196.再考篇:段落について
今回は「段落」です。
地の文はどこで改行すべきなのかを書いています。
ただし一般文芸寄りでライトノベルの主流とは異なるのでご注意くださいませ。
一般文芸はどういうときに改行するのかを知っていればライトノベルを読んだときにその差がわかりやすくなって、自分の文体に馴染ませられると思います。
段落について
「会話文」と異なり「地の文」は適切な位置で改行して段落分けをする必要があります。なんの関係性もなく、長々と「地の文」が改行もせずに続いてしまうと読み手は「地の文」からどんな情報を得ればよいのかわからなくなるからです。
では「
主体が話の流れから逸れたら改行する
まず「主体が話の流れから逸れたら改行して」ください。
文章の「主体」は助詞「〜は」で示されます。そして次の助詞「〜は」が来るまで文章の「主体」は先に出した助詞「〜は」で示されたものになるのです。
拙著『暁の神話』の「書き出し」において「地の文」が続いている場所を抜き書きしてみます。「書き出し」でここまで地の文を続けることは商業ライトノベルではまずありえません。
読み手が感情移入できる主人公が誰なのか、どういう人物像なのかがまったく見えないからです。
ですが恥を承知のうえで抜粋してみます。
――――――――――――――――
士官学校の北舎一階回廊を穏やかな秋の陽射しが照らしている。緑地で銀紋様の刺繍が施された軍衣に、赤いマントをまとった青年が壁にもたれ佇む。赤マントは士官が学校を卒業する際にのみ着用する特別なものだ。青年は色づきを深める広い中庭を見やりながら物思いに耽っている。朝焼けを思わす落ち着きある橙がかった赤髪が太陽の光を受けて輝き華やぐ。
レイティス王国軍では五〇〇名までを統率する中隊長、五〇名までを従える小隊長は士官学校の生徒が直接任に当たる。大隊を率いる将軍となるには士官学校を卒業しなければならない。卒業に能う者は半年に一度開かれる任将会議の折に名を挙げられる。それを受け演習で諸将と手合わせし、実戦で通用するかを軍務長官が直々に査定するのだ。将軍は軍務長官を含めて一三名おり欠員が出た時点で補充する人数だけ卒業して将軍に昇格できる。ただ将軍位に欠員が出ているのに昇進者が従える兵数が揃わなければどれほど有能であっても卒業できない。士官学校に長年在籍していても昇格できないまま戦死か落伍かする生徒がほとんどだ。
士官学校に通った経歴があるだけで官職へ優先して就ける。後ろ盾を持たない弱小貴族はこぞってわが子を士官学校へ通わせた。入れない者は徴集され兵士となるのだ。兵卒であっても戦果がとくに秀でていれば五人隊の長である伍長、十人隊をまとめる什長を務めたのち王府から奨学金を受けて士官学校へ推薦されて進学できる。立身出世の好機なためレイティス王国軍の士気は大陸の列国・異民族と比べて高い。
青年は孤児だった。現在軍務長官職にある将軍に養われたのち一五歳で士官学校へ入学する。今年二四歳で卒業し将軍の列に加わるのだ。将軍昇格は四〇歳過ぎが多く異例の若さといえた。
――――――――――――――――
以上の四段落を見ていきます。
まず最初の段落では「主体が明確でない」という理由で駄文の典型と言ってよいでしょう。とくに書き出しの一文で「主体」(「〜は」)が書かれていません。そして二文目にも「主体」が書かれていないのです。三文目でようやく出てきた「主体」が「赤マントは」です。
昭和の文豪でありノーベル文学賞受賞者でもある川端康成氏『雪国』の「書き出し」も「主体」がなかなか出てきません。
それでも一文が短くてテンポがよく、六文目には「娘は」の形で人物が出てきますから、読み手もまだなんとか様子見で読み進めることができます。
でも『暁の神話』の「書き出し」は小道具である「赤マントは」が当面の「主体」となっているのがわかるでしょう。
では読み手は「赤マント」に感情移入すればよいのでしょうか。違いますよね。
だから『暁の神話』は駄文なのです。もうお恥ずかしったらありゃしない。
四文目で「主体」が「青年は」になります。ここでようやく人物の登場です。「青年」という単語は二文目で出てくるので話の流れに乗っています。だからここで改行しないのです。
その後話の流れに乗って「青年」の見た目を書いているのでやはり改行はしません。
二段落目の一文目を見ると「〜中隊長、〜小隊長は」に「主体」が切り替わっていることがわかるでしょうか。
これは一段落目最後の「主体」である「青年は」と異なりますし、一段落目の中に出てこない単語なので話の流れにも乗っていません。
だからここで改行する必要があるのです。
ただこの展開はいただけなかったと今では思います。もっと「青年」について説明や描写を尽くすべきでした。
それなのに、そのあと話の流れに乗って昇進の説明をしてしまいます。「卒業に能う者は」「将軍は」の二つの「主体」が入っていますが、すべて二段落目の話の流れで出てきた単語を引用しているので一つの段落にまとめています。
三段落目の一文目は「士官学校に通った経歴が〜」と二段落目の話の流れで出てきた単語である「士官学校」を引用した文なのです。ですが、二文目に「後ろ盾を持たない弱小貴族は」が出てきます。「弱小貴族」という単語は二段落目では出てきていません。話の流れに乗れていないのです。
つまり「後ろ盾を持たない弱小貴族は」で改行すべきなのですが、この「主体」を導き出すために「士官学校に通った経歴が〜」の説明が欠かせません。
つまり三段落目は「士官学校に通った経歴が〜」で始めないとうまく段落の意味をまとめられないのです。続く「入れない者は」「レイティス王国軍の士気は」は三段落目の話の流れに乗っています。
しかし四段落目の一文目で「主体」となったのは「青年は」です。これも三段落目の流れにはありません。一段落目で出てきた「青年は」がここにきてようやく再度「主体」となります。続く「将軍昇格は」も話の流れに乗っているので分けないのです。
このように「主体が話の流れから逸れたら改行する」ことになります。
逆に言うと「主体が話の流れに乗っている間は改行しない」ともいえるでしょう。
この基本さえ忘れなければ、段落分けはそれほど難しいものではありません。
――――――――――――――――
ミゲルとガリウスは会話をしながら廊下を歩いている。
二人は控室に到着した。
――――――――――――――――
と段落を分けたとしても、「廊下を歩いて」「控室に到着した」わけですから、話の流れに乗っていますよね。こういうときは改行する必要がありません。
――――――――――――――――
ミゲルとガリウスは会話をしながら廊下を歩いている。二人は控室に到着した。
――――――――――――――――
これでじゅうぶんです。
段落を分断する
段落を分断することを考えてみましょう。
段落はある条件下において、改行して一行から数行空白を入れて分断します。段落を分断するのには理由が必要です。
たとえば拙著『暁の神話』の「書き出し」でどこかの段落を分断したとします。そうすると違和感を覚えるのではないでしょうか。
それは基本的に「時間」と「場所」と「視点」が同一だからです。つまりシーンが同じ間は段落を分断しません。
シーン単位で分断していくことになります。
「時間」の連続性があるときは段落を分断しない。
「場所」が連続しているのなら段落を分断しない。
「視点」が同一なら段落を分断しない。
これが段落を分ける基本になります。
たとえば、
――――――――――――――――
早朝にミゲルは深く考えることとなった。
いつのまにか夕刻になっていたことにミゲルはまったく気づかなかった。
――――――――――――――――
という段落を見ると「時間」の連続性が薄いですよね。「時間」が隔たっている印象を読み手に与えにくくなっています。こういうときは段落を分断して、
――――――――――――――――
早朝にミゲルは深く考えることとなった。
いつのまにか夕刻になっていたことにミゲルはまったく気づかなかった。
――――――――――――――――
と書いたほうがわかりやすくなるはずです。
「場所」についてはどうでしょうか。
――――――――――――――――
レイティス国王はミゲルを軍務長官に任命した。
クレイドは皇帝の前にかしずいている。
――――――――――――――――
という段落を見ると「場所」が連続していませんよね。レイティス国王の隣に皇帝が並んで座っているような印象を与えかねません。
こういうときも段落を分断して、
――――――――――――――――
レイティス国王はミゲルを軍務長官に任命した。
クレイドは皇帝の前にかしずいている。
――――――――――――――――
と書いたほうが「場所」の隔たりを読み手に認識させることができます。
残る「視点」ですが、「一人称視点」の場合は基本的に主人公に「視点」があります。つまり「一人称視点」では「視点」によって段落を分断する根拠にはなりません。
これが「一人称視点を併用した三人称視点」であった場合は、それぞれの主人公に「視点」が与えられるため、主人公が切り替わったタイミングで段落を分断することになります。
また「三人称視点」であれば「視点」を持つ人が場面場面で切り替わりますので、そのときに段落を分断すべきです。
「神の視点」のときは誰の心にも入れますし、どんなところにも行き放題になります。そうなると「視点」を基準として段落を分断するのが難しくなるのです。
田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は「神の視点」ではありますが、「一人称視点を併用した三人称視点」として読めなくもないので、未読の方は一度読まれることをオススメします。
拙著『暁の神話』第七章3に以下の部分があります。
――――――――――――――――
クレイドは苦い顔をしながら前方の王国軍を見据えている。平原で三倍の兵力を覆す策などクレイドにはない。しかし、目の前の王国軍には稀有な軍師がいる。ここへ全軍を率いてきたのも勝算があってのことだろう。それがどのようなものなのか、今のクレイドにはわからない。敵のわずかな変化から狙いを読み解かなければならなかった。
そのとき王国軍では、タイミングを計っていたカイから各部隊に伝令が飛んだ。「右翼を前進、左翼を後退させて斜線陣をとれ」というものである。
諸将はこれを正確に遂行した。これにより王国軍は帝国軍に対して斜に構えることとなる。
「なにをしようというのか」
この変化をクレイドは考えていなかった。これから大軍と衝突しようとしているのに、その目前で斜に構えては片端から切り崩されるのがオチだ。
思いもよらない変化を見せた王国軍が、さらに思いもよらない行動に出たのはまもなくだった。
――――――――――――――――
これは「神の視点」で書かれており難易度の高い問題です。
一段落目は帝国軍に「視点」があり「クレイド」を主人公にしています。
それが二段落目「王国軍では、〜カイから各部隊に伝令が飛んだ。」は王国軍に「視点」が持っていかれているのです。つまり「視点」が異なります。
三段落目も王国軍の動きです。
四段落目の「会話文」は分断して始まります。これは王国軍に持っていかれた「視点」を帝国軍側に再度切り替えたため分断しているのです。
そう考えると二段落目の扱いがおかしくなります。
「視点」を基準にするなら、
――――――――――――――――
クレイドは〜。〜。敵のわずかな変化から狙いを読み解かなければならなかった。
そのとき王国軍では、〜。〜というものである。
諸将はこれを正確に遂行した。〜斜に構えることとなる。
「なにをしようというのか」
――――――――――――――――
のように二段落目も分断していなければなりません。それが「視点」を基準にした段落の分断になるのです。
ただしそうなると二段落目・三段落目だけが文章の流れから浮いてしまいます。つまりここは本来、帝国軍側の「視点」のままで説明しなければならなかったのです。
「神の視点」で書いているからと安易に「視点」を切り替えたばかりに、読み手の頭の中で「視点」が錯綜する結果を引き起こしました。
「時間」「場所」「視点」によって段落は分断されます。
そして「時間」「場所」「視点」のうち二つ以上が異なる場合つまり
最後に
今回は「段落について」述べてみました。
段落内で改行すべきか、段落を分断すべきか、節を改めるべきか。
どのようなときに行なうのが適切なのかを理解していれば段落を明確に作ることができます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます