14 リーゼ

 私は毎日図書館に通った。調べる事はもちろん呪いについてだ。学校でも沢山の人に呪いについて何か知っているか、或いは詳しい人を知らないかと聞いて回った。

時には街へ出て色々調べ、様々な人たちに会った。どんな些細な事でも試してみた。

だが成果は何も無かった。十三歳の私には出来る事も、理解出来る事も限られてしまっている。

私は自分の無力さに絶望していた。妹がこれほど苦しんでいるのに、何も出来ない。自分を責め続けた。出来る事なら私が変わってあげたい。

妹を救える物なら何でもいい。例えそれが悪魔でも死神でも構わない。

 妹のいる建物にはずっと何人もの人が訪れては帰っていった。しかし何も状況は変わらない。私が建物に行くと妹はずっと泣いたままだった。


「お姉ちゃん、私治るのかな。ずっとこのままなのかな」

「お姉ちゃん苦しいよ」


私は妹を励ます事すら出来ず、出てくる言葉は謝罪ばかり。鉄格子の扉に掴まって泣き続けた。

 時間は流れ、やがて建物に人が来なくなっていった。建物に近寄るのは食事を運ぶメイドと私の二人だけになった。鉄格子越しに聞こえる妹の声は、日毎に弱々しくなっていく。

父も母も妹の事を口にしなくなった。諦め、目を背けるようになったのだ。私はそんな両親に憤りを感じた。

私だけはどうしても諦めたくなかった。妹を取り戻す事だけに全てを捧げていた。

 しかし、時間だけが無情に流れ続け、三年もの月日が経ち私は十六になった。妹は十二歳だ。

立派に成長し、子供から大人への階段を上り始める妹を何としても見たかった。

きっとドレスの似合う素敵なレディーになっていただろう。その愛くるしい笑顔で人々を魅了し、高い知性で人々の尊敬を一身に浴びていただろう。

だがそれは永遠に叶わぬ夢になってしまった。

 ある日、やつれた母は生気の無い目で私に妹の死を告げた。

昨日私が妹の所に行った時には、またお姉ちゃんと遊びたいな、と微かに笑いながら言っていたのに。

 なぜ妹だけがこんな酷い目に合わなくてはいけないんだ。

妹は何も悪い事などしていない。むしろ周囲に笑顔と幸せを振り撒く天使だった。

それなのに妹は三年もの間、暗い牢屋に閉じ込められ、そして冷たい壁の中で死んでいった。

妹が最後に見た光景は煉瓦作りの赤茶けた壁だけで、誰にも看取られることも無く、誰かと話す事も無く、孤独の中で死んだ。きっと辛かっただろう。悲しかっただろう。寂しかっただろう。あまりにも惨い。惨すぎる。

救えなかった私の事を恨んでいたかもしれない。いや、恨んで欲しかった。

 私は妹を救う事を諦めた両親に、理不尽なこの世の全てに激怒し、そして必ず救うと約束したにも関わらず何も出来なかった自分に嫌気がさして、何も持たず屋敷を一人で飛び出した。

行く当ては無い。ただ王都をさ迷い歩き、何日も飲まず食わず、眠る事もせずに路上や川縁で過ごした。

妹を失った私にはもう何も残っていない。もうどうでもよかった。いっそこのまま死んでしまっても構わないとさえ思っていた。

 私はとある知らない場所で座り込んでいた。もう力が無く立ち上がれない。服も髪もボロボロで、まるで生きたゴミのよう。目の前が霞んでよく見えず、きっとここで死ぬのだろうと思った。

妹の所へ行けるかな。また一緒に手を繋いで遊べるかな。何も出来ず救ってあげられなかった私を許してくれるかな。

ゆっくりと路上に身を横たえて、目を閉じた。

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