サムライエッジ──機械の少女は人の夢を見るか──

尻切蜻蛉

【Babylon】

 けばけばしい光を放つネオンの看板。こちらに向かって真っすぐ飛んでくるそれを、体を横に逸して回避する。


「無駄だ、抵抗するな」


「くっ……! しつこいガキねっ!」


 続いてその勢いのままビルの壁に飛び移り、足裏を硬いコンクリートの壁に押し当てる。

 壁に着地した瞬間、足裏に伝わるのは衝撃ではなく奇妙な浮遊感だ。


 電磁力発生装置がもたらす独特の揚力。

 それを蹴り落とすように足を動かし、夜の都会に聳え立ったコンクリートの塊を登って行く。


 その先には二枚目の看板を、素手で壁からむしり取る女の姿があった。

 先ほどと同様、看板を投げて攻撃するつもりらしい。


 女の格好は一言で言えば娼婦が着るような艶めかしい格好だった。

 全身を覆う黒いスーツは、まるで彼女の起伏に富んだボディラインを見せつけるかの如くタイトで、所々に赤色のスリットが差し込まれている。


 しかし強化カーボンで作られたそれは非常に頑丈で、そのふざけた見た目とは裏腹に戦闘用のバトルスーツとしては一級品の性能だ。


「こっちもビジネスでやってるの。坊やのヒーローごっこに付き合ってる暇は、ないっ!」


 言い切ると同時に看板を投げる。

 およそ人間技とは思えぬ膂力りょりょくだが、それを可能にするのは彼女のほぼ全身に施されたサイボーグ手術の賜物たまものだった。


 全身の筋肉を強縮性カーボンナノチューブに置き換えた、機械化歩兵リバーサー

 元はとある小国が軍事用に開発した倫理的に問題のある技術だったが、十数年前の紛争で技術の流出が起こり、今ではマフィアなどの非合法組織がその恩恵を受けていた。


 彼女、エルリエ・10テンルットもその一人である。


「観念しろ、エルリエ。さっさと情報を渡せ」


 青年は飛んでくる看板を真正面に見据え、無駄のない動作で回避し、更に一際大きく跳躍する。


 飛び込んだ先にはビルの屋上で待ち構えるエルリエ。その姿は艶めかしい女性型自立機フィノイドの娼婦を思わせる美貌だが、今はマフィアのエージェントらしい凶悪な顔つきで、自分の邪魔をする青年を睨みつけていた。


「それ、私が大人しく言うことを聞かないって分かってて言ってるでしょ!? 本当、可愛くないガキ!」


 エルリエの罵言を無視し、空中で左腰のアタッチメントに手を回す。

 そこには細長い長方形の物が後方に突き出すように取り付けられていて、随所に空いたスリットからは青白い光が瞬いている。


 それは鞘だった。サイバーチックな長方形の先端には刀の柄のような物が飛び出していた。


 柄を握り、少しだけ引き抜き鯉口を切る。スリットから滲んでいた光と同質の煌めきが、鞘の隙間から瀑布のように漏れ出す。


 宵闇の中、その光に照らされて彼の姿が空中に浮き出ていく。


 額から口元までを覆う鋭角なバイザー。筋骨隆々とした肉体は、しかし金属の輝きを放っていて、それが強縮性カーボンナノチューブで造られた人工筋肉である事を語っていた。


 身体の各部に取り付けられた黒色のアーマーは強化カーボン製。エルリエの義体とは違い、戦闘用に特化したその義体は靭やかで獣の如き膂力を備えている。


 居合いのポーズで空中に飛び上がった彼の姿は、今まさに獲物に飛び掛からんとする狼の如き鋭さを秘めていた。


 そして今、左腰から巻き上がる青白い光と共に彼の代名詞とも言うべき、その刃が振り抜かれる。


「くっ……こんな所でやられるのはゴメンよ!」


 エルリエが背中に隠し持っていた鉄パイプを振り投げる。

 先ほど看板を剥ぎ取る際に、ついでに背中に忍ばせていた物だ。


 何の変哲もない建築材でも強化人間リバーサーが全力で投擲とうてきすれば、それは人工筋肉の過剰なまでの膂力によって兵器と化す。


 エルリエと青年の距離は僅か10メートル程。

 こんな近距離から銃弾の如きスピードで向かってくる鉄パイプを回避するのは機械化歩兵リバーサーでも至難の業だ。


 それも空中に飛び上がった状態では、まともな回避行動すら取れないだろう。


 だが青年は超高速で迫ってくる鉄パイプを気にする素振りはない。

 むしろ自分から鉄パイプに──その向こう側にいるエルリエに突っ込むような速度で跳躍し続ける。


 そして鉄パイプと青年が極限まで近づき、そのバイザーに鉄パイプとエルリエの姿が映り込んだ、その瞬間。


 ついに左腰の刀が振り抜かれる。


「──抜刀」


 荒れ狂う瀑布の如き煌めきを持って、光の刀がその姿を表した。

 夜の暗闇の中で鮮烈な程に輝く銀色の刃は、その表面に幾何学模様のディテールが施されており、そこから滲む出た青白い光が刃全体を覆っている。


 苛烈なる侍サムライエッジ──。それが青年の、ヒーローとして皆が呼ぶ彼の名前だった。


 刹那。刃を握った右手を光速で振り抜く。東洋の戦士が振るったとされるカタナソードを模して造られた刀剣、曙光デイブレイカー


 夜明けを告げる光の名を冠したその剣は、まさしく光の如きスピードで振り抜かれた。

 放たれた斬撃は鋭い光の刃となり、サムライエッジとエルリエの彼我の中間を青白い光で塗り潰す。


 鉄パイプをいとも容易く切断したその光は、そのままエルリエの胴体を切り裂いた。


「……あっ……ぐっ……!」


 傷口からは断ち切られた赤黒い人工筋肉の束が垂れ、それを動かしていた真っ黒な人造血液B・ブラッドが漏れ出る。


 目を見開き、信じられない様子で自分の体をまさぐるエルリエ。

 人工物でありながら生物的なグロテスクさが覗く傷口を、必死に手で抑えている。


「クソっ! ……私がこんなガキに……っ」


 彼女の胴体はほぼ切断されかけていた。頑丈な機械化歩兵リバーサーとはいえ、生命維持に必要な動力炉などは人間の臓器と同様、胴や胸に搭載されている。


 少なくとも自力でここから移動するだけの余力は、彼女には残っていないだろう。


 膝を突き、恨みの籠もった瞳を向けるエルリエ。

 サムライエッジは刀を鞘に納めながら、エルリエに一歩ずつ近付く。


「さて、どうする? こっちは情報を手に入れられるなら何でも良い。お前の頭部をハックして情報を抜き出しても構わないが」


「……っ、分かったわよ!」


 エルリエは観念した様子で、懐から親指大の物を取り出す。

 現在良く出回っている情報記録媒体デバイスである。


 滑らかな質感の金属で出来た長方形のそれを自身の右目の前にかざす。

 すると眼球からレーザーのような光線が現れ、まるで情報記録媒体デバイスに吸い込まれるように集まって行く。


「最新の複能眼球リムーバーか。よほど儲かってるみたいだな」


「ふん。坊やに邪魔されなきゃ、今日だけでこの眼球が数千個は買えるくらい儲けられたんだけどね!」


 記録の移行が済んだ情報記録媒体デバイスをこちらに放り投げるエルリエ。

 それをスマートフォンに接続し、すぐに中身を確認する。


 どうやら本物のようだ。スマートフォンの画面にはエルリエ曰く、最新の複能眼球リムーバーが数千個は買えるという、価値のある情報──とある座標が表示されていた。


「確認した」


「……じゃあ、私のことは放っといてどこにでも行けば?」


 諦めの入った表情で言い捨てるエルリエ。右手で傷口を抑え、空いた方の左手を左耳に当てる。

 救援を呼ぶつもりだろう。


「そうしたいが……まだ仕事が残ってる」


 サムライエッジが再度鯉口を切る。次の瞬間──。


 何かが断ち切られる音。次いでビルの屋上に何かが転がる。


「……えっ」


 コンクリートの床に転げ落ちたのは人間の左腕だった。

 いや、表面を覆う金属質の滑らかな質感は、生身の人間の腕ではなく機械化歩兵リバーサーの物だ。


 断面からは黒々とした人造血液B・ブラッドが夥しく流れ出ている。


「なっ……情報は渡したじゃない!?」


 腕を切り落とされたエルリエは只々驚愕していた。それは自分の左腕が無くなった事に対してではない。


 戦闘に参加する機械化歩兵リバーサーであれば四肢の欠損は日常茶飯事だ。

 多くの機械化歩兵リバーサーは痛覚をシャットオフしている為、腕が斬り落とされてもそこまで動揺する事はない。


 彼女が驚いているのは、最早まともに戦えない自分に何故こんな事をするのか、という事に関してだった。


「お前を生かしておけば、また同じ事をするだろう」


 振り抜いた曙光デイブレイカーをエルリエの眉間に当てる。

 殆どの生物の急所である頭部は、機械化歩兵リバーサーにとっても生身の脳が搭載された大切な部位である。


 ここを破壊されれば、どれだけ機械化を繰り返した機械化歩兵リバーサーであっても死ぬ。


「っ、お願い! 命だけは──」


 三度みたび、青白い光が瞬く。


「害虫の命乞いなど聞く必要はない」


 眉間を刺し貫かれたエルリエは驚愕の表情を浮かべたまま、うつ伏せに倒れ伏した。

 サムライエッジは時折、微かに痙攣するそれに一瞥をくれ、もう興味はないと言わんばかりに踵を返す。

 

 刃を納め、先ほど手に入れた座標を改めて確認する。

 漢字とアルファベットと数字がランダムに入り乱れたその文章は、高度な暗号化が施された証だった。




─────────────────────




「ほう、お前さんが純粋な人助けとは珍しいな」


 メインストリートから一本外れた、怪しげな店が立ち並ぶ路地裏の一角。

 一見、小汚い商店に見えるその店の暖簾をくぐると、その見た目とは裏腹に意外な程、小綺麗な店内が姿を現した。


 入口の正面にはカウンターがあり、その奥には円筒形のメンテナンスポッドに入れられた無数の義肢や義眼が棚に置かれている。


「人助けじゃない。害虫を一匹殺しただけだ」


「おいおい。もうちょっとヒーローっぽく振る舞ったらどうよ? サムライエッジって言えばここ害性特区セスプール・オブ・イビルの英雄様だ。そこそこファンもいるみたいだぜ」


 無精髭を生やし作業着を身に着けた男が、ニヤついた顔をカウンター越しに向けてくる。

 職人気質だが口数が多くお節介。だがその腕は一流、というのがこの店のマスター『アダン』の概ねの評判だった。


「んでよ、その倉庫の中に居たっていう大量の女性型自立機フィノイドはどうしたんだ?」


「元の所有者に座標を送って回収させた」


「おいおい……お前、本当に真面目だな。一体くらい掻っ払ってきてもバチは当たんねぇだろ。こいつのメンテ代だって安かねぇんだ」


 呆れた様子のアダン。話をしながら両手で弄くっているのはサムライエッジの愛刀である曙光デイブレイカーの刀身だ。

 戦闘時に纏っていた青白い光は姿を隠し、幾何学模様のレリーフが走るその刀身に、アダンの右手が──義手が触れる。


「はん、相変わらず殺しの腕は良いな。刀身へのダメージが少ねぇ。ちょっと待ってな……この分なら数分で終わる」


「分かった」


「……ところで、お前さん今日はやけに臭いな。ああ、人工血液B・ブラッドの臭いじゃねぇ。なんか甘ったるい臭いだ。女の香水みてぇな……」


「……倉庫の中で少しトラブルに巻き込まれた、それだけだ」


 少し言い淀んだサムライエッジ。バイザー越しに発した声はどこか困惑の色を帯びていた。

長年の付き合いになるアダンも、こんな様子のサムライエッジを見るのは初めてだった。


「まっ、良いけどよ」




────────────────────




「おっそーいっ!!」


 店を出たサムライエッジを待ち構えていたのは、大声を上げるメイド服姿の少女だった。


 活発そうにキョロキョロと動く青色の瞳。その上で切り揃えられた金髪は、路地裏の薄暗い明かりで照らされているとは思えぬ程、煌びやかに光っている。


 後ろ髪は首元まで伸ばし、白を基調としたメイド服はいかにもジャパンのアニメに出てきそうな可愛らしいデザインの物だった。


 その顔立ちは誰が見ても美少女と評すであろう整った作りだ。


「レディをこんなに待たせるなんて、紳士のする事じゃないわよ?」

 

 その両手にはヤキトリやアメリカンドッグが握られていた。

 恐らく周辺の屋台で買ってきたのであろう。買い食いをするその姿は、いかにも年頃の女の子のように見える。


 しかし、彼女は人間ではない。


「フィノイドは食事を取らなくても良いはずだが」


「だから私はフィノイドじゃないの! 身体は機械だけど、頭の中身は人間! なんですからね!」


 エルリエから入手した座標には、とある運送会社からコンテナごと強奪された出荷予定のフィノイドが約千体、スリープモードで保管されていた。


 同じ髪色、同じ顔、同じメイド服。主に給仕や色事をさせる為に造られたフィノイドが無数に並ぶコンテナ。


 その中で一体のフィノイドと出会った。他のフィノイドと同じ見た目をしているが、唯一スリープモードを解除されていた個体。


 同じ相貌のフィノイドが立ち並ぶ中、自分と同じ見た目をした彼女たちを興味津々に観察する一人の少女。


 そして、彼女はサムライエッジを見付けると無駄に自信満々な表情で、こう言った。


 ──自分はフィノイドではない、と。

 無数の姉妹が立ち並ぶ中でそう言ってのけた彼女は、確かに無個性なフィノイドとはかけ離れた姿だったように思える。


「……にわかには信じられんが、確かにお前がフィノイドだと考えると起動直後にしては言語機能に癖がある。無駄に喧しいしな」


「……なんかムカつくけど、信じてくれる気になったのなら、まぁ良いわ」


 腕にかけていたビニール袋からタコヤキを取り出す彼女。既にヤキトリとフランクフルトは会話の最中に平らげていた。


 いや、ヤキトリとフランクフルトだけじゃない。ビニール袋の中にはソースの付いた容器や、ブリトーの包み紙などがしまわれていた。


「……お前、金はどうした?」


 念の為、コンテナから抜け出す前にスキャンした時は、何も持っていなかった筈だ。


 すると、彼女は右腕の手のひらを大きく開いてこちらに突き付けてきた。


 生身の人間と見紛うほど精巧に造られた人造の手のひらには、僅かに光る青色の瞬きが見てとれる。


「ちゃんとフォトン・ペイで払ったわ。私こう見えてもお金は持ってるの。何なら奢ってあげましょうか?」


 自慢気に見せつけてくる手のひらから、六桁程の数字が柔らかな光で浮かび上がっていた。

 恐らく彼女の電子マネーの残高だろう。


 現在トップシェアの電子マネーであるフォトン・ペイは、大手企業はもちろん、ここのような場末の屋台にも普及していた。


「お前、いったい何者だ? 何故コンテナに居た? 何故あのフィノイド達と同じボディを持っているんだ?」


「最初に言ったでしょ? 私、記憶がないの。あのコンテナで貴方と出会う前のことは何一つ覚えてないみたい」


 そう伏し目がちに言う彼女は、先ほどまでの活発な表情とは打って変わり、酷く困惑しているように見えた。

 ……タコヤキを食べながらなのであまり深刻そうには見えないが。


「……そうか。とりあえず今日は遅い。お前の事はまた明日にでも──」


「そのお前って呼び方、ちょっとイヤだわ。ちゃんと名前で呼んでくれない?」


 彼女は少し怒った様子で、こちらにツマヨウジを突き付けてくる。

 コロコロ表情が変わるのも、起動直後のフィノイドでは到底あり得ない事だ。


「だが記憶がないんだろう? 肝心の名前が分からなければ呼びようがない」


「ふふん、安心しなさい! 名前ならちゃんと覚えてるわ! というか私もさっき知ったんだけど」


 そう言って先ほどと同様、右の手のひらを見るよう促してくる。

 そこにはアカウントのページらしき項目が写し出されており、その一番上には彼女の名前が載っていた。


「ルツィア・クーフェン。聞いたことの無い響きだな。名は西洋人の響きに似てるが、姓はアジア人に近い」


「ふふん、良い名前でしょ? 私さっき知ったばかりだけど、この名前気に入ったわ! 貴方もちゃんとルツィアって呼んでよね」


 途端に上機嫌になったルツィアを尻目に、少し思案する。

 目の前の少女は明らかに人間だ。少なくともスリープモードから解除されたばかりのフィノイドは、ここまで感情豊かな行動は取らない。


 それにフォトン・ペイのアカウントがある事から、以前は普通の人間として生活していたのは確かだろう。


 恐らく何らかのトラブルに巻き込まれたのだろうか?

 だがこんな少女を機械化するメリットが、いったい何処の誰にあると言うのか。


 彼女が居たコンテナの情報を、エルリエが持っていたのも気になる。

 奴らマフィアにとって情報は売る物であり、当然その情報を買う連中がいた筈だ。


「ねぇねぇ、腹ごしらえも済んだし、早く貴方の家に連れて行きなさいよ。私こんなに歩き回って疲れちゃったわ」


「金があるならホテルを取ればどうだ?」


「まぁ! 記憶喪失のいたいけな女の子を一人っきりにするつもり?」


「……分かった。今日は俺の家に泊まっても良い。ただしベッドは──」


「ほらほら、早く行きましょ!」


 俺は戦闘用の義体しか持ってないから家にベッドはないぞ、と言いそびれたサムライエッジは、ルツィアに押されるようにして家の方向に歩きはじめた。




──────────────────────




「彼女はちゃんと届いたか?」


 高層ビルの最上階。カーテンを閉めきった室内に、男達の声が響く。


「ああ、届いたはずだ」


 それは嗄れた肉声のようで、だがどこかノイズの混じった合成音声にも聴こえる異様な声。

 そして奇妙なことに男達のいずれもが、同じ声を発していた。


「ミスは許されぬ。あれは落し子、正しく使わねば我らにも跳ね返りが来よう」


「然り。だが、だからこそ使いようもある」


 一枚板の重厚なテーブルに置かれたロウソクの火がフッと揺れる。

 旧時代の光源に照らされた室内に淡々と響く声。


 重々しく交わされる言葉の数々はどこか不穏で、それでいて同じ声で議論するその様はどこか滑稽だった。


「まぁ、なるようになるさ」


「既に仕込みは終わっている。あとは結果を待つしかないだろう」


 同一の声に、複数の声色を乗せて会話は続く。


「サムライエッジ、あれも中々に使える」


「ただなぁ……この街であまり好き勝手をされちゃ困る」


 カーテンを開けるとロウソクの灯りしかなかった室内に、外からの光が差し込んでくる。

 だが、それは太陽光ではない。


 時刻は既に午後10時を回っており、空は真っ暗だった。

 だというのにその遥か下にある都市は昼間のように活気付いている。


 男達のいる建物の向かいの高層ビルは煌びやかにライトアップされ、その屋上ではナイトプールで遊びふける若者達が騒いでいた。


 その他の建物もあちこちで光と音を撒き散らしている有様だ。

 男達は深くため息をつき、それらから視線を外す。


「……この街も騒がしくなってきたな。ここらでさっぱりとさせようじゃないか」


 漏らすように発した言葉に、返事をする者は一人も居なかった。

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