● 第10話 よく聞いたら『ギフト』が、激しく便利な件! 

 温泉……じゃなかった、えっと『聖なる泉』でサッパリしたオレ達三人は、リビングに集まっていた。

 もちろん、いつものアノ飲み物も用意されていた。やったね! 


 と、言う事でここからは『講義』の時間である。

 そういえば、異世界に転生して「諸君、戦争の時間だ!」なんて事を言う、元サラリーマン幼女が居たっけな……。


 「頃合いや良し……じゃな。では、昨日の話の続きをしようかの。

 まず、ワシとお主の祖父であるエルネストが、何故山の中に隠れ住んでおるのか? これは答えから言ってしまえばじゃ」


 「身を守るため……って事は、二人とも命を狙われてるの?」


 「簡単に言えば、そういう事になるかの。

 まぁ今はとにかく、落ち着いて話を聴くがよい。

 すぐそばに危険が迫っておる訳ではない故な。安心せい。

 なに、いざとなれば、秘密の『奥の手』も用意してあるでな。


 それにの、そもそも奴らには我々は見つけられんし、これだけは言える。じゃ。

 今はただ、この事を信じるがええ」


 二人が命を狙われてるって事は、オレも巻き添え食う危険性アリなんじゃない

の? でも、この山は安全ってゼット爺さんが言うならきっとそうなんだろう。

オレは、何の根拠も無かったが、何故か自然とその言葉を信じる事が出来た。


 それより『奥の手』ってヤツの方が非常に気になった。

 まぁ、知るべき時が来ればソレが何なのか分かるんだろうね、きっと。


 「そうそう、忘れる所じゃったわ。お主、朝食の時にどうやって色々な食材を調達しておるのか、だいぶ気にしておったの? 

 それをココで答えておこうかの。


 この男『エルネスト・ヘルブロス・バーン』は、ワシがこの世界に初めての統一国家である『ノヴェラード』を建国した際、初代宰相として国家の運営や政治まつりごと等、実に様々な事についてワシを助けながら、国家の繁栄に尽力してくれた同志なのじゃ。


 ワシらは、実は幼馴染でな。

 家も近かったため、すぐに仲良くなり毎日の様に共に時を過ごしておった。

 前回話した自警団にも一緒に所属し、地域の平和を守るために戦った戦友でもあるのじゃよ。


 その後ワシは『ギフト』の能力により、さっきも言うた通りこの『統一国家 ノヴェラード』を作った。


 お主ならば想像出来ると思うが、国を作り平和を維持していくには、当然の事じゃがそれなりの人手が必要でな。

 それを統べる者としては、彼らを飢えさせる訳にはいかんかったのじゃ……」


 オレはゼット爺、――いや、今はカイザールさんにしておこう。顔が元首の顔だし――の、どこか遠くを見ている様な目をした表情から、改めてコノ人は『ホンモノの大人物』なんだなって思った。


 不適切発現ばっかりしてる某国の政治家どもに、カイザールさんの爪の垢やら耳垢やらをまとめて飲ませてやりたいよ。

 世の中、少しはマシになるかも知れないもん。


 「そんな時じゃった。エルネストに『ギフト』の能力が現れたのは……。

 当時、自分の身に何が起きたのか理解できなかったエルネストは、不安の余り一番の同志であり親友たるワシに内密に相談をして来たのじゃ」


 いよいよ、爺ちゃんの『ギフト』能力公開だ。

 どんな力なんだろう?


 「簡単に言うとの、エルネストの能力は……、『』じゃ。

 しかも、新鮮採れたての物から、ジックリ熟成させた物まで、自由自在での。


 自分の思うた食材なら何でも、好きな量だけ自分の手元に呼び出せるという、一緒に居れば一生食いっぱぐれる事が無いという便利な物よ。

 おかげで、ワシも好きなだけ飲み食いできておる」


 そーなんだ。

 だから山の中に隠れ住んでても、あれだけバラエティに富んだ食材が手に入るのか。しかも全品無料で! 


 使い魔や、武器それにモンスターなんかを召喚する魔法は、アニメやゲームそれこそラノベなんかの世界でありがちだと思うんだけど『』って結構レアな能力なんじゃないの? 


 っていうか、料理の腕があれだけのレベルならレストランとか食堂とかやったら、利益率めっちゃ高くて丸儲けじゃないのかな……そこまで考えて、思い出した。『ギフト』の能力って、自分の欲や利益のためには使えないんだったっけ。


 コレって惜しいよね。

 家庭料理の枠に入れておくには、もったいない力だよねぇ? 


 「それは確かにすごい能力だと思うけど、もし身近じゃない地域に飢えてる人達

が居たとしたら、その人達はどうするの? 

 爺ちゃんの『ギフト』だけじゃ絶対に対応できないって事だよね?」


 「うむ、流石に良い所に目を付けてきよるの。ワシらも昔、同じことを考えた

もんじゃて。

 しかしじゃ、その後すぐにその心配もせんでええ様になった。


 実はの、ワシらにはもう一人幼馴染がおった。

 彼女の名前は、『ヴァレリア・ジラール・ミスト』という。

 お転婆で近所では有名じゃった。


 彼女も、ノヴェラード建国の際には尽力してくれての。

 余り表立っての行動はせんかったが、後に『聖都』――簡単にいえば、一番大きくて国の中枢部分となる都と思え――『レーヴェンシュタット』の基本設計や、生活に必要な機能の開発等を担当し、政権の裏方として我々を支えたのじゃ。


 おっと、忘れぬうちに言うておくが彼女ヴァレリアは、このエルネストの妻であり、つまる所お主の祖母という事になるでの。

 近く、会う事になるであろうから、楽しみにしておるがよいぞ。


 それでの、これもエルネストの時と同じパターンになるが、そのヴァレリアにも『ギフト』の能力が宿ったのじゃ。あの時の、あヤツの顔は今でも忘れられんのぉ。なぁエルネストよ」


 「全く。あんなに慌てていて、同時に不安そうなヴァレリアは知り合ってから

初めて見ましたからなぁ。

 今となっては、懐かしい話ですが」


 爺ちゃんだけじゃなくって、婆ちゃんも『ギフト』能力者だったのか。

 なんかオレんちって、もしかしてスゴイ家系なんじゃないか? 


 でも、なんで婆ちゃんはココに居ないんだろう? 

 近く会う事になる……って言ってたから、とりあえずは生きてるって事だよな。オレは、これ以上肉親の死亡報告は聴きたくなかった――誰だってそうだよね――から、婆ちゃんに会える事を知って、心から安心した。


 「さて、そのヴァレリアの『ギフト』じゃが、初めて実際に目にした時は心底

驚いたのを今でも鮮明に憶えておる。

 ワシの能力は前にも話した通り、争っている者達双方の心を穏やかにし、互いを思いやる気持ちに変化させ、結果的に『』という、人の心の部分に作用する物であった。


 しかし、ヴァレリアの力は根本的に違っていたのじゃ。

 簡単に言おう。彼女は、『』のじゃ。

 しかも、その力は国の全域に及ぶ程、強力な物なのだ」


 なんかスケールが大きすぎて、オレは何がどう凄いのかよくわからくなって来

ていた。天候を操れるって事は、事前に天気を決めてしまう事も出来るんだろう……現世だったらテレビから天気予報が無くなって、気象予報士は全員失業だよな。


 「お主は気づいておらんか? 

 この世界に戻って来てから、この山の天候が荒れた事が一度も無かった事を。

 コレも全て、ヴァレリアの『ギフト』のおかげじゃ。

 同じ事を彼女は『国』という広大な地域全体に対して行い、天候の全てを管

理しておる。


 元々この国の大地は非常に肥沃であった故、天候を自由に操る事が出来る様になってから後、この国『ノヴェラード』は、全国規模で毎年豊作が続いておる。おかげで、民たちは飢える事なく生活ができておるという訳じゃ。


 今は所用によりココにはおらぬが、安心せい。

お主の祖母は、ちゃんと生きておるし、とてもお主に会いたがっておったでな。程なく、戻って来よう」

 『ギフト』は全て、家族だったり仲間だったり、果ては国民のための物なんだ

って事を改めて実感する事が出来た。


 当のこのオレも『ギフト』持ちって言う事だけど、一体どんな能力なんだろう? 家族や親せき、そして友人――まだ居ないけど――や、この国ノヴェラードのために使える物なんだろうか? 


 そもそも、どうやって自分の能力を認識出来るんだろうか? 

 やっぱり、まだ色々と情報不足だな。

 解らない事が多すぎるよ。


 一日も早くこの世界の事を知って、少しでも早く役に立ちたい! 

 それこそが、両親への何よりの供養になるはずだから……。

 オレ、頑張るからね。


 「さて、とりあえず今はこれぐらいにしておこうかの。

気分を変えて外の空気を吸うも良し、このまま、ダラダラ過ごすも良しじゃ。 

 好きに休むがよい。

 気分転換が終わったら、続きを始めるとしよう」


 こうして今日の『1時限目』は、終了となった。

 はい、お疲れさんでした……。

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