第5話 呪い
ある晴れた日のこと、サーラは車に乗り込み、隣街へ向かおうとしていました。なぜなら今日は、大好きな脚本家が参加した舞台が上演される日だったからです。
サーラはこれから行われる新作の舞台に想いを馳せつつ、車の外に広がる景色を眺めていました。町から離れ、道なりに進んでいけば街までは簡単にたどり着けます。
サーラはその日もいつも通り同じ道を通って車が進んでいくと考えていました。しかしサーラの予想とは裏腹に、車は街のある方角ではなく、西の森へと向かって進んで行きます。サーラは不思議に思い、使用人に向かってこう尋ねました。
「ジョンさん、わたし隣街に行きたいって伝えましたよね……?」
すると使用人はこちらの道を通ったほうが早く街に着くと言い、そのまま森に向かって車を進ませました。
サーラは使用人の行動に違和感を覚えつつも、古くから使用人として仕えていた人物であるため、彼を信頼し判断を任せることにしました。
車が西の森に入ってからしばらくすると、突然車の動きが止まります。
サーラは不安に思い、何が起きたのか使用人に尋ねようとしたのですが、なぜか使用人は無言で車を降りると、サーラに向かって車から降りるよう指示してきました。
サーラは使用人の行動に疑問を抱きつつも、指示通り車から降ります。すると突然口と鼻を布のようなもので塞がれ、抵抗するも虚しくそのまま強い睡魔に襲われ意識を失ってしまいました。
サーラが意識を失ってからどのくらい時間が経った頃でしょうか、突然背中と後頭部に強い衝撃を感じたため、サーラは目が覚めました。
どうやら使用人に眠らされた後、縄で縛られどこかへ連れ去られてしまったようです。
サーラが縄をほどこうと地面の上でもがいていると、使用人の男がサーラの体に馬乗りしてきました。
身の危険を感じたサーラは思わず叫びますが、男は意にも介さずに何か先の尖った細い棒のようなものをサーラの耳に無理やり詰めてきました。
すると棒の先端に付けられた鋭い針がサーラの鼓膜を破ります。
あまりの激痛にサーラは思わず悲鳴を上げようとしましたが、すぐに口をテープで塞がれてしまったため、上手く声を出すことができません。
さらに手足をロープで縛られているため、まともに動くこともできないことに気付くと、サーラは今まで味わったことがないほどの恐怖に襲われました。
サーラは体をよじり必死で抵抗しますが、非力な少女の力では馬乗りになった男をどかすことなどできるわけもありません。
やがて自分の力だけでは逃げ出せないことに気付いたサーラは、静かに涙を流し抵抗を止めてしまいました。
サーラが大人しくなると、男はポケットから糸のようなものを取り出し、それをサーラのまぶたに向かって投げつけてきました。
サーラが反射的に目をつぶると、次の瞬間、なぜか瞼に激痛が走ります。例えるならば、糸と針で瞼を縫われているかのような鋭い痛みです。
しばらくして痛みが無くなると、サーラは目を開くことが出来ない状態になっていました。
なぜ自分がこんなにも酷い目に合っているのか、サーラが混乱しながらも考えていると、今度は鼻にまでテープを貼られてしまい、呼吸すらできなくなってしまいました。
酸素が吸えないせいで苦しくなったサーラは、自分の行動が無駄なことだと理解しつつも、頭をがむしゃらに振り続け言葉にならない声で助けを求めます。
あともう少しで意識が無くなってしまう……そんな状態に陥ったその瞬間、なぜか鼻につけられたテープが外されました。そしてそれと同時に、先ほどまで馬乗りしていた男もサーラの体から離れていきます。
サーラは誰かが助けに来てくれたのかもしれないと感じたため、言葉にならないと分かりながらも助けてと叫びました。しかし、どれだけ待とうとも、サーラの縄がほどかれることはありません。
サーラは誰かが助けに来たのではなく、どうやら襲ってきた男が自主的にテープを剥がし立ち去って行ったのだと気付きました。男の行動には不可解な点が多々ありますが、とりあえず命だけは助かったようです。
サーラは一秒でも早く助けが来ることを祈りながら、地面に横たわり続けました。
音も聞こえず、声も出せない、周囲の景色を見ることもできない時間は、苦手な教科を勉強していた時よりも長く感じます。
サーラが空腹に耐えつつ冷たい地面に横たわっていると、突然体になにかが触れた感触がしました。誰かが助けに来てくれたのかもしれない、そう思ったサーラは不明瞭な発音で助けてと叫びました。
次の瞬間、サーラの顔に激痛が走ります。サーラはすぐに自分の体に触れたものが人間ではなく、毛の生えた他の生物であることに気付きました。サーラは必死で顔を逸らそうとしましたが、抵抗も虚しくそのまま肉を噛み千切られてしまいます。
そのあまりの痛みに絶叫しながらも、体を拘束されているためろくに抵抗もできないまま、サーラは獣らしき存在に身体を貪られ続けました。
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