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『どうだった?』
寝る前になって、アカネからLINEが飛んできた。
『美人だった』
仕方なく返した私の感想は淡白すぎる。即、既読がついた。
『だよねー、めちゃ美人』
……空白。自分の部屋のベッドで丸まっているだけ。指を動かす気にもならない。
『あれ。もしかしてあんまり良くなかった感じ?』
見透かされているかのような追撃。アカネ、しつこい。また喧嘩したいの? ああ、もう。気分が乱れている。
ちょっと考えて、結局誤魔化すことにする。
『そんなことないよー』『気さくで話しやすかったし』
『良かったー私らとは全然違うタイプの子だから心配してたのよ』
そりゃそうだ。だってギャルじゃん。いつもの私なら絶対接点持たないタイプじゃん。
……私は、何にこんな機嫌を悪くしているんだろう。あのひとから嫌味をされたわけでもなければ、むしろ私に合わせて仲良くしてくれたというのに。
『ちょっとはあやちゃんの助けになるかなって思ったの』『だって私が言っても説得力ゼロだし』
さすがアカネ、打つのが早い。返信に手間取る私とは大違いだ。
『助け、って』『踏み切る助け?』
助け。もっと好きな服を着たい、化粧もしたい、家族から制限されたくない。私の願いを叶えるためには、私自身が一歩を踏み出す必要がある。
『そそー。やっぱ当事者同士、良い刺激になるかなーって』
あと、ブラジャーつけなさい――と、これはアカネやら婦人科の先生やらその他大勢からの意見。私は割とどうでも良いけれど。
アカネのお節介は時々、度が過ぎている。まごついてばかりの私に、アカネは自分の知り合いを紹介してくれた。アカネから『もう完全に女の子』と評されていたその知り合いは、もはやそんなレベルをとっくに通り越していた。
『もうびっくりしたよ。女の人にしか見えなかったし、ホントに元男だったのって疑うくらい』
『そうそう』『ああも変われるんだって驚いちゃうよね』
良いか悪いかはともかく、強烈な刺激にはなっている。
曰く、アカネと夕夏はとある集会で知り合ったらしい。アカネは我が目を疑ったそうだが、その言葉に誇張はなかった。
肩まで掛けた毛布が温かくて、もう眠ってしまいたかった。注射した腕が痛んだ。クリニック特有の、あの微妙に不快な甘ったるい匂いが喉元から離れなかった。
『ごめん、もう寝るね。久しぶりに誰かと会話したから疲れちゃったみたい』
返信を待たずに、スマホの電源を落とした。
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