地球最後の日の朝食が味噌汁でいいのだろうか?

楠樹 暖

地球最後の日の朝食が味噌汁でいいのだろうか?

 目が覚めると味噌汁の香りがした。

 地球最後の日の朝食が味噌汁でいいのだろうか?


 キッチンでは昨日泊まった彼女が目玉焼きを焼いていた。

「今朝はフレンチトーストを振る舞おうかと思っていたのに」

「寝坊する方が悪いんでしょ」

 いつも僕の朝食はパンで彼女は和食だ。彼女が泊まった翌朝はどちらにするかでよく言い争いになる。

 フレンチトーストを作るために用意していた玉子は形を変えて白いキャンパスの満月となった。

 炊き立てのご飯の湯気が鼻孔をくすぐる。

 テレビのニュースは地球に衝突する小惑星の話題で持ちきりだ。

 ケプラーの第1法則に縛られた小惑星が太陽を焦点とした楕円軌道を描き、地球とのコリジョンコースを突き進む。

 そして計算では今日地球に衝突する。

 今日は地球最後の日なのだ。


 テレビのニュースが食の始まりを告げた。小惑星が太陽を遮っているのだ。

「さぁ、平成最後の天体ショーだ。生で見ないとね」

「【平成最後の】じゃなくって【地球最後の】でしょ?」

 二人でベランダに出て、黒いレンズで太陽を覗く。

「思ったより小さいのね」

 ジャガイモのようないびつな塊が丸いお日様の顔に黒い染みを残す。

 無精ひげを蓄えたまま顔も洗わず僕は彼女に言った。

「ねぇ、明日生きていたら結婚しようか?」

「なにそれ? 死亡フラグ?」

「返事はどっちなの?」

「……明日の朝はフレンチトーストが食べたいわ」


 地球最後の日の朝食が味噌汁でいいのだろうか?

 構やしない。明日の朝食はフレンチトーストだ。

 願わくは、これからもずっと彼女の作った味噌汁が飲めますように……。


(了)

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