三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム

402.深化篇：悪人を書きたければ

　今回は「悪人」についてです。

『水戸黄門』『暴れん坊将軍』のような「勧善懲悪」ものの場合はその回の「対になる存在」は必ず「悪人」です。

　しかし日本では「対になる存在」が必ずしも「悪人」とは限らない作品が現れました。

　そこから日本独自の物語論が生まれてきたのです。

悪人を書きたければ

　悪人を書くのは殊のほか難しいものです。

　日本人は基本的に道徳観念から「性善説」の人が多く、悪人となるような人物像がすぐに思い浮かびません。

明確な悪人が減っている

　ですが「異世界ファンタジー」には明確な悪人が登場するパターンが多いのです。

　ゲームの任天堂『スーパーマリオブラザーズ』シリーズのクッパは毎度ピーチ姫をさらう明確な「悪人」と言えます。

　ルーカス・フィルム（現ディズニー）『ＳＴＡＲ　ＷＡＲＳ』のエピソード４〜６に登場する銀河帝国の皇帝も、反抗する星々を破壊していく明確な「悪人」です。

　時代劇ですが『水戸黄門』『暴れん坊将軍』のような「勧善懲悪」ものも水戸光圀や徳川吉宗に敵対するのは「明確な悪人」でしたよね。

　ですが、このような「明確な悪人」というのは、時代を経るごとに少なくなっていきます。

　その代わりに「事情のある悪人」が増えてきたのです。

　転機となったのはアニメ監督の富野由悠季氏の出現です。

　それまで『マジンガーＺ』『グレートマジンガー』などで「善と悪との戦い」つまり「勧善懲悪」でしかなかったロボットアニメ界に「善ともう一つの善との戦い」という構図を持ち込みました。

『勇者ライディーン』『無敵超人ザンボット3』『無敵鋼人ダイターン3』にもその影があります。

　しかしより明確になったのは周知の『機動戦士ガンダム』です。

　地球連邦政府は地球からスペースコロニーで暮らすスペースノイドを抑圧していました。

　それに反旗を翻す形で地球から最も遠いコロニー群であるサイド3が「ジオン公国」を立ち上げて独立戦争を仕掛けてきます。

　数で勝る地球連邦軍は、ジオン軍の人型MS「ザク」によって一気に形勢が引っ繰り返されました。

　そんな中で主人公のアムロ・レイが住むサイド７にもシャア・アズナブル少佐率いる「ザク」が迫ります。

　地球連邦政府は地球圏の開発を行ない、各サイドを運営していたわけですから、人々にとっては「善」でした。

　ジオン公国はスペースノイドの自治権確保を命題としており、こちらもスペースノイドから見れば「善」と言えます。

「善ともう一つの善との戦い」が作品に深みを与えていくのです。

　以降の富野由悠季監督作品は「善ともう一つの善との戦い」で一貫されています。

　小説界でも「勧善懲悪」から「善ともう一つの善との戦い」が波及しており、田中芳樹氏の代表作『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』もこの形をとっているのです。

　水野良氏『ロードス島戦記』のカーラも悪の一面を持っていますが、その根源には「ロードス島の善悪の安定を図らんがため」という想いがあります。

　同じく水野良氏『魔法戦士リウイ　ファーラムの剣』のルキアルは「革命」と称して封建国家群を民主化しようと画策する人物。

　統治者側からすれば「悪人」ですが、国民からすれば「善人」なのです。

　まぁやり口が汚いので「民主化」の裏であれこれ考えているのは明白だと思います。

　ＶＲＭＭＯＲＰＧが舞台である川原礫氏『ソードアート・オンライン』では、茅場晶彦がデスゲームを引き起こすのですが、その裏にはある事情があったのです。

　小説には「対になる存在」が不可欠ですし、戦記物であれば「悪人」がいないことには物語が作れません。

　ですが「明確な悪人」はほとんど見なくなりました。

　どんな人物が「悪」だと呼べるのでしょうか。

　意外と身近にあるものです。

悪人の正体は

「善ともう一つの善との戦い」において「悪人」がどうしても必要となったとき、どんな「悪人」を設定すればいいのでしょうか。

　答えはとてもシンプルです。

　あなたの「嫌いな人物」を思い描いてください。

　とてもシンプルですよね。

　あなたの「嫌いな人物」はあなたにとっての「悪人」でもあります。

　ひとりにとっての「悪人」は多くの人にとっての「悪人」でもあるのです。

　だからどうしても「悪人」が思い浮かばないときは、あなたの「嫌いな人物」を思い描いて、その「嫌い」なポイントを抽出しましょう。

　問題があるとすれば、あなたが小説を書いていることを周りが知っており、「悪人」のモデルにした人物に見当がつくような場合です。

　この場合「嫌いな人物」をモデルに寄せれば寄せるほど、モデルになった人が特定されやすくなってあなたが不利益を被る可能性があります。

　なので「嫌いな人物」をモデルにするときは、バレないように工夫しなければなりません。

モデルにバレないためには

　モデルになった「嫌いな人物」に、「悪人」のモデルにしたことがバレないためにはどうすればいいのか。

「嫌いな人物」を二人思い浮かべて、彼らを足して二で割ってください。

　そうすれば、あの面ではA氏、この面ではB氏と特徴が分かれていくので、「悪人」のモデルに気づかれることはまずありません。

　また二人ぶんの「嫌いなところ」が足されますので、より小説の「悪人」らしくなります。

「悪人」に困ったら使ってみてください。

　前述しましたが、現在の物語では「善ともう一つの善との戦い」ですから、「対になる存在」は基本的に「善」です。

　そのうえで第三者として「悪人」を差し挟みます。

悪人の出しどころ

　では「悪人」はどこで出せばいいのでしょうか。

「対になる存在」の手下として出しましょう。

　とくに四天王の何人かを「悪人」にすることが多くなると思います。

　また主人公が「対になる存在」打倒を志し、強くなるための旅に出かけるきっかけとなる「悪人」として出すのもいいですね。

　こちらならどんな「悪人」が登場しても「対になる存在」に影響はほとんどありません。

　マンガの武論尊氏＆原哲夫氏『北斗の拳』も物語開始時には雑魚だけれども「悪人」が登場しています。

　主人公のケンシロウの「対になる存在」であるラオウは「悪人」ではありませんでしたよね。

「正義をこじらせてしまった」という人物像です。

最後に

　今回は「悪人を書きたければ」ということについて述べてみました。

　今はただの「悪人」がウケない時世です。

「対になる存在」は「悪人」ではなく「もう一つの善」が主流になります。

　いわゆる「極悪非道」な「悪人」は、手下の雑魚や四天王の何人かくらいでいいでしょう。

「悪人」像が思い浮かばないのであれば、あなたの「嫌いな人物」を想像してください。

　身近な人でバレそうなら二人をミックスして割りましょう。

　それだけで、その人をモデルにしたことはバレにくいものですよ。

　バレそうになっても「ここが明確に違いますよね」と断言できますからね。