第7話 獣神テックス登場!
地下通路を歩き、正面の大きな扉を目指す三人。
通路はまるでできたばかりのように綺麗で、現代的な作りをしていた。
大きな扉の前に辿り着くと、扉が自動で左右に開く。
中にはとても大きな部屋が広がっていた。最新の情報端末が並ぶその部屋では、様々な種族を含めた二十人ほどの人員がせわしなく働いていた。
正面には大きく映し出された立体映像。その近くにはあちこちに同様の立体映像が映っている。各地の監視や偵察を行っているもののようだ。
「わあ~! す、すごい……!」
驚くルルにジークは説明する。
「ここは中央指令本部だ。昨日のルル救出作戦みたいな作戦があるときは、状況監視やオペレーションをすべてここで行うんだ。
あ、そうそう。この組織は何かっていう説明は指令本部長から説明してもらおっか。」
そう言って部屋の中央後部にある少し高く見晴らしの良い席まで歩く三人。歩いている最中、たくさんの視線を感じ落ち着かない気持ちになるルル。
「本部長。ルルを連れてきました。」
そこには身長一メートルくらい、三頭身の黄色く丸々とした可愛い生き物がいた。この時代ではプディと呼ばれる種族だ。ここの制服なのだろう服装と帽子がビシッと決まっており、ちょび髭を生やしている。
「はじめまして。ここの指令本部長のモコスだ。よろしく。」
そう言ってルルと握手するモコス本部長。可愛い見た目と相反してダンディーな声にギャップを感じるルル。
「は、はじめまして! ルルと申します。」
ニッコリ笑うモコス本部長。
「君がルル君だね。ようこそ来てくれた。ここは我々“クロノス”という組織の拠点だ。クロノスはバドーからこの星の平和を守るために作られた組織なんだ。
アザールが長い時間を掛け、選りすぐりの精鋭を集めて組織した特殊部隊だ。資金も彼の懐から出してもらっている。彼は今や世界有数の資産家だからな。」
アザールが意外にとんでもない人物なんだということに少し驚くルル。
モコス本部長は指令室全体を見渡しながら続ける。
「ここでは全部で五十人ほどの人々が働いている。皆とても優秀な者ばかりだ。この中央指令室の他にもたくさん部屋があって、かなり広い拠点となっている。あとで案内してもらうと良い。
拠点の施設は自由に使ってもらって構わない。お勧めは食堂のプリンだな。あれは私も監修に入らせてもらった至高の逸品だ。私はプリンが大好きでね、そのきっかけとなったのは―― 」
また始まった、と小さいため息を着きルルに話しかけるジーク。
「ま、まあとにかく、ここにいれば絶対安全だ。しばらくはバドーやその手先が君を狙うだろう。君の家族も、もう安全とは言えない。
そこで一つ提案があるんだ。付いてきてくれ。」
そう言ってモコス本部長との話も切り上げ部屋を出る三人。途中レイはトレーニングに行くと言って別れていった。
ジークとルルは小さな部屋に辿り着く。中にはここに来るときにも使った短距離ワープ装置がいくつか並んでいる。その中の一つからワープする二人。
着いたのはマンションの一室なのか何の変哲もない部屋の中だった。部屋はかなり広くて新築のようにきれいで豪華だった。
「ここはさっきお昼を食べた洋食店の真上にある部屋なんだ。ここなら何かあってもすぐクロノスの拠点まで来られるし俺たちもすぐ助けに行ける。
できればここにルルの家族と一緒に引っ越して欲しいんだけど…… どうかな? もちろん普通に外出したりして暮らしてもらって構わない。さっきの指令室で君と君の家族の安全は常に見張っているからね。」
「い、いいんですか? そこまでして頂いて……」
「君を巻き込んでしまったのは俺たちの責任でもある。せめて、これくらいはさせて欲しいんだ。」
「ジークさん…… 本当にありがとうございます!
私、母と二人暮らしなんですが、説得してここに引っ越ししたいと思います。」
「ありがとう。ルル。」
「ここならいつでも、あの美味しいオムライスが食べられそうですね♪」
「はは。君が来てくれたらお店のマスターもきっと喜ぶよ。」
新しい生活が始まる予感に、少しだけ嬉しそうなルル。
「さて、ルル。お母さんを呼ぶ前に、最後にもう一か所だけ付き合ってくれるかな?」
再び地下拠点に戻ってきた二人は、中央指令室よりもさらに大きな扉の前に立っていた。
重々しい扉がゆっくりと上にせり上がっていく。中にいたのは、ティラノサウルスのような骨格と金属の装甲で覆われた巨大な獣神だった。ジークたちが持つ唯一の獣神だ。
ルルが獣神を見るのは初めてだった。
「こ、これが…… 獣神……!?」
部屋には数名のエンジニアらしき隊員たちとアザールがいた。
アザールはジークとルルのもとに歩み寄る。
「やあ、はじめまして。ルル。私がアザールじゃ。」
挨拶を済ませる二人。
「ジークから聞いていると思うが、君は女神の魂の継承者。つまり獣神を制御し力を引き出すことができる唯一の人間だ。
これから君には、後ろにいるこの獣神に手を触れてもらいたい。そうすれば、きっと獣神の内なる声が聴こえてくるだろう。その声に耳を傾けてもらいたいのじゃ。」
不安そうに隣にいるジークを見るルル。
ジークはルルの目を見て頷いた。
「わ、わかりました! 触ればいいんですね……」
エンジニアの案内に従い作業用のホバーリフトに乗ったルルは、獣神の顔の目の前に立つ。
獣神は静かに佇んでいる。
恐る恐る手を伸ばし、獣神に触れるルル。
するとルルの頭の中で、不思議な声が響いた。
「女神の魂を受け継ぐ者よ よく来てくれた
我が名はテックス
今日からお前の僕となり、魔獣と戦う力となろう」
獣神が眩い光に包まれていく。
そのあまりの光の眩しさに目を覆うルル。
光が静まり、目を開けるとそこにあの巨体の姿はなかった。
「え!? き、消えちゃった……!?」
「バカ。オレはここにいるぞ!」
その聞きなれない声はルルの足元から聞こえてきた。
ゆっくりと足元に目を向けるとそこには、小型犬サイズの金属の塊が尻尾を振りながらこちらを見ていた。
「きゃあっ!」
思わず悲鳴をあげ、バランスを崩すルル。
「おいおい! あ、危ないって! おとなしくしろ!」
激しくホバーリフトを揺らしながら、一人と一匹はゆっくり降りてくる。
「やれやれ。おいジーク! こんなドジっ子娘で本当に大丈夫か!?」
すっかり小さく可愛くなってしまった獣神は、ジークに問いかける。ジークは、ははっと笑って返した。
状況に理解が追い付かないルル。
「あ、あなたが…… さっきまでここにいた獣神さんなんですか!? た、確かテックスさんという……」
「そうだ。オレがテックスだ! 文句あるか?」
「い、いえ……」
つい先ほどまであんなに神々しく威厳のあった獣神が、ペットのように小さくなってしまい戸惑うルル。
そしてその見た目は、動物好きのルルの心を大きくくすぐっていた。
――か、かわいいっ……!! たまに大きな尻尾をフリフリするところがまた……!
段々興奮し、キラキラと目を輝かせるルル。
「あ、あの……! どうしてこんな姿になってしまったんですか!?」
「オレはこれでも獣の神だからな。大きさくらい自由に変えられる。もっとも、女神の力もないとできないことだけどな。
オレはお前の僕になったんだ。一緒に生活するにはこれくらいのサイズじゃないと困るだろ?」
「い、一緒に生活!?」
興奮気味に返すルルに、ジークが答える。
「ああ。テックスにはルルの護衛になってもらおうと思ってるんだ。いざというときは大きくなってルルを守ってくれるぞ!」
「これ以上、ルルの護衛に適任なのは他にいまい。あのバドーでも、獣神がいれば迂闊に手出しはできないじゃろうな。はっはっは!」
「まあそういうことだ。お前の名前はルルっていうのか。これからよろしくな!ルル!」
礼儀正しく挨拶するこの愛くるしい物体に、ついに興奮を抑えられなくなったルルはテックスを思いっきり抱きしめる。
「はい! よろしくお願いします~っ! えへへ♪」
「お、おい! やめろ! オレは獣神だぞ!? 舐めてんのかコノヤロおおー!」
こうして一人と一匹はともに暮らすことになった。
一方その頃、中央指令本部。
モコス本部長は各地の監視と調査を行っていた隊員から報告を受ける。
「ああ。ついに見つかったか。恐らく間違いないだろう…… その者が、残る三人の仲間のうちの一人……
“ヴァン”だ。」
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