きみに会うための440円
大月クマ
片道切符
440円。
僕は、あまりその値段を意識したことはなかった。
〝君〟に会うために、K駅からS駅に向かうのには、いつも僕は定期券を使っていたからだ。
だけれど、長期の休みは定期の更新を忘れてしまう。
そんなときは、交通局と共同に使えるプリペイドカードを利用した。
裏側に、利用区間と使用料金が表示されていた。
いつも、440円が並んでいる。
〝君〟は僕の記憶が正しければ、年上のはずだ。
色白で背の高い〝君〟はいつもすました顔で、駅前デパートの軒下にいつも居る。
みんなが〝君〟を目的地としていた。
人の恋の駆け引き。
知らない商品の商談。
悪友達のたまり場。
その他いろいろ、〝君〟はいつもすました顔で、人の一喜一憂を目にし、耳にしてきたはずだ。
かく言う僕も、その中の一人だろう。
また〝君〟はこの地域での、ファッションリーダーだ。
衣替えをする度にニュースになる。
他の
高い身長の所為で、着替えは大変そうだけれど……。
みんなが、〝君〟の事を気にしているし、話題にしている。
しかし、僕は地元で就職して、地元に落ち着くと、電車に乗らなくなった。
当然、僕の生活からも〝君〟の存在が薄れていってしまった。
そんなある日。
ふと、〝君〟のことがニュースに出ていた。
駅前デパートの建て替え工事のために、〝君〟の処遇がまだ決まっていないという。
なんとなく、僕は〝君〟に会いたくなった。
久しぶりに乗った電車は、真っ赤な車体から、
そして、ICカードに対応した自動改札の表示は、500円を指していた。
きみに会うための440円 大月クマ @smurakam1978
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