穏やかで温かい日差しが降り注ぐ中、小柄な二人は連れ添って通りを歩いて行く。

髪色や瞳の色は違うものの、周囲から見れば仲の良い姉妹に見えるかもしれない。

二人の背丈は同じ位だが、実際はハルが小さいのであって若いミアは標準的だった。

 目的地はハルが着ている服を買った市場で、店舗があるわけではなく、通りの両側に個人がそれぞれ思い思いの品を並べて売っているような、フリーマーケットのような場所だ。

ハルはその市場を発見してから、足繁く通っていた。そこには様々な物が売っていてこの世界を理解するためにも役立つからだ。

 二人がいくつか通りを進むと、とある角を曲がった先の路地にその市場があった。

市場は活気に満ち溢れていて、多くの人が行き交い、沢山の声が聞こえて騒々しい。

色々な物が並べられている。衣服はもちろん、家具や食器、剣や盾、鎧のような武具、アクセサリー類や何に使うのか分からない物も沢山。どれもこれも中古品なのか盗品なのかは分からないが、新品では無さそうだった。

 いくつか衣服を売っている所を見て回っていると、ミアは綺麗なブルーがかったグリーン、パステル調の淡い翡翠のような色のワンピースを手に取った。

スカートの裾には控えめに白のレースがあしらわれていて、背面の腰辺りに小さなリボンのワンポイントが付いている。

年相応の可愛らしい服だと思ったハルは、気に入ったのならそれを買おうと言うと、ミアは目を輝かせて大きく何度も頷いた。

 更に次は別の店で白のローブーツを購入し、満足した二人は新しい服を抱えながらのんびりと市場を見学していると、とある店でミアが急に立ち止まった。

歩きつつ売り物を見るのに夢中で、危うくミアとはぐれそうになったハルは、ミアが立ち止まって動かない事に気づいて慌ててミアの方へ戻った。

 ミアの視線はその店に置いてあった、こげ茶色のクマのぬいぐるみに注がれている。

大きさは三十センチ位だろうか。長い起毛で覆われていて、シンプルながら愛嬌のある顔つきで座ったポーズをしていた。ただし埃だらけだった。

ハルは何も言わずミアの様子を見つめていた。ミア本人が欲しいと言うならば買うのだが、クマのぬいぐるみには辛い思い出もあるだろう。ハルは本人の意思を黙って待っていた。

 するとミアはぬいぐるみを手に取り、胸に抱きしめながらハルの方に視線を向けた。


「これ欲しい」


ハルは小さく頷いて、売主にお金を支払った。ミアは少し憂いを帯びた笑顔で大事そうにぬいぐるみを抱いていた。


「そのぬいぐるみに名前は付けないのか?」


 ハルが何気なくそんな事を言うと、ミアは少しの間悩んだ後に、両手でぬいぐるみを高く掲げた。


「この子の名前はハル」


それを聞いてハルは絶句した。それではどちらがどちらなのか分からないだろ……。

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