877.惹起篇:性格は地の文で直接書かない

 今回は「性格描写」についてです。

 形容詞・形容動詞はできるだけ使わないで執筆するべきです。

「彼は真面目でやさしい人だ。」なんて書かれたところで、読み手は「ふーん、だから?」という感想しか持ちません。

 性格が現れる|場面(シーン)を書くのです。





性格は地の文で直接書かない


 登場人物の中に真面目でやさしい男性がいます。

 彼の性格を描写するとき、地の文で「彼は真面目でやさしい人だ。」と書いてはなりません。

 地の文で直接言葉にして断言するのは、ただ設定を読ませただけなのです。

 これでは彼の「真面目さ」「やさしさ」が読み手にまったく伝わりません。

 ではどのように書けばよいのでしょうか。




出来事イベントへの対処で性格を描写する

 真面目でやさしい性格を描写するとき、地の文で直接「彼は真面目でやさしい人だ。」と書くのではなく、出来事イベントでどういう対処をするのかを読ませます。

 たとえば以下のように。

――――――――

 大学の正門前で泣いている子どもがいる。男の子のようだ。

 彼に近寄ってひざまずき、目線を合わせて声をかける。

「どうして泣いているのかな」

 男の子は涙をこぼしながら答えた。

「お母さんと……はぐれちゃったの……」

 これは厄介なことになった。しかし泣いている男の子は放っておけない。

「君の名前はなんて言うのかな」

 目元を袖で拭いながら、

「コンドウ……ユウタ……」

 鼻をすすっている。

「今何歳かな」

「四歳……」

「じゃあお母さんの名前はなんて言うのかな」

「コンドウケイコ……」

「お母さんはどんな服を着ていたかな」

「黄色い、長い服……」

 立ち上がって周囲を見わたすと、商店街の入り口で落ち着きのない動きをしている黄色いワンピースを着た女性を見つけた。

 再び男の子の目線まで屈み、

「お母さんらしい人を見つけたから、お兄さんについてこられるかな?」

 黙ってうなずく彼の右手を握り、慌てふためく黄色いワンピースの女性に向かって歩きだす。

「コンドウさんいらっしゃいますか〜。コンドウユウタくんのお母さんいらっしゃいますか〜」

 声を発しながら女性に近寄っていく。

 すると女性がこちらに気づいたようで、小走りに近寄ってくる。

「ユウタ!」

「お母さん!」

 ユウタくんは手を振りほどいて女性に向かって走っていく。

 男の子は彼女に飛びついた。

「もう、駄目じゃない! お買い物の途中で勝手にお店から出ちゃあ」

「お母さん! お母さん!」

 彼は再び大きな声で泣きだした。

「コンドウケイコさんで間違いないですか?」

 女性に向かって語りかける。

 彼女はユウタくんを抱きしめながら、こちらへ顔を向けた。

「はい。コンドウケイコは私です」

「よかった。ユウタくん、しっかりしたお子さんですね。自分の名前も年も、お母さんの名前も服装も憶えていて」

 彼に近寄って膝をついて目線を合わせ、

「ユウタくん、よかったね。お母さん、君のこと忘れてなかったよ」

「うん、お兄ちゃんありがとう!」

 ユウタくんは表情を弾けさせてこちらを見つめてくる。

「それじゃあ、後はお願いしますね」

 ケイコさんに声をかけながら立ち上がり、その場を立ち去ることにした。

「あの、あなたのお名前は……」

 ちょっと考えてから彼女に告げた。

「あ、ただの通りすがりなので、お気になさらないでください。ではこれで失礼します」

 立ち去ろうとするとユウタくんが口を開いた。

「お兄ちゃんありがとう」

「よかったね。じゃあここでお別れだよ……」

 商店街を後にして、大学の正門前を通り過ぎて家路を急いだ。

――――――――

 例文は以上です。

 さて、この拙い文章を読んで、主人公にどんな印象を持ちましたか。

 子どもにやさしい。困っている人を放っておけない。一度関わりを持ったら最後まで面倒を見る。

 先に挙げた「真面目でやさしい人」を余すところなく描写できていると思いませんか。

 これが正しい性格の描写方法なのです。

 出来事イベントをひとつ使って、読み手に主人公の性格が伝わります。

 これを単に「真面目でやさしい人」という地の文で終わらせてしまったら、とても味けないですし、読み手のイメージが湧きづらい。

 だから出来事イベントを通して主人公の性格を披露するべきなのです。




人によって価値観や考え方は異なる

 登場人物は書き手であるあなた自身ではありません。

 至極当たり前のことですね。

 たとえば三十代男性の書き手が、六十歳男性の心情を書くこともあれば、女子高生の心情を書くこともあります。

 これをとっても、登場人物は書き手自身ではないことは明らかです。

 それなのに、六十歳男性や女子高生があなたの思想や思考と同じくなってしまうことがよくあります。

 世の女子高生のほとんどが青春を謳歌しているのに、あなたの書いた女子高生は妙に悲哀漂う女の子になってしまう。しかもすべての女子高生が同じ思想や思考をしてしまうのです。

 書き手の考え方が女子高生に反映されています。

 これでは小説の書き手として失格です。

 性別・年齢・民族によって、「世界の見え方」はまったく異なります。

 書き手はそれぞれの人物による「世界の見え方」の違いを、文章で表現しなければなりません。文章で書き分けられないのであれば、致命的です。

 書き手の感じ方・考え方をすべての登場人物に反映してしまっては 個性が皆一緒になってしまいます。

 それぞれの人物には、世界がどう見えているのか。人によって「世界の見え方」が異なるのだということを意識して執筆してください。





最後に

 今回は「性格は地の文で直接書かない」ことについて述べました。

 性格をただ「真面目でやさしい人だ。」と書くだけでは、読み手に性格を憶えてもらえません。「真面目でやさしい人だ。」という文字列は「記号」でしかないのです。

 では人物の性格をどう書けばよいのか。

 出来事イベントを通して読み手に「真面目でやさしい」場面シーンを見せることです。

 上記した場面シーンを読めば、誰でも「真面目でやさしい人だなぁ」と思えるでしょう。

 ひとりの性格を書くのにひとつの場面シーンが必要になるわけではありません。

 複数の人物の性格を、ひとつの場面シーンで描写できれば、なおよろしいのです。

 上記の例でも男の子「コンドウユウタ」くんが「素直で利発」な性格であることもわかるのではないでしょうか。

 性格描写はできるだけワン場面シーンにまとめられないかを考えて構成してください。



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