第13話 幼馴染いろいろ。称号もいろいろ?
ポリポッドマンティスを撃退した後、僚たちはパティーユの護衛に加わり王城まで帰る事になった。
重傷を負った騎士は傷こそ癒えたものの、流した血液まで魔法で補う事はできない為自分で歩くまでは回復せず、生き残っていた三頭の馬に分乗した。
馬車は損傷はしていたが使える状態で、パティーユの他、今は有希、ほのか、恵梨香ら女性陣が乗車している。パティーユは、エマーシュにも一緒に乗るよう促したのだが、彼女は王女殿下と御一緒するなど恐れ多い、と御者席に座っていた。
馬車は詰めれば何とか六人乗る事もできたが、僚と直斗は歩く事にした。
その方が何かあった時、すぐに対応ができるから、と僚は理由をつけて断ったのだが、それは建前だった。
「「「どうぞ、隣に」」」
パティーユとほのかと有希。僚に向けて手招きをした三人の声が重なり、その直後彼女たちの笑顔が凍り付いた。
僚には何故か、彼女たちの間に見えない火花が見えた気がして、背中に冷たいものが伝うのを感じた。
そして、最も無難な選択をしたのだった。
「それにしても……ホントによかったんですか? ゆ……高科さんの事」
隣を並んで歩く直斗に、僚が気まずそうに尋ねた。
「え? 有希がどうかした?」
直人は僚の質問の意図が分からず首を傾げた。
「あ、あの、葉月さんは兎も角、高科さんまでその……呼び捨てで呼べって」
「あーその事か。本人が言ってるんだからいいんじゃね? って何で俺に?」
「なんでって……あれ? 付き合ってるんじゃないんですか?」
直斗はここで漸く、僚が大きな勘違いをしている事に気付いた。
「はははは、ないない。俺、他に彼女いるし。有希もほのかも恵梨香も、昔っからの腐れ縁っていうか、まぁただの幼馴染だし」
「そうなんですか?」
「何でも話せるし仲はいいけどさ。物心ついた時からずっと一緒だったからかなぁ、女の子として見れないんだよな」
直斗はそう言ってもう一度笑った。
「そんなものなんですか……」
僚は独り言の様に呟く。幼馴染といっても色々なんだな、ふと美亜の顔が思い浮かび僚はそう思った。
「ただ……」
直斗は、有希たちの乗る馬車に視線を向ける。
「この世界に召喚されたのが、一緒で良かったと思ってるよ。何となく安心するって言うか心強いんだよな、あの三人といるとさ……」
〝ああ、そういう事か〟
僚は召喚された日に彼らに感じた、微妙な違和感の正体を理解した。
「それで、あんまり動揺していなかったんですね。あの時……」
「それだけじゃないけどな。ほら、『大災厄を乗り切れば帰還のゲートが開いて、この世界の主神エターナエルの力で、元の場所、元の時間、元の姿で帰れる』って説明されたろ? それにさ、何となくこうなる事が分かってた気がするんだよなぁ。だから召喚の時、拒否しようと思えばできたのにそうしなかったんだよ」
〝拒否しようと思えば?〟
僚は召喚された時の事を思い返してみる。だが、あの光に包まれた時、そんな選択ができたようには思えなかった。
「それって、日向さんだけじゃなくて皆もですか?」
「ああ、有希たちも同じ様な事を言ってたから……。明日見もそうなんじゃないのか?」
「えっ?」
僚は言葉に詰まる。どうやら称号を持つ直人や有希たちと、称号のない僚では召喚のプロセスが微妙に違ったらしい。
「は、はい、そうですね」
だが僚は、あえてその事を口にしなかった。余計な気を遣わせるのも悪いと思ったからだ。
「……そういえば……」
暫く黙って下を向いていた直斗が、訝し気な顔で僚に尋ねた。
「ホントに怪我……大丈夫なのか? かなり酷かったってほのかも姫も言ってたけど」
治癒魔法は今回も含めて何度か目にしているが、いずれもその対象は僚だった。さっきのポリポッドマンティスの攻撃は、まるで暴走する車に跳ね飛ばされたかのように直斗の目には映った。身体強化されているとはいえ、かなりの衝撃と痛みがあったはずだ。
「そうですね、肋骨が何本かと鎖骨も折れてたみたいです。でも、脚が無事で良かったですね」
僚は笑いながら、まるで他人事のように言った。
「おいおい、折れてたみたいって……よくそんな状態であれだけ動けたな……」
直斗が感心半分呆れ半分といった様子で肩を竦める。
「日向さんのバーニングのお陰ですよ。あれで能力値が上がりましたから」
「上がったって言っても、ほんの少しじゃないか? 2倍にもなってなかったし、安定もしてなかった……」
更に言えば、ステータス値を上げるバーニングで能力は強化されても、怪我を治したり痛みを緩和したりはできない。
「確かに、精々1.5倍ってところでした。本来なら5倍以上に引き上げるんですよね?」
「ああ……。恵梨香のバスターも、どれ位防御力を下げられたのか分からないし、ほのかのバリアはあっという間に崩壊した……」
顎に手を添えて、直斗は眉根を寄せた。
「固有スキルが十分に発揮されてないか、制限されてるって事ですよね」
固有スキルのない僚でも、何らかの問題があるという事は理解できた。
「……それに、未だにステータス表示ができないのも、原因は同じかもしれませんね……」
馬車が森を抜ける頃、日は大きく傾いていた。
ポリポッドマンティスとの闘いから明けて翌日。
賢者の石板により、何度目かのステータスの確認が行われた。
「……これって……」
直斗は前回の確認時にはなかった、ステータスの異常を示す項目に眉根を寄せる。
“ 日向 直斗 ”
称号 勇者 世界に勇気を与える者 魔法剣士
年齢 18歳
魔力 1600(1725) *制限
魔力量 4820(5008) *制限
固有スキル バーニング:味方の全ステータスを一定時間5~10倍に上げる
スキル
魔法:火、水、風、土、雷、無、空間、光
属性攻撃:火、水、風、雷、光
剣術、槍術、聖剣技
身体能力補正
アビリティ:魔力、覇力、理力
*状態異常 各ステータスが制限 固有スキルに大幅な制限
(原因排除後に回復)
“ 高科 有希 ”
称号 従士 勇者と共に在る者 闘士
年齢 18歳
魔力 915(1012) *制限
魔力量 3050(3160) *制限
固有スキル バースト:敵一体の魔法効果を無効化
スキル
属性攻撃:火、風、土
拳闘術、棒術、鏢術
身体能力補正
アビリティ: 魔力、覇力
*状態異常 各ステータスが制限 固有スキルに大幅な制限
(原因排除後に回復)
“ 穂積 恵梨香 “
称号 従士 勇者と共に在る者 弓術士
年齢 17歳
魔力 1110(1207) *制限
魔力量 3070(3150) *制限
固有スキル バスター : 敵一体の攻撃力、防御力を下げる
スキル
属性攻撃 : 風、水、火
弓術、短剣術
アビリティ:魔力、覇力
*状態異常 各ステータスが制限 固有スキルに大幅な制限
(原因排除後に回復)
“ 葉月 ほのか “
称号 従士 勇者と共に在る者 魔導士
年齢 18歳
魔力 1900(2070) *制限
魔力量 5930(6111) *制限
固有スキル バリア 任意の味方に一定時間、物理・魔法による攻撃を完全に無効化する障壁を展開する
スキル
魔法:火、水、風、土、雷、無、空間
身体能力補正
アビリティ:魔力、理力
*状態異常 各ステータスが制限 固有スキルに大幅な制限
(原因排除後に回復)
“ 明日見 僚”
称号 ???? 想定外の異世界召喚者 異世界の旅人
年齢 17歳
魔力 0
魔力量 0
固有スキル ―――
スキル
身体能力補正
アビリティ:―――
ギフト:生々流転 覚醒
僚を除く勇者及び従士の称号を持つ四人が、能力を制限される状態異常に侵されていた。
「……そんな、一体何故……」
パティーユは口元に手を添え、蒼白な顔で呟いた。
召喚の儀を執り行う前、準備のために王国に残る数多くの文献を読破した。その内容は儀式の詳細な方法だけでなく、歴代勇者たちの戦いの様子を記したものや、勇者本人たちの手記など多岐に渡った。
だが、能力を制限する状態異常に四人全員が侵されるなど、どの文献にも記されてはいなかったのだ。
「……それで、日向さんのバーニングも、ほのかのバリアも安定しなかったんですね……」
僚は腕を組み、小さく何度も頷いた。四人全員に同じ項目が現れているという事は、原因は一つだけと考えていいだろう。
「排除するべき原因を突き止めればいいって事ですよね」
パティーユは、僚の言葉に厳しい表情を浮かべ顔を上げた。
「そうですね。可及的速やかに原因を調べ対処致します……」
そして、四人の顔をゆっくりと見渡した後、表情を緩めて微笑んだ。
「ですから、安心して待っていて下さい」
心を照らす様なパティーユの笑顔に直斗たちは無言で頷く。
その様子を何処か冷静に見つめていた僚は、その場の空気を読んで決して口には出さなかったが、
「……異世界の旅人ってなんだよ……」
自分のステータスに心の中でツッコミを入れたのだった。
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