短編篇〜たまには短編も書きましょう

294.短編篇:長さによる小説の区分

 今回から五回にわたって「短編篇」を投稿します。

 本コラムは基本的に長編小説・連載小説を目標にしています。

 でも皆様から「短編はどう書けばいいのか」と問われることが多いため、短期集中で「短編篇」を設けることにしました。

 まずは分類する基準として「長さ」を見ていきましょう。





長さによる小説の区分


 まず小説の長さによる違いを、四百字詰め原稿用紙と想定文字数を挙げてみます。

「長編小説」原稿用紙三百枚前後・文字数十万字前後

「中編小説」原稿用紙二百枚前後・文字数八万字以下

「短編小説」原稿用紙二十枚から六十枚程度・文字数一万五千字程度

「ショートショート」原稿用紙五枚から二十枚程度・文字数四千字程度




ショートショート

 ショートショートは一般的に原稿用紙十枚が目安とされその半分から二倍までが許容範囲です。

 原稿用紙十枚は長編小説では章内を区切る一節の長さに当たります。

 つまり長編小説のように書くのなら、場面シーンを転換している余裕はありません。

 場面シーンを転換したいのなら、改段落して都度切り替えるか、異なる場面シーンで起こったことについて話で触れるかします。

 そして必ず「オチをつける」のがショートショートの特徴です。

 「あるときあの人たちがこんなことをしました。おしまい。」では長編小説の一節を抜き書きしたにすぎません。

 限られた場面シーンに必要最小限の人物がいて「オチをつける」のがショートショートです。

「オチをつける」には、限られた文字数であろうと「伏線」を張る必要があります。

 設定を説明しなければならない冒頭の一枚でオチにつながる「伏線」を仕込むと効果的です。

 その設定も最小限にしなければなりません。

 現実世界の中で起こっている出来事を書くのなら、設定なんてまるっきり書かなくてもよいのです。

 ショートショートは「極限まで省かれた小説」になります。

 短編小説も書かずにショートショートに挑戦するというのはかなりの無理筋です。

 まずは短編小説を書いて「説明」と「描写」また「伏線」について学びましょう。




短編小説

 短編小説は一般的に原稿用紙四十枚が目安とされ、その半分から一.五倍までが許容範囲です。

 原稿用紙四十枚は長編小説でおよそ一章の長さに当たります。

 ショートショートで述べましたが、原稿用紙十枚で一節です。

 だから四十枚なら四節立てられます。

 ひとつの短編小説の中に無理せず「起承転結」の四部構成が当てはめられるのです。

 ただし「起承転結」の各構成に原稿用紙十枚ずつを単に割り当てるだけでは物語としての魅力に欠けます。

 冒頭で説明する「起」をダラダラと長く書いてしまうほど、読み手は離れていくでしょう。

 できるかぎり早く主人公を登場させる必要があるのです。

 近年の小説のセオリーでは、真っ先に主人公を登場させてから追い追い説明を加えていきます。

 そのためとくに短編小説では「起承」を合わせて構成することが多いのです。

 そうなると三部構成に思われるかもしれませんが、三部構成の代表となると「序破急」になります。

 三部構成に変更することで「序」の分量が減り、「急」の分量が増えてしまうのです。

 そこであえて「起承」は「伏線」を張りながら全体の「三分の二」までに収めます。

「転結」は「怒涛の畳み込み」で「起承」で張った「伏線」をすべて回収しながら「佳境クライマックス」を盛り上げ「結末エンディング」まで一気に書き進めるのです。

「転結」の「怒涛の畳み込み」にこそ短編小説の醍醐味があります。

「起承」が全体の「三分の二」にあたります。つまり目安の一万五千字のうち冒頭から一万字までが「起承」なのです。

 これを「三分の二の法則」と呼ぶことにします。

「起承」の間にすべての「伏線」すべての「人物」すべての「アイテム」を登場させましょう。

 逆に言えば残る五千字しかない「転結」で「伏線」「人物」「アイテム」を新規に追加してはなりません。

 そんなことをすると「転結」に求められる「怒涛の畳み込み」が薄れてしまいます。

(寓話『シンデレラ』では王子様とダンスをする「転」でガラスの靴が脱げてしまうという「伏線」が出てきますよね。これがないと「結」がハッピーエンドにならないので、あえて「転」にも「伏線」を仕込んでいるものと思われます)。




中編小説

 中編小説は一般的に原稿用紙二百枚が目安とされ、その半分から一.五倍までが許容範囲です。

 四十枚の短編小説が一章なら、二百枚の中編小説なら五章用いることができます。

 これだとバランスが悪いとされるので実作では一章を五十枚と多めに見積もり、四章構成にするのです。

 もちろん短編小説と同様で、四章へ原稿用紙を均等に割り当てるのでは物語としての魅力に欠けます。

 短編小説のように「三分の二の法則」を利用するのも手です。

「起承転結」において「起承」で五万字用い、「転結」で二万五千字用いると魅力的になります。

 読み手に「佳境」をより楽しんでもらいたいのなら「起承転転結」と「佳境クライマックス」に当たる「転」の分量を二倍に増やす手も「あり」です。

 また意外に思われるかもしれませんが、芥川龍之介賞(芥川賞)の選考対象は「中編小説か短編小説」なのです。

 対になる直木三十五賞(直木賞)の選考対象は「長編小説か短編集」になります。

 だからマンガの柳本光晴氏『響〜小説家になる方法〜』にあるような芥川賞と直木賞をW受賞するようなことは基本的にありえません。

 選考対象となる小説の長さが異なるからです。

 皆様の夢を思いきりぶち壊してしまいましたね。

 他の一般的な小説賞では「三百枚の長編小説」が求められますが、こと芥川賞に関してはほとんど中編小説のための賞と言ってよいでしょう。

 二百八十万部発行と芥川賞最大のヒット作となったお笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』もハードカバーでしたが実は「中編小説」なのです。

 まぁ本コラムは芥川賞や直木賞を狙いに行く目的では役に立たないかもしれません。

 主に小説投稿サイトで活躍するため、ひいてはライトノベルを書くためのコラムです。

 もちろん小説の構造に関してはライトノベルも文学小説も大差ありません。

 だから本コラムも芥川賞や直木賞を狙いたい方が読んでも損はしないでしょう。ただし効率は落ちます。




長編小説

 長編小説は一般的に原稿用紙三百枚前後が目安とされ、最低でも八万字超は必要です。

 十万字を目標にして執筆すればいくら推敲で省いても八万字はゆうに超えます。

 原稿用紙十枚を一節とするなら三十節立てることができます。

「三分の二の法則」を採用して「起承」に二十節、「転結」に十節振り分けるのもいいですね。

 その場合章立ては「起承」で四章、「転結」で二章の全六章となります。

 これまで語ってきたように「起承」は一体化させ、「転結」は合わせて二章ぶんとするのです。

 その中での配分は書き手の思うがままです。

 長編小説に関してはこれまでの本コラムで述べてきましたから、もはや説明は不要でしょう。

 あえて注意点を挙げるとすれば「無理に長くしようとしない」ことです。

 無理やり水増しした部分は、読み手からすると「蛇足」としか感じられなくなってしまいます。

 小説は「省く」芸術です。

 物語に絡まない章や項など必要ありません。

「長編のつもりで書いてきたけど、推敲してみたら中編サイズだった」というのはよくあることです。

 だから高速ライティングでは一.五倍から二倍ほどの分量を書くようにオススメしています。





最後に

 今回は「長さによる小説の区分」について述べてみました。

 ショートショートは一瞬閃く一発の打ち上げ花火です。

 短編小説はひじょうに単純な構造をしているため、描写力が大きく問われます。

 中編小説・長編小説は章単位で「起承転結」が構成できるため、物語のスケールはそれに伴って大きくなるのです。

 原稿用紙四百枚を超えると「大長編小説」「超長編小説」と呼ばれます。

 ほとんどが連載になるため、一巻二百五十枚から四百枚の物語を巻数ぶん書くことになるのです。

 だから四百枚超で五百枚前後の「大長編小説」というのは、現在の出版界ではまず見られなくなりました。

 今ではフョードル・ドストエフスキー氏『罪と罰』のような「大長編小説」はまず書かせてもらえません。

 コンパクトにまとめて一巻三百五十枚程度に収まる長編小説にするか、二百五十枚や三百枚の二巻としての連載小説にするか。

 今はこのどちらかが求められています。



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