24. :登場人物の設定

 ここまででいちおう人物キャラクター設定の仕方は書いてきたのですが、今回はそれ一本をネタにしました。

 登場人物にどのような設定が必要か。私は「ほとんど設定しない」ことが多いのです。

 性格は出来事イベントで見せますし、とくに必要のないけど登場する登場人物には名前すら付けません。


 そんな私の人物キャラクター設定の仕方をお見せいたします。





登場人物の設定


 登場人物には様々な設定があります。とりあえず主人公か「対になる存在」かにどういった関与をしてくるのか、これだけは明確にしておきましょう。





キャラの立ち位置

 まずキャラの立ち位置をしっかりと定めなければなりません。

 主人公側から見てその人物は、どんな役割をしているのでしょう。

 協力してくれますか、反発してきますか、害を及ぼそうとしてきますか、恩恵を与えにきてくれますか。

 協力するなら主人公の師匠なのか上司なのか同僚なのか部下なのか友人なのか知人なのか隣近所に住んでいるだけなのか。

 主人公と絡ませずに「対になる存在」を付け狙う立場の人も当然いるはずです。

 何も「対になる存在」に挑むのは主人公だけである必然性もないのですからね。


 キャラは関係性を設定するだけでも楽しいですよね。

 この楽しさのあまりついつい多くのキャラを小説に登場させようとしてしまいます。でも小説にムダは要りません。

 物語を形作るエピソードにそのキャラはどれだけかかわってくるのでしょうか。本当にこのキャラでなければ成しえない役回りなのかを確認しながらキャラを作っていかなければなりません。


 今作では要らないんだけど魅力的なキャラだから出さないともったいないなと思ったのなら、次作でそのキャラを出せる小説を書けばよいのです。

 「小説は一生に一本しか書いてはならない」などという制約はありません。





性別と年齢(年代)

 キャラの立ち位置が決まったら、次はキャラの性別と年齢(年代)を決めています。

 魔獣のように性別がわからないようなキャラを除いて、すべてのキャラに性別は必要です。

 恋愛小説で主人公の親友が同性なのか異性なのかで繰り広げられる物語にも当然変化が生じてしまいます。

 同性なら恋愛のライバルになるかもしれないし、異性なら恋愛対象に変わる可能性もあるでしょう。

 また主人公や他のキャラとの絡み方についても性別による対応の仕方も変わってきます。


 次いで年齢を決めていくのですが、すべてのキャラに年齢が必要なわけではありません。

 こちらも魔獣のように年齢が定かでないキャラもいます。

 それだけでなく、年齢を細かく何歳と決め打ちして設定したとして、その年齢が物語の展開に不可欠でしょうか。

 たとえば二十九歳の独身なら「早く結婚しないと独りで三十路になってしまう」という焦りのようなものが言動の端々に出てくることが考えられます。

 そういった展開や影響がさしてないキャラに特定の年齢を当てるのは時間のムダです。せいぜい年代止まりにしておきましょう。

 十代・二十代・三十代や幼年・少年・思春期・青年・中年・壮年・老年のような大雑把な括り方でまったく差し支えありません。

 その年代特有の感じ方・考え方を描けさえすれば細かな年齢なんて必要ないのです。





誕生日(星座)と血液型

 キャラを設定するときに、そのキャラの誕生日(星座)と血液型を決めていく書き手がいます。でもその情報が必ず文中に出てくるとは限りません。

 占いが得意なキャラが出てきて「あなたと彼の誕生日(星座)なら相性が良いわ」とか「B型同士は反りが合わないのよね」とか言う状況を作る必要が出てきます。


 作中で誕生日を迎える場面を書きたいから誕生日を決めておきたい。書き手がそう考えているのなら、ぜひ誕生日を設定しましょう。

 誕生日イベントはそこに至るまでと当日そしてその後の展開とが大きく変化していくたいせつなものです。


 だからといってすべてのキャラに誕生日を設定してすべての誕生日イベントを起こせば盛り上がりそう。そう考えるのは浅はかです。


 そんなに頻繁に誕生日イベントを出したら有り難みがなくなってしまいます。

 絶対に必要なキャラのみ誕生日イベントを起こすよう心がけてください。



 また作中で手術や輸血や献血をするなどといった場面を書きたいから血液型を決めておきたい。これもいいアイデアです。ぜひ血液型を設定してあげましょう。


 でもこれらのイベントが発生しないのに血液型を決めても使いみちがないですよね。

 せいぜい「血液型占い」によってA型はまめで、B型は自分本位で、O型はおおらかで、AB型は個性的でなどというキャラ傾向を利用してキャラを書き分けようと考える書き手もいますよね。

 それを否定するつもりはありません。ただ安直に過ぎるなとは思います。



 誕生日や星座、血液型にしてもそれでキャラの性格がすべて表せるものでもありません。

 誕生日は閏年を入れれば三百六十六日に掛けることのABO式血液型の四つで千四百六十四パターンの人物が出来あがります。

 日本人だけで総人口一億二千万人はいますから、同じ性格の人は日本人だけで八万千九百六十七人はいることになってしまいます。

 星座なら十二星座×血液型四種で四十八パターン。もはやまったく個性的ではありませんよね。


 あなたが創りたい小説に没個性のキャラは必要ですか。

 多くの書き手は個性的なキャラをこそ望んでいます。

 誕生日や星座や血液型に凝る必要なんてまったくありません。

 必要になったときにその場で改めて設定する。

 そのくらいの軽いノリのほうが書きやすいのです。


 なにより書かれていないことで読み手が「このキャラはB型気質だよな」とか「乙女座にありがちな性格だよな」とか想像してくれたほうが都合がよいくらい。

 読み手側が勝手にイメージを膨らませてくれるような小説は懐が深いのです。

 書き手は設定を読み手に押しつけるのではなく、読み手が「そうなんじゃないか」と想像できる余地を残すように小説を書きましょう。





性格を決める

 次は性格を決めます。主要なキャラはあるエピソードの主人公にしてその対処の仕方で性格を表現するようにしましょう。

 それ以外のキャラは傾向だけを設定しておくとよいのです。


 私はキャラの性格をあまりキツく決めていません。

 ある場面でどういう判断をする人物にしたいのか。それを優先しています。

 その積み重ねが、読み手から見たキャラの性格だと思うのです。


 「短気だ」「向こう見ずだ」と書かれても読み手は「だからなに」としか感想を持ちません。モブキャラならそれでいいのです。


 ただ名前を決めるほどのキャラであれば、出来事イベントが起こったときにどういう判断をするのかは見せておきたい。「短気だ」「向こう見ずだ」などの一言の断定的な性格設定ではどうしてもキャラが薄っぺらくなります。


 海外での評価がきわめて高い夏目漱石氏は『坊っちゃん』の中で「親譲りの無鉄砲でいつも損ばかりしている。」と性格をそのまま書いていますよね。

 だから私も性格を直接書きたいんだ。と考えるのは早計です。

 そもそも夏目漱石氏の時代は「言文一致体」の模索期であり、小説の書き方が今ほど洗練されていなかった。

 かの夏目漱石氏であろうとも、性格をどう読み手にわからせればよいのかを知りようもなかったのです。





名前を付ける

 キャラ設定をする際、まず名前を付けてから関係性を作る人と、関係性を作ってから名前を付ける人がいます。私としては後者がオススメです。


 せっかく名前を付けたキャラなのに、関係性を張り巡らした結果「その他大勢」に分類されてしまう可能性が出てきます。

 そうなると作品内で名前が出てこなくなってしまう。せっかく決めたというのにです。


 苦労して付けた「気に入った名前だから」という理由で話の展開を無視してそのキャラを出したら、物語の中に意味のない「ムダな展開」が生まれてしまいます。

 「シリーズが続けばのちのち活躍の場は出てくるので」というもっともらしい理由を作ったとしても、今執筆中の小説がヒットしなければシリーズとして続かないですよね。

 続けたければ執筆中の小説の完成度を高めるしかありません。


 完成度を高めたければ徹底的に「ムダを削る」ことです。ムダな展開、ムダな人物を登場させるスキなどあってはならない。

 そのくらいの心構えが必要です。



 名前を付けるとき、ある程度の規則性・法則性を持たせるとよいでしょう。

 規則性とはこちらの国はドイツ人名で、あちらの国はフランス人名で、のように地域分けをしっかりします。

 これでその国の世界観も暗に反映させられます。


 法則性とはアニメのサンライズ『新機動戦記ガンダムW』のように1・2・3・4・5・6……など数字で統一したり、マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』のように野菜の名前をもじったりなどです。

 近頃は「ネーミング辞典」「人名辞典」という便利な書籍が出版されていますので、規則性と法則性はそれを参考にするとよいでしょう。


 ファンタジー世界で名前も独特な響きにしたいので類を見ないネーミングをしたいと思う書き手も多いですよね。

 私もけっこう音遊びをしながら名前を付けています。


 日本人はファンタジー世界のネーミングでは「R・L」と「W・F」と濁音(鼻濁音を含む)を多用するクセがあるようです。つまり「ラ・リ・ル・レ・ロ、リャ・リィ・リュ・リェ・リョ」と「ワ・ウィ・ウ・ウェ・ウォ、ファ・フィ・フ・フェ・フォ」と「ガ行・ザ行・ダ行・バ行」半濁音も含めて「パ行」もです。


 これらを意図的に避けてネーミングする人もいますし、あえてそれを用いて馴染みやすいネーミングを考える人もいます。

 どちらも一長一短がありますので、どちらがよいとは言えません。



 ですが、書き手としてしっくりくる名前でなければ、そのキャラを書いていて楽しくありませんよね。

 「こんな名前じゃ感情移入して書けないよ」と。


 であれば書き手が納得できる名前でいいじゃないですか。

 あえて多用を避ける必要もありません。


 このキャラの性格と言動を体現する名前はこれしかないんだ。

 そういう信念を持って名前を付けたキャラは、書き手が感情移入しながら書き込めるので、読んだ人の心にもしっかりと残ります。


 まわり道をしたようですが「書き手としてこれしかないんだ」と思う名前を付けてあげましょう。

 それだけでキャラの躍動感は増すのです。





最後に

 今回は「登場人物の設定」について述べました。

 読み手が考えている以上に書き手は人物キャラクター設定に凝ろうとしています。もう病的なまでに。


 でもそれが活かされる場は用意されているでしょうか。

 活かされないものを設定しても時間のムダです。

 必要なところのみ設定しましょう。


 それ以外が必要な局面に出くわしたら、そのとき改めて設定すればよいのです。

 あなたもこれで気が楽になったのではないでしょうか。



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