73.実践篇:箱書きの書き方
今回は中級篇で触れた「箱書き」を少し深掘りしました。
「ネタ帳」を「箱書き」の形にしておけばかなりの手間が省けますよ。
箱書きの書き方
プロット創りのうえでこれまでコラムNo.46「箱書きを書く」ようにと語ってきました。
ではそもそも「箱書き」とはなんぞや、と思いますよね。
簡単にいうと「映画でストーリーを創る際に用いる手法」です。
「映画と小説は違うだろう」とお思いになる方もいらっしゃると思いますが、小説を書くうえでもかなり有用な方法です。
そこでまず「あらすじ」を考えてから「箱書き」の具体的な書き方を挙げていきましょう。
「あらすじ」が「箱書き」へ与える影響が強いからです。
あらすじを創る
「あらすじを創る」というのは、これまで本コラムで何度も出てきた「主人公がどうなりたい」から始まり「主人公がどうなった」かを考えることです。
ここではまだ主人公の性別や年齢や職業などを決めなくていいです。
とりあえず「主人公がどうなりたい」のかを決めます。
マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』なら「主人公がドラゴンボールを集めて願い事を叶えてもらいたい」になります。
マンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』なら「主人公が新世界の神になりたい」になるでしょう。
連載中の長寿マンガであれば『週刊少年ジャンプ』の尾田栄一郎氏『ONE PIECE』なら「主人公が海賊王になりたい」ですし、『週刊少年マガジン』の森川ジョージ氏『はじめの一歩』なら「主人公が強いとはどういうことか知りたい」、『週刊少年サンデー』の青山剛昌氏『名探偵コナン』なら「主人公が世界一の名探偵になりたい」になります。
そして間にいくつかの「エピソード」を挟んで最終的に「主人公がどうなった」かです。
連載中のマンガは例にとれないので連載終了作品に絞ると『DRAGON BALL』なら「主人公が願いを叶えようとしたら横取りされてしまった」ですし、『DEATH NOTE』なら「主人公が犯罪者と特定されて死神に殺された」です。
1980年代の少年マンガのあらすじ
マンガの桂正和氏『ウイングマン』なら「主人公が本物のヒーローになりたい」で始まり「主人公は世界が認める本物のヒーローになった」と直接つながります。その後にひと波乱ありますが基本軸はこれでいいです。
マンガのまつもと泉氏『きまぐれオレンジ☆ロード』なら「主人公が特定の女性といい関係になりたい」で始まり「主人公が特定の女性といい関係になった」で終わります。これも直接つながっていますね。
1980年代の少年マンガは基本的に「主人公がどうなりたい」と「主人公がどうなった」が直結しているのが特徴です。
だからこそ少年マンガには子どもたちの夢が反映されて多くの支持を集めました。
現在の少年マンガの苦闘
しかし現在週刊少年マンガ誌は苦境に立たされています。
最盛期「六百五十万部」を誇っていた『週刊少年ジャンプ』が今では二百万部も発行されればいいほうなのです。
他の週刊少年マンガ誌も同様に苦しんでいます。なぜでしょうか。
十年を超えるような「長期連載が増えた」ことと無関係ではないでしょう。
『DRAGON BALL』のように主人公が交代して「あらすじ」の形を変えながらの長期連載であればまだよかったのです。
「主人公がどうなりたい」と「主人公がどうなった」が変化したわけですから。
でも今は「結末が見えない長期連載」が増えました。
ほぼ惰性だけで連載が続き、十年経ってもいっこうに結末を迎えない。
これで「連載を毎週追ってくださいね」などというのですから読者が離れていってなんら不思議はないのです。
「あの作品は気になっているけど、完結してからマンガ喫茶で読めばいいや」くらいのノリに読み手がなってしまいました。
その点で小畑健氏はとても潔いです。単行本でも今のところ『ヒカルの碁』の全二十三巻が最長で、連載期間は四年七か月ほど。「北斗杯編」がなければもっと早く終わらせられたのですが、アニメ化が決まってしまったため連載を終了できなくなったようです。
このあたりはのちに大場つぐみ氏&小畑健氏『バクマン。』で「アニメ化前に連載を終了させる」ことを書いた時点で察しがつきます。
ちなみに『ヒカルの碁』は「主人公が囲碁のタイトルを獲りたい」から始まって「主人公が強くなってタイトル戦に挑む」ような終わり方がベストではなかったでしょうか。
実作ではちょうど「対になる存在」である塔矢アキラと二年余りぶりの対局をするあたりですね。あそこできっちり終わっているのが理想形でした。
それがアニメ化が決まり「北斗杯編」が始まってしまった。
これで「主人公がどうなった」が当初のプランから変更を余儀なくされます。
韓国チーム主将が「本因坊秀策(藤原佐為)をバカにした」(ように通訳が誤訳した)ことで主人公の進藤ヒカルは韓国主将との直接対決を直談判し、戦ってみたら惜敗だった。そして「主人公が『佐為がいればこんなやつに負けなかった』と思った」という結末になってしまいました。
主人公の成長をテーマに据えながら、それ以外のものが結末に影響を与えたのです。どうにも締まらない結末だったといえます。
小畑健氏が『バクマン。』でこの際のことが影響を与えなかったとは思えませんよね。
章立てする
あらすじが出来あがったらそれを章立てしていきましょう。
人物も出てくるので次回投稿の「キャラシート」と同時進行してもかまいません。
章立ては「主人公がどうなりたい」から「主人公がどうなった」までの間に「エピソード」がどれだけ発生するかで決まります。
ここでいう「エピソード」とは「起承転結」で表せる大きな「出来事」です。
ひとつふたつの「エピソード」しか起こらないのであれば短編小説が向いています。とくに一つしかないのであればショートショートも検討してみてください。
たったひとつしか出来事が起こらない長編小説というものを想像してみてください。
きっと波乱もなくかなり冗漫で退屈なものが思い浮かぶのではないでしょうか。
それが三百枚も書かれていたら、私なら冒頭で焦れて読むのをやめます。
五つや六つも「エピソード」が起こるようなら間違いなく長編小説向けです。一回の投稿が五〜六千字で、週四日で「起承転結」が揃って一章を成すと考えれば二万〜二万四千字になります。原稿用紙五十〜六十枚の計算です。
小説賞の応募要項はたいてい原稿用紙三百枚前後なので六章立てか五章立てになります。つまり五つか六つの「エピソード」を起こせる計算です。
中間の三つから四つなら中編小説で、七つ以上なら超長編の連載小説ということになります。
「エピソード」をどれだけ見せるかで章立てが変わるのです。
だから私は「エピソード」に「章」という漢字を当てています。
短編が求められれば一つか二つに絞る。
長編が求められれば五つか六つに増やす。
この出し入れで小説が作られます。
超長編の連載小説も基本的には「エピソード」を追加していって流れていくのです。
箱書きを創る
「あらすじ」は多くの読み手の関心を惹けるものができた。
「エピソード」も考えついた。
そうなったらいよいよ「プロット」創りに着手します。
タイトルに書いてありますね。そう「箱書き」創りです。
「箱書き」は「
「
その「
時間:夏休みの午前六時
場所:主人公の自宅の自室
登場人物:主人公、主人公の母、主人公の女友達
出来事:夏休みで長寝がしたい主人公だが、主人公の母が起こしにくる。どうやら主人公を訪ねてきた人物がいるらしい。しかも女子生徒だという。女友達が遊びへ誘いに来たようだ。主人公は眠い頭をなんとか叩き起こして身繕いし、女友達の待つ玄関へと向かう。
会話:「あんた起きなよ」「夏休みなんだから寝ててもいいだろ」「あの子(女友達)が来たんだよ」「そういや、今日は用事がないからどこかに行こうかなんて話していたっけ」「機嫌を損ねないうちに顔を見せないと後が怖いからな」
以上のようなことが書いてあるのが「箱書き」です。
「箱書き」が書いてある紙を「箱」といいます。「箱」に書いたから「箱書き」なのです。
他にも「天候」を「箱書き」に記す作家もいます。
物語を語るうえで必要だと感じた項目はとりあえず「箱書き」に記すことです。
「箱書き」を「エピソード」に必要な「
書き終えたらそれをとりあえず時間順に並べ替えて、話の筋が通るように工夫するのです。
もしつながりが悪かったら間に新しい「箱書き」を作って入れてみます。
冗漫な展開になると思えば思い切って「箱書き」を列から外すのです。
入れたり外したりした結果、時間順を並べ替える必要が出てくるかもしれません。
そのときは何度でも並べ替えて入れたり外したりを繰り返しましょう。
そうやって満足のいく話の筋が出来あがったら、その「エピソード」の「あらすじ」は完成です。
この作業を「エピソード」の数だけやります。
なので初めは短編を書いて「箱書き」創りの経験を重ねましょう。
いきなり長編の「箱書き」を書くのはかなり難易度が高いのです。
とくに長編はさまざまな「伏線」を管理しながら書く必要があるため、手間が幾重にもかかります。
超長編の連載小説を目指していたとしても、初めは短編のつもりで書きましょう。それが読み手に受け入れられてから連載化するのも一手です。
受け入れられなければ、また別の短編を書けばいい。
連載を始めてからミスマッチに気づくより、短編でマッチした作品を連載に切り替えたほうがはるかに効率的だと思いませんか。
最後に
今回は「箱書きの書き方」について述べてみました。
「箱書き」を書くためにはまず「あらすじ」を創り、そこに「エピソード」を加えていき、その「エピソード」で必要になる「
「
話の筋が通るまで何度でも並べ替えたり入れたり外したりしてください。
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