第4話 影との遭遇
ただしばらくホムラの人々の営みを眺めていた。
が、次の瞬間、ゾワゾワっと得も言われぬ悪寒が全身に走った。
黒い感情の波が突き刺さってくる。
これはヤバイ、と思いつつゆっくりと視線を横にずらすと、それはいた。
影の塊が生物の形を成しているような、不可解で不気味なモノ。
パッと見だと人型に近いが、下半身に比べて上半身が異様に大きく、背中からも腕が生えていたりと明らかに違う。
顔がなく、目もないが、その化け物は確実にこちらを見ていた。
「………っ!!」
見えない視線が交わった瞬間、俺は化け物に背を向けて脱兎のごとく走り出した。
全身の神経が叫んでいた。「あれは俺を消すモノだ」と。
「はぁっ…はぁっ…なんなんだよあれ…!!」
ただ必死に、建物の間を縫うように来た道を走り抜けていた。
さっきから色々なことが立て続けに起こっているせいで、全く頭が追い付かない。
あれは何なんだ?俺を殺しに来たのか?なんでこんなに身の毛がよだつんだ?
全っ然わかんねえ!!
ホムラの入り口まで半分ほどのところで、ふと後ろを振り返ってみる。
もしかしたらただの見間違いなのかもしれない、と。
振り向いた瞬間、化け物の巨大な手が目の前にあった。
「え――――――」
声を上げる間もないまま、あっけなく捕まえられる。
全身を握りつぶされているせいで、呼吸ができなくなる。
「がぁ…っ!は、はな…せ…っ!」
化け物は俺の言葉に全く反応せず、ただこちらを観察するように眺めているだけだ。
その隙になんとか抜け出そうと体を動かすが、まるでびくともしない。
俺が逃げようともがく様子を見てなのか、化け物の頭と思しき部分がニヤっ…と笑った――のではなく、頭の真ん中から横に裂けていき巨大な口になった。
人間の体など易々と丸のみにしてしまいそうなほどの大きさだ。
食われる、そう思った。
逃げられない、そう感じた。
死ぬ、そう諦めかけた。
それでも――――
「死んで…たまるかぁっ!!!」
生きるのをやめることだけはできなかった。
俺は全力で神威を使い、どこへでもいいから無理やり飛ぼうとする。
体の内側から力が溢れてくる。
だが、焦っているからなのか上手く制御できない。
もう、どうにでもなれ!!
意を決して、闇雲に神威を開放する。
「うおぁ―――!」
グイっと、物凄い力に引っ張られ、ほぼ真横にすっ飛ぶ。
化け物も反応できていないようで、俺を掴んだまま一緒に飛ばされる。
勢いだけはあるが、操縦桿が壊れた飛行機のようにフラフラと左右に振られながら街中を飛び回っていく。
そして、あちこちの物をなぎ倒しながら、打ち捨てられていた廃屋に思い切り激突する。
ズゴォ…ン!と鈍い音を立てて廃屋の外壁を突き破り、そのまま中に落下して止まる。
「げほっげほっ…いってぇ…!」
普通の人間なら即死してもおかしくなかったが、神の体は頑丈なのか、軽いめまい程度で済んだ。
衝突のおかげで化け物の拘束も解けたので、急いで廃屋から逃げ出す。
あんな化け物がこの程度で倒せるとは思えない。
理由は分からないが、どうやら俺を狙っているようだし、普通に逃げていても同じように捕まるのがオチだろう。
さっきはとっさの思い付きだったが、空を飛んで逃げるのが一番良さそうだ。
いや、もうそれしか方法はない。
そう思い、走りながら神威を使おうと試みるが、上手く扱うことができない。
「なんでだ…!?」
走りながらだと集中できないからなのか、ほとんど力が溜まらない。
どうする?このまま走って逃げ切るか?いや、さっきの速度で来られたら一瞬で終わりだ。でも、立ち止まっていたらそれこそ追い付かれるんじゃないか?
そうこう悩んでいるうちに、あの悪寒が再びやってきた。
振り返ると、やはり、あの化け物がいた。
この時ばかりは、神を恨まずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます