658.事典篇:北欧神話:ヴァン神族

 今回は「北欧神話のヴァン神族」について述べてみました。

 アース神族との戦争を終結する際に人質交換の形でアーサヘイムへ送られたのがニョルズとクヴァシルです。

 ニョルズは女巨人スカジとの間にフレイとフレイヤをもうけます。

 この二柱は「北欧神話」の中でも重要な役回りを果たすのです。





事典【北欧神話:ヴァン神族】


 今回は「ヴァン神族」についてまとめます。

 フレイと女巨人ゲルズとの子孫は別にまとめていますので、フレイヤの血族を主にまとめました。




ヴァン神族

 ヴァン神族はアーサヘイムへ送られたニョルズ、クヴァシル以外知られておらず、また「ラグナロク」のときに巨人たちと戦ったのかもわかりません。ただニョルズが「ラグナロク」後にヴァナヘイムに帰ろうと語ったことから、滅びてはいないようです。



アーサヘイムへ送られた神

港湾の神ニョルズ

 妻は巨人スカジでその間に双子の息子フレイ、娘フレイヤをもうけたとされます。一説によればフレイとフレイヤはニョルズの妹との間の子供とされているのです。

 ですが、アース神族とヴァン神族の人質交換をするのなら同数にすべきでしょう。アース神族から二柱がヴァナヘイムへやってきたのなら、ヴァン神族からも二柱がアーサヘイムへ送られるべきです。よって送られたのはニョルズとクヴァシルの二柱であり、ニョルズと結婚した女巨人スカジとの子が、フレイとフレイヤの双子だったと考えるのが自然です。北欧神話では親族の子は数日で成人に達すると思われます。トールの息子マグニが良い例でしょう。

 ヴァン神族とアース神族の戦争が終わったときにニョルズはクヴァシルとともにアーサヘイムに引き渡されました。その後ヴァン神族の存在は薄くなっていき、いつの間にかこの二神はアース神族の一員となります。

 女巨人スカジが父の巨人スィアチを神々に殺され、復讐のためにアスガルドにやってきました。神々はアース神族のひとりを夫にすることで和解を持ちかけたのです。彼女は男神の脚だけを見せられ、その美しさで選びました。光と善の神バルドルを狙っていたのですが、脚の美しさで選んだ神はニョルズだったのです。ニョルズの脚はつねに波に洗われて美しかったのですが、美青年というより美丈夫でした。

 結婚はしたものの海の神であるニョルズは海に近い自分の住居に住むことを望み、スキーで山を駆けては猟をすることを好むスカジは山にある父の館に住むことを望みました。二人は九夜ずつお互いの住居で一緒に過ごすことにしましたが、スカジの館で過ごしたニョルズは狼の吠える声を嫌がり、次にニョルズの館で過ごしたスカジは朝に海鳥の鳴き声で起こされるのが苦痛だったのです。結果この夫婦は程なくして別れてしまったといいます。



フレイ

 フレイヤの双子の兄。本名はユングヴィ・フレイ・イン・フロージ。父は海神ニョルズ、母は巨人スカジあるいはニョルズの妹。妻は巨人ゲルズ、息子はフィヨルニル。召使いにスキールニル、妖精エルフのビュグヴィラとベイラ。

 神々の中で最も美しい眉目秀麗な豊穣の神としてひじょうに崇拝されました。

 フレイは光の妖精エルフの支配者とされ、フレイに最初の歯が生えたお祝いに神々から妖精の国アルフヘイムを贈られたとされています。

 金の猪グリンブルスティを移動手段とし、伸縮自在の魔法の船スキーズブラズニル、愛馬ブローズグホーヴィを所有しています。

 一目惚れした巨人の女性ゲルズを手に入れるため、召使いスキールニルを巨人の国に遣わせ、その褒美として自分の持つ勝利の剣を手放す経緯があります。スキールニルには暗い揺らめく炎も越えられる馬を与えており、そのためスキールニルはゲルズの館を囲む炎を乗り越えることができました。このときフレイが手放した剣は「愚かな者が持てばなまくらだが、正しい者(もしくは賢い者)が持てばひとりでに戦う」と言われていたのです。勝利の剣は俗称で、固有名詞は不明ですが「レーヴァテイン」という剣と同一視されることがあります。勝利の剣を手放したことが原因で「ラグナロク」の際、鹿の角で戦うことになったのです。ムスペルヘイムから来たスルトに敗れることになります。

 ロキから「ゲルズを黄金で買ったうえに剣をやってしまい、ミュルクヴィズ(アスガルドとムスペルの国を隔てる暗い森)を越えてムスペルの子らが来たらどうやって戦うのか」と詰られています。



フレイヤ

 ニョルズと巨人の娘スカジ(ニョルズの妹とも)の娘で、フレイの双子の妹。夫はオーズ。娘にフノス、ゲルセミがいる。オッタルという人間の愛人がいます。フレイア、フレイアー、フライア、フライヤとも。しばしばオーディンの妻フリッグと同一視されます。

 生と死、愛情と戦い、豊穣と「セイズ」を司り、オーディンやニョルズとは対概念的な存在です。ひじょうに美しく力のある女神とされ、豊穣神としての性格上性的に奔放とされます。ヴァン神族では普通のこととされているものの、父ニョルズや兄フレイとも肉体関係があった他、霜の巨人やドヴェルグたちが身代金や報酬として彼女を望むなど、しばしば性的な欲望の対象になりました。

 ブリージンガメンという、神をも魅了する黄金製または琥珀製の首飾りを所持しているのです。

 二匹の猫が牽く車を移動手段にしています。ヒルディスヴィーニという猪も持っていてこれに乗って移動することもあるのです。これは愛人のオッタルが変身した姿ともいわれています。

 性に関してだらしない面があり、首飾りを手に入れる際も、製作した四人のドヴェルグたちに求められるまま四夜をともに過ごしたとされています。人間や神々の中にも多くの愛人がいたそうです。とくにお気に入りだったのが人間の男性オッタルで、彼を猪に変身させてそれに乗って移動することもあったといいます。そのためか夫オーズに去られています。

 フレイとも関係を持ったことがあるが、ヴァン神族において近親姦は日常的に行なわれます。ロキから、フレイヤが兄と一緒にいるときに神々が乱入したことを指摘されています。

 人間が恋愛問題で祈願すれば喜んで耳を傾けるともいわれています。

 兄フレイとともに豊穣神としてアース神族の最重要神とされているのです。

 霜の巨人からしばしば身柄を狙われます。たとえば破壊されたアスガルドの城壁の建設を請け負った石工は、正体が山の巨人であったが、報酬として望んだのはフレイヤと太陽と月でした。また巨人スリュムがアース神族トールの持つ最強の武器ミョルニルを盗み、返却の条件として出したのは自身とフレイヤとの結婚だったのです。巨人フルングニルがヴァルハラ宮内で酒に酔ったときはフレイヤとシヴだけを自分の国へ連れていき後は皆殺しにするなどと豪語しました。

 フレイヤが、行方不明になった夫を捜して世界中を旅する間に流した赤い涙は、地中に染み入って黄金になったとされています。


フノス

 フレイヤとオーズの間の娘。妹はゲルセミ。

 彼女がひじょうに美しいことから北欧人が美しい人を「フノスのように美しい」と称するといいます。フノスはアスガルドに住む神々の中でゲルセミとともに最も若く、町の中のどの御殿を訪れても喜んで迎え入れられ、自由に遊びに行くことができました。


ゲルセミ

 フレイヤとオーズの娘。姉にフノスがいる。



クヴァシル

 ヴァン神族で最も賢い神。アース神族との戦争和睦の人質交換に際し、アース神族がひじょうに賢いミーミルを送ってきたため、ヴァン神族は交換にクヴァシルをアスガルドへ送ったとされます。

 バルドルの蘇生を阻んだことで神々に処罰されることを恐れたロキが自分で作ったのち焼いて処分した網の灰を見て、これが魚を捕まえる道具と見抜き、鮭に変身して川へ飛び込んだロキを捕まえるのに網を作って使うように提案しています。

 世界中を回って自身の知識を広めようしたが、間もなくドヴェルグのフィアラルとガラール兄弟によってふたりの住む洞窟で殺害されます。クヴァシルから搾り取られた血はオーズレリルという釜と、ソンとボズンという名の壺に貯められました。兄弟はアース神族らにはクヴァシルは己の知識で窒息して死んだと告げたのです。兄弟がクヴァシルの血と蜂蜜を混ぜ合わせて保管していたところ、血から詩を生み出す魔力のある「詩の蜜酒」が醸されました。





最後に

 今回は「ヴァン神族」についてまとめてみました。

 主にアース神族の元へ人質交換として送り出されたニョルズとその子フレイ、フレイヤの三柱が中心となっています。

 とくにフレイヤは、オーディンの妻フリッグと同一視されることもあり、アーサヘイムに住む誰よりも美しかったとも言われているのです。



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