菫ちゃんの令和初めの日
七条ミル
令和元年五月一日零時
なんだか時報というのを久々に見た気がした。デジタル放送じゃ変換の時間で誤差があるから意味無い気がするのだけれど。
「あー、令和に変わったな」
「うん」
翔伍がぽつりと呟いた。でもだからといって何が変わるわけでもなくて私は翔伍のやや固い太ももに頭を預けた。
「菫って時代変わってもそういうところ全然変わらないよな」
「好きだし」
「かわいいことするなよ。恥じらいって概念画あってだな」
翔伍が私の脇に腕を回してそのまま持ち上げた。すとんと翔伍の脚の上に座って、翔伍は今度は私の胸の下あたりに手を回した。別に胸でもいいけど。
「令和元年最初の日くらい休ませろ。身が持たんわ」
「…………ごめん」
「いや別に責めてるわけじゃないけどさ。だからと言ってするとは言わないけど」
「けち」
「毎日三回がケチと申すか」
翔伍は私をどけて、立ち上がった。私もそれに続いて立ち上がって、翔伍の後ろに続いて水道の前に向かった。
歯を磨いて、いつの間にか一組しか出さなくなっていた布団に二人で一緒に潜りこんで、令和最初の睡眠を楽しむことにした。今日は、頑張って欲を抑えようと思う。――欲望に忠実に生きてきたからちょっと怪しいけれど。
「なんか暑くね?」
「うん」
「離れたくないか、そうか、なら仕方ないな。うん、まあ、俺も離れたくはないよ。ああ、そう、眠そうだな。寝るか」
「うん」
どうも、翔伍はすぐに私の心を読むから。
若干欲もあるが、それを差し引いても寝れるほど眠いから、寝ようと思った。
「そういえば菫ぇ、令和の色、梅と桜と菫だって。菫の時代来るってよ。本、売れるといいな」
「重版」
「マジ? かかったのか。はー、感謝しないとなぁ。」
「でもさ」
「うーん、まあ慥かに自分の時代ってなんか恥ずかしいよな。俺ら皇族でもなんでもねぇし。でも菫って苗字宮華だろ、どっかで関係あったりするんじゃね?」
「わかんない」
家系図とかどこにあるのか知らない。
「うーん、寝るか」
「うん」
「おやすみ、菫」
「おやすみ」
菫ちゃんの令和初めの日 七条ミル @Shichijo_Miru
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