依頼のあった店に到着する頃にはもうすっかり夜も更けていたが、上流階級地区はさすがに家の周辺とは違い夜でも街灯や建物の灯りでかなり明るい。

 ここへ来る途中、銀の髪と赤い瞳という人によっては最悪の取り合わせの二人だったために、嫌悪の視線を感じる事がしばしばあった。


「堂々としていれば良いの。他人の主義主観なんて私たちには関係が無いもの」


視線を気にしているハルに、売春街で沢山の人間模様を眺めてきたリーザはそう力強く言う。不思議と慰めや同情で言っているようには感じられず、他人の考えに惑わされるな、という応援にも聞こえる。

 件の店は大きな建物の隅に地下に続く階段があり、その奥に薄暗く目立たないように扉があった。看板等は全く無く、知らなければ存在すら気が付かない程にひっそりとしている。

リーゼを先頭に三人は階段を下りて行く。扉の前に立つとリーゼは振り向いて、ミアちゃんをよろしくね、とハルに念を押した。ハルが大きく頷くと重そうな扉を開いて中に入った。

 店の中は薄暗い外とは全くの別世界で、煌々と灯りが輝きまるで昼間の日差しのようだ。壁は白く、あちらこちらにキラキラ光る金の装飾が施してある。

自分たちの住む家くらいの大きさがあるのではないかと思うほど広いスペースに複数の高級そうなモーニングに身を纏った人たちがいる。どの人も三人の事をじろじろと見まわしていた。部屋の様子に驚き落ち着かないハルとミアに対して、リーゼはさすがに堂々としていて迫力すら感じられる。

 リーゼはその中の一人の男にオーナーの依頼で訪れた者だと告げると、男は深々と丁寧にお辞儀をして中に進むよう促した。

周囲の人たちも全く同じようにお辞儀をする。あまりの統率の取れた動きに気持ち悪いとさえハルは思った。

入ってきた扉の丁度向かいにある大きな観音開きの扉を両側に立つ二人の男が開け、三人は中に足を踏み入れた。

 中は下流階級の家が何件も入るくらいに大きく天井はとても高く、眩いばかりの豪華な装飾や調度品が並んでいて、数々の絵画が壁に飾られている。

部屋の中央付近にはルーレットのような物があり、その周囲にもカードゲームのような物を楽しむテーブルがいくつかあった。

あまりの豪華絢爛な様子に唖然として周囲を見回し感嘆の声をあげる二人に、リーゼは部屋の隅にあるカウンター席に行きましょう、と促す。

 部屋の様子を物珍しそうにきょろきょろと見回す田舎者丸出しのハルだったが、これだけの規模に対して随分と閑散とした印象を受ける。

やはり問題を起こす集団の影響だろうか。カウンター席の一番隅の方に目立たないように座りながら、今度は冷静に部屋の観察を始めた。

 奥の方にあるコの字型のソファーに踏ん反り返って座る複数の男たちが目に入った。金の髪に青い瞳、高価そうな服装で見るからに上流階級なのだが、その態度はとても褒められたものではなく、見ていて気分が悪い。

ハルがその男たちが問題の集団かな、と囁くとリーゼも同意した。

 男たちの様子を見ていると、カウンターを挟んで向かいにバーテンが現れて注文を聞いてきた。

しかし聞かれてもメニューが分からないし、ハルは元々転生前の世界でも酒が飲めなかったため酒の種類も分からない。

リーゼはメニューも見ずに「ホワイトレディー」と聞いた事もない物を注文し、ミアは何の迷いも無く「ミルク」と言う。

ミルクなんてあるのかと思っていると、畏まりましたと問題無く注文を受けたのでハルも同じにした。

 じっと男たちの様子を伺うリーゼとハル。しかしミアは全く男たちに興味を示さずカウンターの上にある色々な調度品に興味津々で、手に持ってみたりカウンターや床に落としたり隣に座るハルの腕を引っ張り、これは何なの何に使うの、としつこく質問をしてくるので、ハルは落ち着いて観察していられなかった。

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