱』の中身はオレ自身と、コノ世界の空気という訳だ。まずは、その場で浮かせてみる……。おぉ、コレは楽チンじゃないか。

 現世に居た時は、ドローンなんて物が盛んに開発され、実際にテレビ番組の撮影何かでも使われていたけど、まさか自分がナマのドローンになる日が来るとは思わなかったよ……。


 コレ、例えば車でどっか行く時に渋滞に巻き込まれそうになったら、浮かんで飛んで行けばイイんじゃないのか? どっかの国で、空飛ぶバイクみたいな乗り物作ってたけど、コッチの方が楽だし、環境にも優しいぞ……いや、ダメだ。

 もし万が一にでも現世でこんな能力使ったら、まず動画撮られるよね、そんで多分バズるよね、でもその後炎上するかもしれないし、マスコミやら何やらが嗅ぎつけてエライ騒ぎになって、家族共々逃げる様に地方を転々とする事になるんだろうな……。


 オレは、昔見た『炎の少女チャーリー』って言う自然発火能力を持った女の子と彼女を助けようとする父親が政府の組織に追われる……っていう映画を思い出していた。

 あれ? そういえば、こんな余計な事考えていても『箱』はちゃんと、心の念ずるままに機能している。なんか、思ったより簡単に出来ちゃったのかも知れない。胡坐のオレを中身にした『球体状の箱』は、滝の中に入り込んで行った。名付けて、……あんまり面白くなかったね。


 しばらくの間、『箱』ごと滝に打たれた後ユックリと回転しながら滝から出た。池の上を滑る様に移動して、何気なく滝の上を見ると人らしき影が見えた。誰だろう? と、思った次の瞬間ソノ人影が滝の上から、何の迷いも無く飛び降りた。


 コレはヤバい! そう思った瞬間、トンデモない事が起きた。

 言っても信じないだろうが『滝の流れが止まった』のだ。

 よく見ると、停止しているのは滝だけじゃなかった。さっき飛び降りた人影も、近くの空を飛んでいた鳥の羽ばたきも、池の中を泳いでいた魚のヒレの動きも……『箱』の外の世界全てが動く事をやめていた。オレ……は、動ける。『箱』も移動出来る。何だコレ? 


 コレは、後でサシャにちゃんと説明してもらおう。でも、サシャまだ戻って来てないんだよな。上手く状況説明できるだろうか? 

 ココまで考えて思い出した。そう言えばさっき、人らしき影が飛び降りたんだった。外が止まってる間に『箱』に入れて助けなきゃ。おっと、アソコに居た。ん? 気のせいか微妙に位置がズレてないか? どういう事だろう? 


 滑らかな動きで『箱』を上昇させ人影に近付き、寝袋型の『箱』の中にソノ人影を入れた。もちろん空気も忘れずに。こんなトコで飛び込みの練習とか、危ないのに全く誰だよ? 

 この山ってオレ達しか居ないんじゃないのかよ……と、思いながら近付いた『寝袋型の箱』の中で、サシャが笑いながら手を振っていた……。

 オレは、ポカンとするしかなかった。二つの『箱』をユックリと地上に降ろし、今度は縮める事なくそのまま二つの『箱』を消した。


 箱が消え、サシャに歩み寄ろうとした瞬間、サシャが飛びついて来た。

 「サシャ、あんな所から飛び降りるなんて危ないよ。何してたの? 何でアンナ事したの?」

 サシャの全身を受け止めながら、当然の様に問いかけた。

 「この、サシャ・ガラードの行いには全て理由がアルのサ……。まず、コレは謝っておくけどボクは、カイザール様の所に話をしに行っていなかったんダ。嘘言って、ゴメン。


 口では説明したものの、やはり少しだけ心配だったのサ。『箱のギフト能力』はボクの知る限りにおいて、カイザール様の『平和的統治』が、の『ギフト能力』であるのに対し、なのサ。だから、もし万が一ユウがソノ力をぎょせず逆に飲み込まれて暴走する事にでもなってしまったら、ボクが助けなきゃって思っていて実はズっとキミの様子を見ていたのサ。


 そして、『箱の能力』に飲み込まれるどころか、逆にとても効果的に『箱』を操っているのを見たら、ボクは嬉しくなってしまってネ……。

 キミなら飛び降りたボクを必ず『箱』で助けてくれると確信したから、自分で気付いた時にはもう飛んでいたのサ……。

 心配させちゃった様だネ。ホントウにゴメン……。

 でも、ボクは本気でキミを信じてたのサ」 


 そうか、サシャはずっと見ていてくれたのか……。

 自然と安心感に包まれていた。しかし、オレの『箱の能力』が物理作用系最強って……。こりゃまた、エラい『ギフト』を授かったもんだ。

 でも確かに、その場の状況に応じて上手く使っていけばコレだけ応用範囲の広い能力って無いのかも知れないな……。そう言った意味で言えば、『最強』ってのも納得できる。


 「今日は、ココまでにするとしよウ。お疲れサマ。あんなに短い時間でココまで出来るなんて、ユウはやっぱりボクが思っていた通りのヒトだったヨ。

 あと、質問とかがアルなら部屋で答えるのサ。

 とりあえずは、今日の成果をカイザール様達に報告するのがイイと思うのサ」

そう言うと、サシャはオレの手を引っ張る様にして隠れ家の方向に歩き出した。


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