元戦隊ヒーローが特殊部隊結成!~一万年後の世界で再び敵を討て~

カッキー

第1話 囚われの少女を救え!



「どうして…… こんなことに……」


 今日十九歳になる少女は、高層ビルの一室で手足を縛られ椅子に座らされていた。


 窓からは眼下にミニチュアのように小さくなった街並みが見える。


 まるで社長室かのように広く豪華なこの部屋にいるのは、彼女と、彼女を見張るアンドロイド兵十体だ。


 アンドロイド兵は銃を持ち、各々の持ち場で待機している。


 退屈なのか、職場への不満を漏らすような雑談をしていた。






 彼女は涙を堪えながら目をつむり必死に記憶をたどる。


 どうしてこんな事になってしまったのか――









 思い出すことができる最後の記憶は、大学からの帰り道だ。


 彼女の名前はルル。


 今日は自身の誕生日を唯一の家族である母親と過ごすため真っ直ぐ家路についていた。


 公園わきの道路を小走りに急いでいると、大きな叫び声が彼女の耳に飛び込んできた。


「誰かその子を捕まえてぇーっ!!」


 バッと振り返ると、闘牛のように興奮しリードを引きずりながら猛スピードで走り回る大型犬と、倒れこんで叫んでいるおばさんの姿が見えた。


 しかも犬は今流行りの超大型犬で、体高は三メートルほどもある。


 こんなに巨大にも関わらず臆病で優しい性格がギャップ萌えとなり人気を呼んでいる犬種だ。


 しかしいくら穏やかな性格とはいえこの巨体だ。ひとたび暴れてしまえば、もう大の大人でも手が付けられない。



「たいへん……!」



 周りにいた老若男女が逃げ出す中、ルルは大型犬のもとに駆け寄っていく。


 近付いてくるルルに気が付いた大型犬は、これ以上近付けまいと、その体躯に見合った鬼気迫る迫力でルルに向かって吠えた。


 しかしルルは動じなかった。


 落ち着いた、優しい笑顔で大型犬に語りかける。



「大丈夫だよ。怖くないよ。」



 すると大型犬は時が止まったように突然吠えるのをやめ、茫然と立ち尽くしルルを見つめた。


 ルルはそのまま近付き、ゆっくりと手を伸ばし大型犬の前足のあたりを優しく撫でた。


 大型犬はルルの手に反応するように心なしか穏やかな表情を取り戻し、くーんくーんと甘えた声を出し始める。





 その様子を見ていた男が一人つぶやく。



「間違いない……」








 ――このあたりから先の記憶がぼんやりとし思い出せない。


 気がつけばここに座らされていた。




 何故手足を縛られているのか……


 ここはどこなのか……


 この物騒なアンドロイド兵はなんなのか……


 これからどうなってしまのか……




 何一つ把握できず、ルルはガクッとうなだれ必死に涙を堪えることしかできなかった。




 ガチャ――




 突然、部屋に一つしかない扉が開いた。


 部屋に入ってきた人物は身長二メートルはあるだろう巨体を持った男だった。


 男が入ってきた途端、部屋の空気が震える。


 アンドロイド兵たちは一瞬にして整列し、部屋は緊張感に包まれた。


 物凄いプレッシャー…… 邪悪なオーラのようなものを感じ、ルルはいつの間にか恐怖に震えていた。




 ――なんなのこいつ……!? この星の人間じゃ……ない……!?






 男は、低く、重く、地響きのしそうな声でルルに話しかける。


「よお。お前が女神の魂を受け継ぐ者か。こんな弱そうなガキとはな。」




 ――女神……? 魂……?




 この男が何を言っているのか。


 ルルには何も理解できず、何も言い返すことができなかった。




 男は、ルルに一番近いアンドロイド兵の方に向き直りこう言った。


「ちょっと小突くだけで死んでしまいそうだ。 なぁ?お前もそう思うだろ? はっはっは!!」


 アンドロイド兵はピクリとも動かず黙ったままだ。


 男は再びルルの方を向く。


 そして震えるルルの首をガシッとつかみ、顔を近づけ言った。


「まあいい。 お前にはこれからしっかりと働いてもらうからな。 逆らえば…… 痛い目にあうことになるぞ」





 ルルは涙を堪えきれずに泣き出す。



――どういうことなの!?働くってなに!? 




――もういや…… 嫌だよ…… 怖いよ……




――お母さん……




――誰か…… 




――誰か…… 助けて…… お願い……!!








「警報!警報! 侵入者発見!侵入者発見!」





 突然、部屋の中のアンドロイド兵が大きな声で騒ぎ出し、部屋の中で警報音が鳴りだした。


「ビル エントランスに侵入者! 戦闘員は急行せよ!」




 アンドロイドたちの知らせを聞き男は不敵な笑みを浮かべ言った。


「来たな。さあて…… お楽しみの時間だ。お前たちはしっかりこのガキを見張っとけ。オレはあいつを取ってくるからな」


 そう言い残し、男は一人部屋を出て行った。


 ルルには何一つ状況を呑み込めずただただ困惑するだけだった。




 そんなルルをよそに部屋の入口に向け慌ただしく防御陣形を取るアンドロイドたち


 その中で1体だけ、未だ微動だにしないアンドロイドがいた――







 ルルが拘束されているビルの一階エントランス。


 大勢のアンドロイド兵がビルの入り口に銃を向けていた。


 このビルは1階から最上階まで吹き抜けになっており、二階や三階から銃で狙いを定めるアンドロイド兵もいた。




 アンドロイドたちの銃口の先には一人の女性がいた。




 長い金髪に金色の瞳。


 見た目は二十代前半といったところか。


 映画の中のスパイ、あるいは某国の特殊部隊が着ているような黒いスーツと、様々な装備が入っているのであろうポーチを腰や足に身に着けていた。


 彼女のすぐ後ろには二体のアンドロイド兵が倒れていた。


 争い暴れまわったような形跡は一切なかったが、状況から彼女がこの二体を無力化したであろうことは明白だった。




 数百の銃口を向けられながらも動じず、彼女は鋭い眼光で一度だけ、あたりをぐるっと見渡す。


 無数にいるアンドロイド兵の中に一体だけいる色違い――恐らくコマンダー兵だろう――その個体が大きな声で彼女に言った。


「警告する!お前は危険人物と見なされた! 大人しく降伏しなければ、即刻発砲する!」




 それを聞いた彼女は一度浅く息をつき、耳に付けた無線機の相手に向かってこう呟いた。








「こちらレイ。 五秒後に戦闘を開始する。」








 次の瞬間。 彼女、レイの金色の髪と眼が微かに光り始める。




 そしてその両手に、何もない空間から双剣が現れた。




 何が起きているのか把握できたアンドロイド兵は誰一人いなかった。




 しかし彼女が降伏していないことだけは確かだ。




 コマンダー兵は手を振り上げ全員に向けて指示を出す。




「総員!! あいつを――」




 コマンダー兵が掲げた手を振り下ろし全員に発砲命令を、今まさに下そうとした瞬間。




 レイは姿を消した。




 厳密に言えば、その場にいた全員の視界から姿を消したのだ。




 ――何が起きた!? 彼女はどこに!?




 全員がキョロキョロとあたりを見回す中、3階にいた1体の兵が声を上げる。




「上だ!!」




 コマンダー兵がその声に反応し上を見上げた瞬間。




 上空から落下する勢いを乗せた、レイの鋭いキックがコマンダーに炸裂。コマンダーは頭が吹き飛び、何もできぬまま機能を停止した。




 全員が唖然とする中、レイはスッと立ち上がる。




 レイが立つその場所はもともとコマンダーのいた場所。周囲をアンドロイド兵にぐるっと囲まれている。




 しかしそのおかげで、レイの近くにいる兵はみな仲間への誤射を恐れ発砲することができない。




 レイの目論見通りだった。




 レイは双剣の片方をクルクルと回しながら言う。




「さあて。私に最初に攻撃してくる、この中で一番勇気のある機械はどいつだろうな?」




 一瞬、顔を見合わせるアンドロイドたち。




 次の瞬間。




 レイの背後側にいた兵が1体、レイに駆け寄り襲い掛かる。




 レイは待ってましたと言わんばかり。




 兵が近付いてくるタイミングに合わせて、思いっ切り回し蹴りをお見舞いする。




 兵は物凄い勢いで後方に吹き飛ばされ、まるでボウリングのように数十の兵を巻き込み弾け飛んだ。




「ストラーイク!」




 レイは楽しそうにガッツポーズした。








 目の前の信じがたい光景を見て呆気にとられるアンドロイド兵たち。









「う、撃て! 撃て―っ!!」




 このただ者じゃない侵入者を見て、アンドロイド兵を慌てふためきながら叫ぶ。




 発砲をためらっている場合ではないのは明らかだ。




 けたたましい音の発砲音が鳴り響く。




 四方八方の銃から放たれた無数のビームが、レイの“居た”場所に降り注ぐ。




 そう。彼女はもうそこにはいなかった。




 ――いない!? また消えたぞ!?




 数体のアンドロイド兵は、経験則から再び上を見上げる。




 ……が、どこにもいない。




 次の瞬間、2階で再び数十体のアンドロイドが吹き飛び宙を舞う。




「よし!さっきより七体多く吹っ飛んだな!」




 レイは完全に遊んでいた。




 兵の中の一体が動揺しながら言う。




「とても手に負えない……! き、強化兵を……! 至急! 強化兵を寄こしてくれ!!」




 目にも止まらぬスピードで移動しながら、手にした双剣で次々と兵たちを倒していくレイ。




 その動きの速さはアンドロイドたちの画像処理速度で追い切れるものではなかった。








 パニック状態の中、あっという間に兵の約半分が無力化されていた。







 ビルの吹き抜け一階中央に設置されている、よくわからないけれど高価そうなことだけは伝わる銅像の上に立ち、一息つくレイ。


「ふう。 ……もう少し派手にやらないとダメだったか?」


 そう言ってここまでの戦果を振り返る。







 と、次の瞬間ビルの吹き抜け高層階から、回転しながら新たな兵が降ってくる。




 その数五体。




 レイの立つ銅像の周囲を囲むように、その重さを現すかのように大きな音をたてながら着地する兵たち。




 今までの兵よりも少し大きく機械の甲冑を身にまとったような外見をしている。




 その手には三メートルはある大きく鋭い槍が握られていた。




 はあ~…… っと大きなため息をつくレイ。




 期待外れなのが来たな…… と顔にでかでかと描いてあるかのような表情を浮かべている。




 五体の新たな兵は槍を構える。




 すると次の瞬間、半透明なシールドがそれぞれの兵を包むように展開された。




 シールドに隙間はなく槍だけがシールドを貫通している。これならシールドで守られながら一方的に槍で攻撃できそうだ。




 おっ!というような表情に変わるレイ。




「へー…… 意外と面白そうなやつが来たな!」










 一方、同じビルの高層階の一室。


 低層階で大騒ぎの中、ルルは未だ手足を縛られたままだ。




 そんなルルの背後に立つ一体のアンドロイド兵。


 終始微動だにしなかったこの兵が、ルルに向けて手を伸ばす――


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