325.執筆篇:場面構成

 今回は「場面シーン」の適切な分け方についてです。

場面シーン」は明確に分けるポイントがあります。





場面シーン構成


 小説を書いているときに注意したいのが「場面シーン構成」です。

 ひとつの場面シーンに含めるべき要素と、分けたほうがよい要素があります。

 では適切な「場面シーン構成」とはどのようなものでしょうか。




全体の流れ

 まず物語の「全体の流れ」によって分けます。

 具体的には「エピソード」を単位として「章」立てをするのです。

『小説家になろう』で人気の「異世界転移ファンタジー」を例にしてみましょう。

 最初は「主人公が異世界に転移するエピソード(1)」がきます。

 その後は「主人公が異世界に戸惑うエピソード(2)」です。

「異世界人から『勇者』として祭り上げられるエピソード(3)」「『勇者』として『対になる存在』である敵と戦い負けるエピソード(4)」「仲間が集まって『対になる存在』である敵と戦う準備をするエピソード(5)」「主人公パーティーが『対になる存在』である敵と戦って勝つエピソード(6)」「戦い終わって世界が平穏を取り戻すエピソード(7)」ときます。

 そして「主人公は現実世界に戻ってこられるのか異世界で生きていくことを決意するのかが選択されるエピソード(8)」が一般的な流れでしょう。

 ここでは八つのエピソードで物語が構成されていることがわかると思います。

 三百枚の小説にはいくつのエピソードが必要かは書き手の文体次第です。

 ひとつのエピソードを何枚にまとめられるのか広げられるのかは書き手によって大きく異なります。

 三つのエピソードで三百枚が書ける人もいれば、十のエピソードでようやく三百枚に到達する人もいるからです。




時間と場所の範囲

 ひとつのエピソードはつねに同じ時間・同じ場所で起こるとは限りません。

 むしろ複数の時間・複数の場所で起こったことをひとまとめにしてエピソードが構成されます。

 この「時間と場所」のことを「場面シーン」と呼ぶのです。

 たとえば「主人公が異世界に転移するエピソード」であれば、「主人公の現実世界の日常の場面シーン(1)」「主人公にある出来事が起こる場面シーン(2)」「その出来事によって主人公が異世界に転移する場面シーン(3)」「異世界に飛ばされた主人公が住民に発見される場面シーン(4)」に分けたとすれば第一エピソードは四つのシーンで構成されているのがわかります。

 少なくともシーン1とシーン2は現実世界が舞台であり、シーン3とシーン4は異世界が舞台です。

 そしてシーン1とシーン2では時間に隔たりがありますし、シーン3とシーン4も時間に隔たりがあります。

 つまり「時間と場所」に隔たりがあるから「場面シーン」が分けられるのです。

 もちろん書き手の感性によって一連の場面シーンをすべてつなげてワン場面シーンに押し込む手もあります。

 でも小説は「省く」芸術です。

 時間に隔たりがあればその連続性をつぶさに書く必要はなく、飛ばしてしまってもなんら問題ありません。

 場所に隔たりがある場合も連続性ではなく、隔たりのぶんだけ飛ばしてしまってもかまわないのです。

 ひとつのエピソードを何場面シーンに分けるかは書き手の技量とエピソードの重要性によって左右されます。

 とくに「このエピソードは読み手の心をぐっと掴みたいから、時間や場所をたくさん取り入れてボリュームを出したい」という意図がある場合は場面シーンの数が必然的に増えていくのです。




エピソードと場面シーンのバランス

 このあたりにエピソードと場面シーンのバランスの重要性があります。

 エピソードを増やして場面シーンを短くし歯切れよく読み進めてもらいたいのか、エピソードを減らして場面シーンを長くすることでその場面シーンをじっくりと読ませたいのか。

 それによってエピソードを増やしたほうがいいのか、場面シーンを増やしたほうがいいのかが決まります。

 書き手には「とにかくこの場面シーンを皆に読んでもらいたい」という場面シーンが必ずあるはずです。

 そうでなければ「小説を書く」なんていう手間暇のかかる芸術は選びません。

 できるだけ分厚く描写することで、読み手にも「書き手はここを読んでもらいたいんだな」と感じてもらえるようにしましょう。

 また「この小説ではとくにこのエピソードが物語の屋台骨だから、しっかりと描写したい」と思うエピソードがあるはずです。

 読んでもらいたいエピソードを分量で主張すれば、読み手は「長くて読むのがたいへんだ。それだけ重要なエピソードなんだな」と感じてもらえます。

 書き手はあらかじめ「このエピソードや場面シーンを読んでください」と読み手に知らせることができません。

 だからこそエピソードと場面シーンの疎密で読み手に「ここを注意深く読んでほしい」と主張するのです。


「ハイファンタジー」なら「対になる存在」である大魔王との生死や世界の運命を賭けた戦いをすることになります。

 もし肝心の大魔王戦が前座の中ボスよりも短く終わってしまったら、読み手はどちらが印象に残るでしょうか。

 中ボス戦のほうですよね。

 とくに「対になる存在」との最終決戦は必ず他の中ボスや雑魚よりも分量が多くなければなりません。

 もし「対になる存在」との最終決戦があっさりと終わってしまったら、読後感は「なんじゃこりゃ」という呆れた印象になります。




人物との出会いと別れ

 場面シーン構成で忘れがちなのが「人物」の加減による状況変化です。

 物語を進めていくとき、新しい人物が加わればそれまでとは状況が一変します。

 新たな展開が期待できるため、読み手は「新しい人物」を隅々まで検分するのです。

 またパーティーから人物が離れていく別れの場面シーンも、それまでの役割を終えていくため場面シーンが切り替わるポイントになります。

 惜別となるのかケンカ別れになるかは展開次第ですが、一度別れた人物がのちに再び合流することも多いのです。

 人の縁はそう簡単に切れるものではありません。

 ライトノベルの主要層である中高生も進学に合わせて別離と出会いを経験します。

 とくに日本で生まれ育った人は必ず別離と出会いを経験しているはずです。

 パーティーに合流したり離脱したりするのは、読み手にワクワク・ハラハラ・ドキドキが提供できるため、できるだけ出入りを意識して構成してみてください。

 恋愛小説でも、主人公と「対になる存在」がメインでいるだけでは話はなかなか先に進みません。

 そこに「恋のライバル」が現れることによって、息もつかせぬ展開が可能になります。

 たとえば渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は当初主人公の比企谷八幡とヒロインの雪ノ下雪乃だけで話を進めていました。

 長編一冊ぶんの小説として書いていたため、恋の駆け引きを二人だけに絞ったことでうまくまとめることができたのです。

 しかし高評価を得たため連載小説へと移行していきます。

 それにより「恋のライバル」である由比ヶ浜結衣が現れました。

 人物が加われば状況が一変します。

 それまでの八幡と雪乃二人による駆け引きだけでなく、結衣も加わって三人が微妙な立ち位置に置かれるのです。


 同じような構造としてマンガのまつもと泉氏『きまぐれオレンジ☆ロード』が挙げられるでしょう。

 引っ越してきた主人公・春日恭介は、階段を昇ったところにある公園でヒロイン・鮎川まどかと出会います。

 双方とも悪くない印象を持ちます。

 しかし恭介が転校していくと、まどかが不良じみたことをしていることを知ります。

 出会いとのギャップに悩む恭介は、超能力を使ってバスケットボールの超ロングスローを決めるのです。

 それを偶然目撃した後輩の檜山ひかるが恭介に強い関心を抱きます。

 これにより恭介とまどかとひかるの三角関係が始まるのです。

 そして物語のラストで恭介は、海外留学をして帰国したまどかと作品冒頭の公園で再会します。

 そこで三角関係は最終的なピリオドを迎えるのです。

 人物が増えたり減ったりすることで、物語は必然的に動き始めます。

 マンガの名著はたいてい「出会いと別れ」によって主人公の成長を描いていくのです。

 同じく物語である小説も、やはり「出会いと別れ」による主人公の成長が記されています。





最後に

 今回は「場面シーン構成」について述べてみました。

 場面シーンを区切るのは「エピソード」「時間と場所」「人の出入り」の三点です。

 これを境にして物語は区切られます。

 どんなに難解な小説も、突き詰めれば「エピソード」「時間と場所」「人の出入り」が必ず描かれているものです。




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