第4話
だが良輔は諦めなかった。
歴史が大きく変わらないような、何らかの力が働いている事はわかった。恐らくは加奈が死ぬことが当日の間であるならば、まだ歴史の柔軟性にも融通が効くのだろう。
ならば、その柔軟性を超えてしまえば、加奈は助かるはずだ、と良輔は考える。
「過去に着いてから行けない場所なら、こっちがはじめから行けばいいんだ」
そういうと良輔は、すぐにタイムマシンの改造に着手した。タイムマシンは大量の電力を使う為、据付型だ。それを運搬できるように改造する。図らずとも、なんの物質でできているかわからないが、タイムマシンは見た目に反してとても軽い素材で構成されているようだった。
この改造には、さらに3年の歳月を必要としたが、良輔はあまり気にしていなかった。タイムトラベルは待ってくれるのだ。
その改造の合間に加奈の家に行ってみた。
燃えた土地はそのまま放置されていた。十何年の間に家は朽ちてしまったが、うっすらと残る焼け跡や家の基礎が雑草の中から見え隠れする荒れ地になっていた。
その際にも、何とか加奈の親に連絡を取ろうと試みたが、行方がわからなくなっていた。もう20年近く経つ。年齢を考えれば、この世にもいなくてもおかしくないのだ。
ただ、この状況は良輔にとって好都合だった。次のタイムトラベルでその土地が下手に新しく建て直されたりしていると当時の物質と干渉する事が懸念事項だった。
しかしこの状態であれば問題は少ない。そして邪魔も入らないだろう、と判断した。
その日の深夜、良輔は遂に完成したタイムマシンを、あの放置事故で当時の両親が買い直した車に積み込み、加奈の家だった場所に移動した。
以前にも何度か、加奈の家にはお邪魔した事がある。加奈が家族は今、お父さんと2人なんだ、といって案内された家は少し広かったように思う。
良輔はその時庭に何もない場所があった事を思い出し、そこにタイムマシンを設置することにした。タイムマシンは大型バッテリーを搭載する事で問題を解消した。しかし過去に滞在できる時間は40分程に短縮されてしまったのだ。
「据え置きより移動時間を考慮すれば、実質的には前より長く活動できるようになったな」
そう言いながら、庭に置いたタイムマシンに乗り込み、起動ボタンを押す。行き着く時は、2016年10月20日午前7時。もしかしたら燃え始めている頃かもしれない。良輔はタイムマシンから見える世界が再び明るくなるのを待った。
しかし、良輔の予想は外れたことを知る。
加奈の家は、もう燃えてしまった後だった。黒い柱が立っているだけしかない、スカスカの家。二階建てだった加奈の家にはそこにあった燃え滓でしかない、炭の山が積まれていた。
「これは・・・なんでこんな事に」
良輔はかつて加奈の家だった場所に入っていく。10月20日の間に加奈を捕まえる事が出来れば、自分の勝ちだと思っていた。きっと加奈の死はその20日である1日間に縛られているとも考えていた。
しかしその予想を裏切り、この燃えた家の炭化の状態は既に冷え、風雨で崩れているものもあり、昨日今日燃えたものではないことは明白だった。つまり、10月19日の夜、といった数時間単位の結果ではなく、それ以上の時を遡って加奈はいなくなってしまっている。
加奈がどうなったか、その答えはもう良輔の中で出ていた。元の時間に戻ってみれば、悲しい現実を突きつけられるだけだろう。
「何故、俺は助ける事ができない」
地面に手向けられた花の一部は茶色く変色していた。この花もどのくらい前に添えられたものだろうか。少なくとも1週間は経っているだろう。
良輔は時間に、運命に負けた気がするこの場所にあまり長居したくなかった。そしてタイムリミットが来るかなり前に、タイムマシンに乗り込み、力なく元の時間へ戻った。
そして丸まって投げ捨てて、床に転がっていた新聞紙を丁寧に広げて記事を読むと、火事の記事はどこかの祭りの記事に変わっていた。この新聞のこの日はもう、加奈は既に死んでしまって載せる理由もなくなっている日なんだろう。
良輔は例え次に火事となった過去に行っても同じように結果は得られず、良輔の手から逃げるようにまた違う時間、違う場所で加奈が死んでいくのではないかと考えて始めていた。
良輔は諦めなかった。時間を跳躍し、少なからず運命は変えてきたのだ。加奈を止める方法はきっとある。そう信じて疑わなかった。
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