331.執筆篇:漠然としたイメージを伝える

 今回は「イメージを伝える」ことについてです。

 書き手の脳裡に浮かぶイメージを読み手が思い浮かべられるように書くのが小説です。





漠然としたイメージを伝える


 小説は文章を書くだけの芸術だから、絵を描くようなテクニックは必要ない。

 使うのは普段話している日本語だから、誰にでも小説は書ける。

 たしかにそのとおりではあるのですが、ひとつ心得違いをしています。




小説はイメージを読み手に伝えるもの

 小説とは「書き手が頭の中で思い描いているイメージ」を「まったく知識のない読み手」に理解してもらえるように書く必要があります。

 書き手が書きたいように書いたところで、文章から読み手がイメージを浮かべられないのであれば、それは小説とは言えません。


 そもそも文章は、書き手の考え方を読み手に伝えるために存在します。

「書き手が書きたいように書いた」文章は、書き手の主張を読み手に伝えているのでしょうか。

 殊のほか難しい。

 作文や論文であれば、書き手と読み手には共通の知識があります。

「書き手が書きたいように書いた」文章であっても、読み手はなんとか文意を理解しようと努力するのです。

 書き手の主張はすっと頭の中に入りません。

 共通の知識がある作文や論文ですらこれです。

 小説において「書き手が頭の中で思い描いているイメージ」を、読み手は事前に知ることができません。

 共通認識のない小説においては、「まったく知識のない読み手」に理解してもらえるような文章を綴っていく必要があります。

 だから「書き手が書きたいように書いた」文章は読み手に伝わらないものなのです。




読み手をひとりに絞る

 そこでまず必要なのは「書き手の頭の中で思い描いているイメージ」を文章にして、再現可能な状態が作られることです。

 イメージを再現可能な状態にするには、「まったく知識のない読み手」に向けて書く必要があります。

 たとえば友人のひとりを「まったく知識のない読み手」に設定して、その人が読んでもイメージが湧くような文章を書きましょう。

 また小説賞・新人賞に応募しようと思えば、下読みさんが読んでイメージが湧くように書く。

 特定の人物が思い浮かばないようなら、小説のイメージを脳裡に思い描き始めるより前の自分に向けて書いてください。

「まったく知識のない読み手」をひとりに絞って、その人にわかるような表現をするのです。

 小説投稿サイトで不特定多数の人に読んでもらいたいと思って、不特定多数がイメージできるような文章を書こうとしてはいけません。

 結局ターゲットが曖昧になってしまい、小説の文章もぼやけてくるのです。

 万人にイメージが伝わるような文章を書くのが最終目標ではあります。

 ですが、それを最初から目指して書こうとすると一文も書けなくなるのです。

 まずは「ひとり」に狙いを定め、その人にわかるように書きましょう。

 すると「ひとり」に狙いを定めたにもかかわらず、それに近しい人たちにもあなたの小説がイメージできるようになります。


 たとえば「ひとり」をターゲットにしても、それが「百人に一人」の集団に含まれているのであれば、日本国民の「百人に一人」つまり百二十万人がイメージできる小説になるのです。

 イメージできる人が百二十万人いるということは、紙の書籍にした際百二十万人に売れる可能性があります。

 「五十人に一人」の集団に含まれるような人物たとえば学校の同級生や職場で同じ課に属する同僚のひとりをターゲットにして書けば、それだけで二百四十万人がイメージできる小説になるのです。

 この「五十人に一人」をターゲットにして成功した小説があります。

 本コラムをここまでお読みいただいた方はすでにおわかりでしょう。

 累計二百八十万部を刊行した芥川龍之介賞(芥川賞)受賞作、お笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』です。

 又吉直樹氏は巧みに「五十人に一人」はいる人物に向けて小説を書きました。

 選考員が「五十人に一人」に含まれていれば芥川賞を受賞できるのです。

 あれ? こう書くと芥川賞や直木三十五賞(直木賞)って意外と獲りやすいんじゃないか、と思いますよね。

 実際に獲りやすいのです。

 年二回開催で、一回に二作同時受賞することもあります。

 そして一度受賞した書き手は候補から除外されていきますから、あなたより後に現れた新人さえ押さえ込めれば、年功序列であなたが芥川賞・直木賞を獲ることも夢ではないです。


 難関と言われる芥川賞・直木賞ですらこういう状態になります。

 小説投稿サイトの「小説賞・新人賞」はさらに受賞しやすいのです。

 受賞したければどうすればよいのか。

 特定の「ひとり」に向けて小説を書きましょう。




知識のない読み手に向けて文を紡ぐ

 特定の「ひとり」に向けて小説を書きます。

 その人が見つかれば、いよいよ執筆開始です。

 その前に認識しておきたいことがあります。

「読み手はあなたの小説に対する知識がない」ということです。

 主人公のことも知らないし、「対になる存在」についても知らない。世界観や舞台についても知らないし、物語の展開も知りません。

 本当になにも知らないのです。

 だからこそ、キャラの性格を「出来事」で読ませ、世界観や舞台をつぶさに「説明」していく必要があります。


 あなたの小説を知らなくても、読み手が世界観・舞台を知っている小説が実際にあるのですが、おわかりですか。

 小説投稿サイト『小説家になろう』での「異世界転生」「異世界転移」ものや「悪役令嬢」「VRMMO」といったもはや「テンプレート」となった小説がそれに当たります。

 これらはすでに多くの作品で用いられているため、誰も疑うことなく世界観・舞台が同じだと見なして読み始めるのです。


 読み手が世界観・舞台だけでなく、主人公や「対になる存在」など登場人物まで知っている小説もあります。

『pixiv小説』などで見られる「二次創作」の小説です。

 すでにある物語をそのままパクり、シチュエーションだけ変えて作られる「二次創作」は特段「知識のない読み手に向けて書く」必要などありません。


 しかし小説投稿サイトで催されている「小説賞・新人賞」には「テンプレート」や「二次創作」を用いた作品はウケません。

 「テンプレート」や「二次創作」では「誰々のマネ」「あの作品のパクリ」という評価しかつかないのです。

 あなたのオリジナル小説のことをまったく知らない読み手に対しては、「テンプレート」「二次創作」で省いた要素こそがたいせつになります。

 登場人物について詳しく、物語が繰り広げられる世界観・舞台をしっかりと書く必要もあるのです。





最後に

 今回は「漠然としたイメージを伝える」ことについて述べました。

 書き手の脳裡に浮かぶ漠然としたイメージを、すべての読み手にどう伝えればいいのか。

 意識すると一文も書けなくなります。

 伝える相手を「ひとり」に絞りましょう。

 その人に内容が伝わるように書けば、同じような人たちにも必ず伝わります。

 最もダメなのは「読み手を誰も想定せず」「書き手が書きたいように書く」ことです。

 それでは誰にも伝わりません。




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