第11話 撃破!
「くっ、これじゃジリ貧じゃないか……」
直斗はポリポッドマンティスの攻撃を躱しながら、何とかその本体に剣技を浴びせようとするが近づく事さえできない。
「ぐあぁっ」
騎士の一人が吹き飛ぶ。剣を盾にし辛うじて急所は外したものの、激しく地面に叩きつけられそのまま意識を失う。
気が付けば立っているのは直斗と有希だけになっていた。
騎士達が倒れた事で、ポリポッドマンティスの攻撃が二人に集中し、周りに留意する余裕すらなかった。
そこから少し距離を置いた場所。
僚は倒れた騎士の持っていた、放置されたままの剣を手に取る。ミスリル製だが魔力による付与のない普通の剣だ。
僚は一歩ずつポリポッドマンティスの側面へと近づいて行く。
今の距離はおよそ20m。
10m、9……8……7……6……。まだポリポッドマンティスからの攻撃はない。ここからはゆっくりと。
5……4……3。唸りを上げ2本の前脚が迫る。僚は素早く後方へ飛びそれを躱す。
追撃はない。憶測は確信に変わった。
「日向さん! 高科さん! 合図したら一旦下がって!!」
直斗と有希は同意を示し頷いた。
「パティ!」
僚が叫ぶ。魔法が届くギリギリの距離まで下がっていたパティーユが、水系の魔法を発動する。
「降り注げ水流、我が力の連動に跪け。ウォーターバレット!」
十数発の水の弾丸がポリポッドマンティスに降り注ぐ。
魔法の攻撃を受けたポリポッドマンティスが、その相手を探すように動きパティーユの方を向く。
「今です! 二人ともこっちへ!」
二人が動きだすのを合図に、今度は別の方向からほのかの火系魔法が飛ぶ。
「……フレアバレット!」
間をおかず、恵梨香が固有スキルを発動。
「バスター!!」
敵の攻撃力、防御力を低下させる。
三人は僚の指示を受けて三角形の形に位置取り、回転するように魔力による攻撃を加えてゆく。ポリポッドマンティスの意識を、誰か一人に集中させない為の作戦だった。
「日向さん、あいつの外骨格、ぶち抜けますか?」
ポリポッドマンティスの攻撃範囲から距離を取り、近づいた直斗に僚が尋ねる。
「ああ、けど溜めの時間が欲しい。ほんの数秒でいいんだ」
「分かりました、俺がその時間を作ります。それまで高科さんと一緒に化け物の注意を引き付けて下さい。それと、バーニングは使えますか?」
味方の全ステータスを、一定時間5倍以上に引き上げる直斗の固有スキル、まともに発動すれば大幅な戦力アップになるのだが……。
「使えるけど、ほのかのバリアがあの状態じゃあ、あんまり当てにしない方がいいぞ」
そう、絶対のはずの固有スキルが何故か不安定なのだ。
「構いません。お願いします」
僚はそれだけ言うとポリポッドマンティスの側面へ向かい走り出す。パティーユたちの時間稼ぎもそろそろ限界だった。
直斗と有希は正面に向け駆けだす。
「行くぞ! バーニング!!」
僚を含めポリポッドマンティスに対峙する全員を、赤い光が包む。
「……やっぱり、安定してない。皆気を付けろ!」
直斗が警告の声を上げた。
僚は一度、ポリポッドマンティスから離れる方向に走る。バーニングの効果を確認するためだ。
「確かに、上がってるけど……」
ステータスを表示する事ができない現状では、はっきりとした数値は分からないが、今試した感覚だと精々1.5倍程度だろうか。
だが、今はそれで充分だ。
僚が左手で合図すると同時に、パティーユたちからの魔法攻撃が止む。
続いて直斗と有希がポリポッドマンティスに正面から挑む。
「ふぅーっ」
僚は距離を置いた場所で腰を落とし、大きく一度深呼吸をした。
剣を逆手に持ち、地面に両手を添える。
足はいつもの位置へ。
そして……。
全身の力を一気に爆発させる。踏み込んだ足元が抉れ、土煙が上がり一瞬でトップスピードに乗る。
狙いはただ一点。ポリポッドマンティスがその上体を支える為の中脚、その付け根の関節。
距離を詰める。10m……5、4、3。先程確認したポリポッドマンティスの間合いに入る。前脚二本が動く。
だが、トップスピードのまま突っ込んだ僚の方が早い。
「うおぉぉぉ!!」
僚はポリポッドマンティスの中脚の付け根、関節の隙間に剣を深々と突き立てた。
グギャアアア!!
ポリポッドマンティスが悲痛ともとれる叫び声を上げる。
僚はそのまま関節に沿って剣を抉る。ポリポッドマンティスの体液が飛び散り僚の全身に降りかかる。
そして、僚が剣を引き抜いた時。
ポリポッドマンティスの中脚が、大木が折れるような音と共に身体から切り離される。
中脚の片方を失ったポリポッドマンティスは、上体を支える事ができなくなりその巨体を地面に横たえる。
焦った様子でただ無暗矢鱈と前脚を振り回す、ポリポッドマンティスの残ったもう片方の中脚も同じように抉り取る。
完全に地に伏せるポリポッドマンティス。
「日向さん!」
「任せろ!!」
直斗はポリポッドマンティスの背に飛び乗り剣を頭上に高々と掲げた。
眩い光の粒子が直斗の剣に集束する。
「くらえ!
振り下ろされた剣が光の軌跡を描き、ポリポッドマンティスの頭部を一気に切断する。
わらわらと動いていた前脚が、転がった頭部の目の光が失われると同時に地に落ち、二度と動く事はなかった。
「……何とか、勝てたか……」
直斗は横たわるポリポッドマンティスから飛び降り、誰とは無しに言った。
「僚! 大丈夫ですかっ」
ポリポッドマンティスの脇で、苦しそうに蹲る僚の傍にパティーユが駆け寄る。
「大丈……夫、で……す」
僚は折れた肋骨の辺りを押えて笑おうとしたが、激しい痛みで言葉に詰まる。ふと右肩に目をやると、そこにも血が滲んでいた。ほのかを庇って前脚に体当たりした時のものだろう。それ以外にも背中や膝、体中に痛みがある。
「その怪我でよくあれだけ動けたものです」
傍らに腰を落としたパティーユが、感心したようにもとれる声で言った。
「ありがとう」
僚は額に脂汗を浮かべながらも微笑んで見せた。
「褒めてませんっ、私は怒っているのです」
パティーユは眉根を寄せて僚を睨むが、その目には今にも溢れそうなほどの涙が浮かんでいた。
「もう拒否は認めませんっ、じっとしていて下さい!」
そう言って僚の正面に膝をつき、パティーユは治癒の呪文を詠唱する。
「美麗なる清き祝福の息吹よ、聖なる輝きを纏い復活の奇跡とならん……キュア!」
ヒールの上位魔法キュア。
全身にあった痛みが引いてゆく。
「……ありがとう、楽になったよ。え?」
傷は治ったものの、パティーユはまだ僚をじっと睨んでいる。
「あの、パティ? 何で……怒ってるんですか……」
僚にそう言われてパティーユは、ふっと表情を緩めた。
「……もう、怒っていませんよ……」
パティーユは一旦下を向き、ゆっくりと顔を上げて微笑んだ。
「あの時……もう駄目だと思いました……僚、ありがとう、あなたのお陰よ」
その笑顔は、春の日差しの中に咲き乱れる菜の花の様で、僚は身じろぎもせずにパティーユを見つめた。
「私……お礼、言いそびれちゃったかなぁ」
ほのかが頬に指を当て、首を傾げる。
「なんか、明日見君、暴走しちゃってない?」
その状況を眺め、自分も僚に助けられた事がある有希が、腕を組み眉をひそめてぽつりと呟いた。
「まあ、陸上部ですからね」
ボケたつもりなのか、ツッコんだつもりなのか、恵梨香が口元に手を添えころころと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます