310.執筆篇:危険性がコツ

 今回は「病気」「事故」「事件」についてです。

 書くネタに詰まったら、とりあえずこの三つのどれかを書けば乗り切れる。

 ある意味魔法のような要素です。





危険性がコツ


 人間はつねに「危険」と隣り合わせで生きています。

 まったく安全な状況で生活することなどありえません。

 だからこそ人間は「危険」な香りを嗅ぐと注意を引きつけられるのです。




安心と警戒

 禅問答のようですが、「安全」「平穏」とは「危険」「脅威」のない状況のことです。

 身近に「危険」「脅威」を感じているから、絶えず周囲に気を配って警戒する必要があります。

 だから人間は「安全」「平穏」つまり安心な状態を心地よく思うのです。

 もし「危険」「脅威」がまったくなければ、つねに「安全」「平穏」な状況であり周囲に気を配る必要はないため堕落していきます。


 小説の登場人物にも、絶えず周囲に気を配って警戒している人がいることでしょう。

 現代日本のように、まったく警戒せずに生きていける世界はそうありません。

 現代日本であっても学園生活や社会人生活を楽しく過ごしている人ばかりではない。

 気のおけない仲の友人もいれば、険悪な仲の人物もいるはずです。

 突飛なことを言い出す人物は周りから距離を置かれますよね。

 また部活動をしているのなら、味方チームに囲まれれば安心できますが、敵チームに囲まれれば警戒せざるをえません。




安心を脅かすもの

 人間の安心を脅かすものが三つあります。

 病気、事故、事件です。

 ある日突然やってきて、人々の安心を打ち砕きます。

 天才作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトは35歳で急逝しました。

 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは音楽家でありながら二十代後半で生命線の聴覚を失ってしまいました。

 病院がこれだけ数多くある現代においても、誰がいつガンになるのかを予測することはできません。

 お酒の飲み過ぎで肝臓を壊した、タバコの吸いすぎで肺病になったという因果がはっきりしていれば対処のしようもありますし、脳梗塞も心臓病もある程度生活習慣に気をつければ防げます。

 でもガンだけは理由がさっぱりわかりません。

 病気への恐怖は万人共通なので、テーマに詰まった書き手はたいてい「病気もの」の小説を書きます。


 病気は可能な限りリスクを減らせば防げるものが多いのですが、事故や事件はなかなか防げません。

 事故や事件の多くには他人がかかわっているからです。


 事故のうち自分ひとりで起こるものに関しては、基本的に当人の注意力低下に原因があります。

「ながらスマホ」で自転車を運転して街路樹に追突するというのは、明らかに注意力が低下していますよね。

 考えごとに夢中になってマンホールのふたが開いていることに気づかず落ちてしまうこともあります。

 高齢ドライバーによるアクセルとブレーキの踏み違えや高速道路の逆走なども認知機能の低下つまり注意力の低下です。

 電子レンジにアルミホイルを入れて発火させてしまう人も少なからずいます。


 これに対し相手がいる事故は予測不能です。

 信号どおりに自動車を運転していたら、信号を無視して交差点に突っ込んできた自動車に激突されたという話が数多くあります。

 病気の外科手術にも事故はつきものです。

 相手がいる事故の場合、仮にこちらが注意を払っていても、相手の注意力が低下して適切な処置がとれなければ起こってしまいます。


 事件は加害者の故意で起こることが多い。

 一方的に恋情を募らせてストーカー殺人事件が起きることがあります。

 誰それが気に食わないから殴る蹴るの暴行事件に発展するのです。

 言い寄る男性を強く突き放したら、男性が転んでその先にあった岩に頭を強打し死亡する、という事件もあります。こちらは不可抗力ですね。


 病気、事故、事件が人々に与える影響は計り知れません。

 だからこそ、この三つは物語の題材になるのです。




必要なのは影響を与える出来事

 物語には出来事が起こります。

 その大きなものが病気、事故、事件です。

 些細な出来事はこの三つのいずれかを引き起こすトリガーになりえます。

 つまり「伏線」たりえるのです。

 物語に出来事が起こって、周りの人々がそれに影響される。

 そこにこそ「物語」が存在するのです。


 出来事が起こったのに周りの人々がなんら影響を受けない。

 そんな出来事は起こす意味がありません。

 小説にムダなところがあってはならないのです。

 出来事が起こったのに誰にも影響が及ばないのであれば、そんな出来事を起こす必然ががない。

 連載小説を書いていると、えてして「誰にも影響が及ばない」出来事を投稿してしまうことがあります。

 読み手がその出来事を飛ばして読んでも、物語の流れにまったく関与しない。

 そのような出来事は要りません。

 もしかすると、あなたが今書いている小説でこのような出来事を執筆している可能性がありますね。

 今一度、あらすじからプロットまでを再確認してください。

 その小説の一投稿ぶんは、物語の進展に寄与するのでしょうか。

 もし寄与しないようなら、いっそ破棄してしまうのも一手です。


 もちろん俗に言う「サービス回」つまり「読み手が喜びそうな出来事」があってもいいと思います。

 でも頻繁に「サービス回」を投稿するようだと、物語の本筋が遅々として進まなくなるのです。

 主流はあくまで「物語の本筋」であって、「サービス回」ではありません。

「サービス回」だらけの連載小説を読んでいると、いつ物語が終わるのか、読み手が判断できなくなります。

 そうなると読み手は見切りをつけてあなたの小説から離れていくのです。

 本来なら新しい投稿をするごとに閲覧数・ブックマーク・評価が増えていきます。

 それなのに閲覧数は減っていき、ブックマークも評価もいっこうに増えていかなくなるのです。

 これではなんのための「サービス回」かわからなくなります。

 極論「サービス回」は要りません。どうしても書きたいのであれば主要キャラ一人につき一回までです。

 群像劇であっても「主要キャラの一人称視点」があれば「サービス回」なんて要りません。


 出来事が起こったら誰が影響を受けるかどうか。

 このようにして出来事を作っていくのです。





最後に

 今回は「危険性がコツ」ということを述べてみました。

 病気、事故、事件。

 三つの危険性を読み手に提示すれば、読み手はあなたの小説から目を離せなくなります。

 そのまま放置すれば死ぬ可能性がある。

 危機管理能力として誰にでも備わっている機能です。

 読み手を主人公により深く感情移入させるためにも、危険性で読み手を煽りましょう。

 あなたが好きな小説にもなにがしか目の離せない状況があるはずです。

 ここで読みさすと興奮して眠れないから続きを読もう。

 そうやって読み手を誘導するから、フォロワーさんが増えていきます。

 なんの工夫もなく物語に関係ない「出来事」を作らないようにしましょう。



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