第5話 スキル『絶対服従(レベル3)』
「おまたせしました~。サワムラ牧場のロングホーン Sランクサーロインのビステッカです!」
「おー、おいしそう」
ミアが私の元へ料理を運んでくる。
台車の上で、鉄板がジュージューと音を立て、煙が上がっている。
カットされた肉の断面はレアで赤い。
鍋つかみを使って、テーブルの上にビステッカを置こうとした。
その時、店の前で怒鳴り声がした。
「ぶっ殺してやる!」
「本気で切りかかってきやがったな!許さん」
―――何だろう?
ふと、窓の方に目線をやる。
それにつられてミアも同じ方向を見る。
2人の男が言い争いをしているようだ。
大剣を持ち、赤い鎧を身にまとった男。
緑色の宝玉が付いた杖を持ち、緑色のローブを着た男。
赤い男が、緑の男に切りかかった。
「死ね!」
剣を振るうと、空気の刃が襲い掛かる。
「消えろ!」
緑の男は杖を振るう。
高熱の球体が発生し、高速で飛んでいく。
空気の刃と高熱の球体がぶつかり、大爆発が起きた。
―――ガシャン!パリン!
通りに面した建物の窓ガラスがいっせい割れる。
いたるところで悲鳴が上がる。
ミアは驚いてお皿を落とす。
ビステッカが地面に落ちる。
「ひぁあ!何、戦争でも始まったの?」
ミアは机の下に潜り込んだ。
他の店員も店の客も同様に身を隠す。
私は外へ飛び出した。
食事の邪魔をされた。
これは万死に値する。
「ケンカだ!スタンとシンがやりあってるらしい」
「Aランクの冒険者が街中でケンカ?信じられない」
レベルが高い冒険者は有名人である。
私は知らないが二人はそれなりに名が知れているっぽい。
「クソ魔術師が!こんな街中でなんて魔法ぶっ放すんだバカ!!」
「お前こそ!真空切りを放ってきただろう!」
相手のことを非難しながら、次の一撃を出そうとしている両者。
赤い男が刀を構える。
緑の男が杖を振りかざす。
そして
二人の間に私が立つ。
「何だ、お嬢ちゃん!邪魔するとケガじゃすまねえぜ」
「そうだ、早く退け」
「……あんたら」
「……あん?」
「何だ?」
「私のビステッカに謝れ!!」
「うあっ……」
「なッ………」
雷に打たれたように二人の体が痙攣し、ひざまずく。
そして「く」の字に折れ曲がり、頭を地面に擦り付ける。
否、頭を地面に叩きつける。
「か……体が」
「う……動かない」
二人はお互いに土下座をしたまま固まっている。
―――……はぁ
ため息をついて、とりあえず店の中に戻る。
「え?キンちゃんが止めたの?二人はどうしたの?」
「さぁ、お腹でも痛くなったんじゃない?」
適当なことを言って、椅子に座る。
「代わりのビステッカもらえる?」
「……ちょっと待ってね」
ミアがトテトテと厨房の方へ向かった。
少しして戻ってくると
「ごめん、さっきのが最後だったみたい……」
―ー―ゴンッ!
私はショックのあまり、テーブルに頭を打ち付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます